【第43話】憤怒の異形と涙②
クレーターの中心に佇む鬼の異形。
その虚ろな瞳は静かに僕達を見据える。
異形を注視していると、耳の辺りまで裂けた口が僅かに開き、そして──。
『……まえも……おまえもニンゲンかァァア!!?』
「っ!?」
人間に対する憎悪の咆哮が大気を震わせる。
もう少し前までの静かな雰囲気からは一転、その声からはとてつもない攻撃性を感じる。
鬼の異形は体に刺さった槍の1本を引き抜き、構えた。
「ルーナ! 避けて!」
「〜〜っ!!」
ルーナは戦鎚の柄を支えに、膝から上体を倒して槍を避ける。
咄嗟の判断でで、何とか紙一重で槍を躱す事はできたみたいだ。
僕は異形に刺さっている残りの槍を急いで元のインクに戻して追撃を防ぐ。
「死ぬかと思った……」
「ごめん! 異形が構えた時点で消してたら……」
「反省会は後でね! ほら、また異形が動くよ!」
ルーナに注意されて異形を見ると、今度は体勢を低くして屈んでいる。
『グ……ガァ!!!』
「嘘!? 高っか! ルーナ、こっちに!」
一蹴りではるか空へ飛び上がる。
まずい、相手が逆光で見えない……動きが遅れる!
とにかく後ろに引いて距離を取る。
巻き込まれないであろう位置まで引き、念の為に大きめな盾を描いて衝撃に備える。
『ニンゲンガァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
ドッグァァァア!!!
咆哮と共に響く轟音。
めくれ上がった地面や石が盾に傷を付ける。
腕が持たない!
「なんて威力……ルーナ、無事!?」
「わたしは大丈夫! ナツメ君は無事……じゃないね!」
「控えめに言って助けて!」
「分かった! もう少し頑張って!」
ルーナに盾を一緒に支えてもらう。
力の無さは今後の改善点だな。
ルーナに勝てる気は微塵もしないけど……
まぁとにかく、今は目の前の異形。
どうやらかかと落としをしたようだ。
ただ、その被害はクレーター所ではない。
地形が変わった。それほどの威力だ。
「異形の弱点を探すよルーナ!」
「了解! 行くよ!」
僕達は鬼の異形に仕掛ける。
僕は刀を描いて斬りかかり、ルーナは戦鎚で叩く。
しかし、今度の異形は棒立ちではない。
「ニンゲン! ニンゲン! オマエもぉアアア!!」
拳と刀、拳と戦鎚がぶつかり合う音。
2対1の状況なのに僕達の攻撃を全て受けきる異形。
無我夢中で切り付ける。
そして、切りつけている内に気付いた。
「ルーナ! 角だ! 角を狙って!」
「分かった! うりゃあ!!」
ルーナも僕も執拗に異形の角を狙う。
角を狙い始めると、次第に異形は防戦一方になる。
「リャァァァアア!!」
『グォァァァアアア!!!』
何度も異形の拳が僕の急所をかすめる。
この数分で、下手をすると何度も死んでいる。
そんな綱渡り同然の剣戟の中でとうとう──。
ガキィィン!
「角を捉えた! ルーナ!」
「はいやぁ!!」
ルーナに刀をダメ押しで後ろから叩いてもらい、異形の角の切断を狙う。
下手をすると、てこの原理で僕が吹っ飛びそうだけど、そこは踏ん張って耐えるしかない。
ギィン!
来た! 凄い衝撃だ……!
折れろ! 折れろ折れろ折れろ!
「折れろォオオ!!!」
ミシ……ミシミシミシ──バギッ!
鈍く、痛々しい音が響いた。
折れた角は綺麗な放物線を描き地面へ転がる。
『ガァァァァアア!!!』
「うぉっ……と!」
鬼の異形が手当たり次第に暴れる。
しかし、先程までの威力や速度は無い。
これなら僕でも見切って反撃ができる!
「ルーナ! 畳み掛けるよ!」
「分かった! 合わせて!」
「合わせて」という合図と共に、僕は異形の攻撃を一切眼中に入れずに懐まで潜り込む。
ルーナがそう言う時は攻撃を全て捌くから特攻してくれ、という意味合いになる。
長年ルーナと一緒に戦ってきた僕しか分からない合言葉のようなものだ。
僕を目掛けて異形の拳が飛んで来るが、ルーナによって全て阻まれる。
僕は鬼の首を取る事だけを考えろ……!
「切・れ・ろォォオオ!!!」
『グガァァアアア!!』
刹那の隙、刀の根元が異形の首にめり込む。
後は刀を引くのみ。
すると、異形の喉を刀が滑るように切れる。
ただ、肉は切れるが骨が断ち切れない為、手元にガリガリと嫌な感触が伝わってくる。
『ガ……グ、ガ…………』
鬼の異形の猛攻は止み、事切れたかのように膝から崩れ落ちた。
「ハァ、ハァ……終わった……」
「ぷはぁ……疲れた! ナツメ君もお疲れ!」
「ルーナもお疲れ。
後は鬼が復活するのを確認して帰ろっか」
しばらくすると異形の体は黒く染まり、バシャっと崩れて黒い水溜まりを作る。
さらに待つと、水溜まりの中心がボコボコと膨れ、鬼の形が出来上がっていく。
ただ随分とその、小さいな……?
それこそ、まるで子供のようなシルエット。
「ねぇナツメ君、これって……」
「うん、子供……だね」
そこに現れたのは、赤黒い体の小さな小鬼。
小さく蹲り、そして──。
「ひっぐ、えぐっ、くすんくすん、父様ぁ、母様ぁ……」
あまりにも放って置けない雰囲気に、僕とルーナは互いに顔を見合せ困惑する。
しかし、小鬼のすすり泣く声に思いもよらぬ言葉が混ざる。
「ぐすん、うぅ、助けてよぉ、桃太郎ぉ」
小鬼が助けを求めたのは他でもない、桃太郎であった。
読んでいただきありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただいた方は、ブックマークや広告の下の評価☆☆☆☆☆をポチッと押してくれると嬉しいです!
最近はいいね機能などもあるらしいですので、評価は荷が重いと思われる方はそちらをお願いします!
次回をお楽しみに!٩(ˊᗜˋ*)و




