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【第58話】力の代償




 唐突に出てきた()()()と言う単語。

 何を意味するのかは分からないが、あの時ルーナを助けた事に関係があるのか?



「カラスを描いて、わたしを助けてくれたじゃん!

 お、覚えてないの?」


「わたくしから説明しましょう。

 ナツメ君、鳥は分かりますね?」


「え? はい分かります……」


「では鳩は?」


「無論、分かります」



 当たり前のような事を聞いてくる。

 その後も鳥の種類を何個か聞かれたが、特に珍しくもない物ばかりだったので普通に答えた。



「では最後に、カラスは分かりますか?」


「わ、分かりません……」


「でしょうね。まぁ、焦らずに聞いてください。

 ナツメ君、貴方は現在カラスに関する全ての記憶を失っている状態です」


「…………はい?」



 え、何それ? いや言ってる事は分かるよ?

 分かるんだけど、分からない。



「ナツメ君、わたくし達図書館長を務める者には色々な特権や能力があります。

 代表的な物がこの筆や、わたくし達でしか異形に止めを刺せない事でしょう」



 ここまでは僕でも知っている。

 ただ、ここからは僕の知らない事実だった。



「わたくし達の種族が半神類デミゴッドと呼ばれている事は教えましたね?

 あの時は教えませんでしたが、半人類の能力の1つとして、『創造』の力があります。

 筆で描く武器が(まさ)しくそれですね。そしてそれは、()()も例外ではありません」


「もしかして、記憶と引き換えに?」


「聡いですね……その通り。

 神であれば無条件で命を創り出せるでしょうが、わたくし達のような半端な半神類にはそれなりの代償があります。それが、『記憶』という訳です」



 だからカラスという単語が分からなかったのか。

 さっきの話から察するに鳥の一種ある事は分かるけど、今だってどんな生物かはピンと来ない。



「勿論、教える事は容易い事でした。しかし、この技ありきの戦術を考えて欲しくなかったのです。

 どんな些細な事でも、記憶とは尊い物。

 それを安易に犠牲にしてはいけない、と言うわたくしの考えの押し付けに過ぎません。

 ですので、くれぐれも戦術の幅が広がったとは思わないでください」



 僕を心配しての事だったら、そんなに申し訳なさそうにしなくてもいいのに……

 僕だってポンポンと記憶を失う戦法は使いたくない。



「僕も記憶を代償になんて嫌ですよ。

 でも今回のは、多目に見て欲しいなぁって……ね?」



 さり気なく、ルーナにアイコンタクトを送った。

 すると、何かを察した様に援護してくれる。



「わたしの事も助けてくれたしね!

 ねぇリオ爺さん、ナツメ君を叱らないであげて?」


「とんでもない。最初から叱るつもりなんて、毛頭ありませんよ?

 それにナツメ君は知らずの内に力を発見しました。

 未知を自らの力で開拓したのです。賞賛に値しますよ」



 そう言ってリオ爺は優しく笑って見せた。

 その笑顔はかつての祖父を彷彿とさせ、入院していた頃の思い出が鮮明に蘇る。



「……また会えるかな」


「ナツメ君、何か言った?」


「ううん、何にも。それより早く帰りたいかな。

 ルーナ、肩貸してくれる?」


「勿論いいよ!」



 ルーナはヒョイ、と自分の肩に僕を担ぐ。

 僕の思っていた肩の借り方じゃないけど、まぁいいか。



『そして物語は幕を閉じる』



 人魚姫の物語からやっと出られる。

 しばらく磯の香りはご馳走様かな……






 帰りの魔法陣を抜け、禁書庫に帰って来た。

 あぁ、心地良い古本の匂いだ。

 この匂いを嗅いで、ようやく安心感が心を満たす。



「ナツメ君は動けますかな?」


「はい、お陰様で……」


「では、お2人は先に休んでおいてください。

 わたくしはアルバやオラシアに報告して来ますので」


「「はーい」」



 リオ爺は足早に去っていった。

 今気付いたけど、ルーナも僕もびちゃびちゃな上、とんでもない磯の香りじゃないか……



「部屋のシャワーでもいいけど、今はガッツリ肩までお湯に浸かりたい……」


「わたしも浸かりたいよ。

 ナツメ君……一緒に入る?」


「っ!? だっ、だだだダメだよ!」


「冗談だよ〜」



 ルーナはあどけなく笑っているが、心臓に悪い冗談は止めていただきたいな。

 僕も少しだけ想像してしまったじゃないか。

 最近、ただでさえ少し意識してるのに……



「お風呂は早い者勝ち! お先に〜!」


「あっずるい! 僕だって入りたい!」



 ルーナを追いかける様な形で禁書庫から家へと向かう。


 お風呂に入る時の必須アイテム、桶、石鹸、シャンプーとバスタオルを持って扉の前で座り込む。

 出遅れた僕は案の定ルーナに先を越され、今は『使用中』の掛札が掛けられた大浴場が空くのを待っている。


 今思ったけど、いつも何気なく使っている石鹸とか、食べている物とか、何処で調達してるんだろう?

 また今度、誰かに聞いてみるか……

 そんなくだらない事を考えていると、脱衣所に繋がる扉がガララっと開く。



「お先でした! ふぅ、さっぱりした!」


「やっと出たよ、じゃあお風呂交代ね」


「ごゆっくり〜」



 さて、この纏わり付いた汗と磯の香りを流すとするか!

 心做しか、かなりお腹も空いている。

 祝勝会するとかも言ってたな……


 祝勝会に並ぶであろうご馳走を想像しながら、ゆっくりと体の疲れを癒した。




読んでいただき、ありがとうございます!


この作品いいな……と感じた方は評価やいいねをしてみてくださいな!


お時間があれば、感想やレビュー何か書いていただけると踊り出すほど喜びます!


次回をお楽しみください!

次回は祝勝会?


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