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【第57話】末妹に捧ぐ慟哭⑤




 本来動くはずのない、描かれた生物が羽ばたいた。

 漆黒の鳥は僕の意思のままに、真っ直ぐルーナへと向かって行く。



『カァ"ァ"!』


「わ、きゃっ!?」



 鳥を放った数秒後に、トリトンの三叉槍がルーナに向けて投げらる。


 飛び立った鳥は見事にルーナの服を鷲掴み、凄まじい速度で槍の軌道から逸らしてくれた。

 三叉槍からルーナを逃がした後は、使命は果たしたと言わんばかりにバシャっとインクに戻る。



「ありがとうナツメ君。

 いや、すっごくありがとうなんだけどさ……」


「なんか、ごめんね?」



 鳥がインクに戻った時に、そのインクがもれなくルーナに降りかかって、べったべたになっていた。

 でも、助けられて本当に良かった。

 それと──。



「万年筆…なんだ」


「ホントだ! それがリオ爺さんの言ってた『あるべき姿』ってやつなの?」


「たぶん、そういう事だと思う」



 詳しくは分からない。

 僕だって困惑している最中なんだ。

 でも、確かに手に握られているのは万年筆。

 これが、あるべき姿なのか……



「万年筆の観察は後にして、今はあっちに集中しようか」


「そうだね! パワーでねじ伏せよう!」



 うん、元気なようで何より。

 ただそれはそれとして、どうするかな。

 三叉槍をルーナに向けて投げたという事は、それなりにルーナを警戒しているという事だ。

 ルーナをメインで動かすと、次こそは最悪の事態になるかもしれない。



「おやおや、羽ペンが……そうですか。

 わたくしも心よりお祝いしましょう。

 さぁお2人共、あのデカブツを沈めて図書館で祝宴を開きますよ!」


「「はい!」」



 僕が大斧で与えた異形への裂け目はまだある。

 箇所によっては繋がりつつあるが、これを利用しない手は無いだろう。



「リオ爺はトリトンの部分と鯨の部分を切り離す事は出来ますか?」


「ナツメ君が付けた傷がかなり深いようですので、わたくしの腕力であれば充分でしょう」


「ルーナは引き続き、僕のサポートをよろしくね!」


「うん、何でも言って!」



 3人で一斉に動き出す。

 リオ爺は異形の真横に陣取り、描き持った刀で応戦。

 僕は細い糸を描いて、トリトンの隙を見極めながら慎重に腕に絡める。



「ルーナ!」


「オッケー!」



 僕が絡めた糸をルーナの戦鎚に結び付け、勢いよく引っ張って貰う。すると、糸が絡まっていた箇所は見るも無惨な状態になった。

 ズタズタになった右腕の破片は、そのまま海の波に呑まれて沈んで行く。



『■■■■■■■■■■■!!!』



 トリトンが最後の足掻きを見せる。

 両腕が無い為、もう暴れる事しかできないらしい。



「言葉は通じぬが、暴れるのであれば容赦はせん!

 如何なる理由があれど、物語の秩序を乱すのであれば屠るのみ!」



 腰が入ったリオ爺の斬撃が、トリトンの右横腹を的確に捉える。

 鯨の下半身からトリトンの上半身が切り離された。

 そこにすかさずルーナがとびこみ、切り口が再生しないように上半身を完全に別の場所まで殴り飛ばす。

 そして、最後は僕の仕事だ。


 海に落ちた上半身の上に乗り、その首に細い糸を通す。

 トリトンは既に海に沈みつつあるし、海中だと上手く武器が振るえないと考えたからだ。後は──。



「切れろぉぉおおおあああ!!」



 うなじの辺りを踏み付け、渾身の力を込めて糸を引く。

 狙うは窒息ではなく切断だ。

 その間にもトリトンはどんどん沈んでいき、海面が僕の膝の辺りまで到達している。


 ルーナがこっちに来ようとしてるけど、少し間に合わないかな……

 海面が肩まで迫った所で、大きく息を吸い込んで止めた。


 ゴボゴボゴボ……ゴポッ……


 完全に海に入ってしまった。

 早く切らねば……早く……

 引っ張るだけでは埒が明かないので、ノコギリのように左右交互に引っ張ってみる。

 しかし、あと少しがなかなか切れない。

 そろそろ息も続かなくなる……



『……こだ……ラ……』


「(……?)」


『何処だ……何処にいるのだ、フローラ……』



 これは、トリトンの声が聞こえている?

 海中に居るからなのか?

 よく分からないが、そうか……人魚姫を、自分の娘を探していたのか……

 どうか安らかに眠ってくれ。


 ようやっと、首の切断に成功した。

 しかし、不味いな……息が、海面まで何とかなるか?

 意識が朦朧としてきた。

 海面で揺れる日差し目掛けて泳ぐが、視界の端から暗くなってくる。

 あと少しなのに、もう力が……

 意識が完全に消失する寸前、何者かが海面まで引き上げてくれた気配がした。






「…………君! ……メ君! しっかり!」



 ルーナの声が聞こえる。

 助かったのかな?

 朧気に聞こえた声は、意識の覚醒と共に徐々にはっきり聞こえるようになった。



「ナツメ君! あぁ、良かった……起きたよぉ……」


「ルーナ? こ、ここは?」


「港町だよ。

 ナツメ君が海の中で気絶しちゃったから、ここまで運んで来たの!

 気絶したナツメ君を、イルカさんが海面まで運んでくれたんだよ?」



 なるほど、それは感謝しないとな。

 イルカか、リオ爺が言っていたフリッツかな?

 まぁ何にせよ……



「助かって、良かった」


「ホントにだよ! 心配したんだからぁ……」



 ルーナの目尻には、うっすらと涙が浮かんでいた。

 悪い事しちゃったかな。

 ルーナは感極まって僕に抱きついてくる。

 鎧が押し付けられて非常に痛い……



「ルーナ、痛いよ……」


「ナツメ君が悪いんだもん! 我慢して!」


「おやおや……悪いと思う気持ちがあるのでしたら、今だけは我慢なさいなナツメ君。

 『大切な人』なのでしょう?」


「……? …………っ!?」



 そう言えば口走っちゃったな、そんな事。

 いや、本心だからいいんだけどさ。

 いや改めて思い返すと、かなり恥ずかしいな……



「トリトン含め鯨や姉妹達は無事、元に戻りました。

 後は帰るだけですが、1つ確認させてください。

 ナツメ君がルーナさんを助けた際に「あー!!」」



 リオ爺の話をルーナが途中で遮る。

 僕の行動に何か思う所があったのかな?



「ナツメ君が書いたカラスだよ!

 あれ、なんで動いたの!? 訓練の時も書いたけど動かなかったよね?」


「あの、ごめんルーナ……」



 分からない事を聞かれてもな……

 取り敢えず、さっきの質問で最も分からない部分は、ちゃんと聞いておかないとダメだよね。



「──()()()って、何?」




読んでいただきありがとうございます!


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次回からはまったりするかな? お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一連の戦闘描写がお見事でした! アクションとして読み応えがありましたし、同時にキャラ同士の絆も深まっていく。そして最後は何とも意味深な?
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