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【第41話】次の物語




 異形の巨人を討ち取り、元に戻ったのはいいが、息絶えた状態だった。



「これって……何か良くない事なんですか?」


「いえ、分からないのです……

 わたくしも今までに見た事はありませんので。

 何らかの条件が重なり、例外的に死した巨人が異形化したのか、また別の要因なのか……」



 いつものような、どこか軽い雰囲気で受け応えするリオ爺はそこにはいなかった。

 未知に対する最大級の警戒を示している。



「早急に禁書庫へ帰りましょう。

 帰ったらわたくしからオラシアへ報告を入れます。

 お2人はそうですね、家に戻っていてください。

 明日もお仕事がありますので」


「分かりました」


『そして物語は幕を閉じる』



 こうして僕達は謎を残したまま禁書庫へと帰ってきた。

 禁書庫へ戻ると、リオ爺は足早にオラシアさんの所へ向かった。



「出来る事も無いし、僕達は素直に帰ろうか?」


「そうだね、ちょっと疲れちゃったよ……」


「僕の部屋で反省会でもする?」


「それはしなきゃね! 囮役、かなり怖かったんだから!」


「はい、主に僕が反省します……」



 部屋に集まったら、精一杯機嫌を取ろうと心に決めた。






 図書館内に建つ我が家に帰って来た僕とルーナは、軽くシャワーを浴びた後、僕の部屋に集合した。


 シャワー上がりのルーナは何処か艶めいていて、心做しか心拍数が上がる。

 薄紫の髪の毛も



「ねぇルーナ、他に着る物無かったの?」


「……? 普通の部屋着じゃない?」


「いや、なんて言うかその……」



 ルーナは現在、バスタオルみたいなモコモコ生地の部屋着を来ているのだが、上まだはいい。

 下の服が半ズボンを更に短くしちゃいました、みたいな短さなのだ。

 見方によってはパンt……いや意識するのは止めよう。

 これが女の子基準の普通……なのかな?



「あ! もしかして、わたしに見惚れてたとか!?」


「あ、いや! その…う、うん……」


「え!? あっ、そ、そうなの……そうなんだ……」



 ベッドの上で向かい合いながら俯き、お互い顔から火が出そうなほど真っ赤に染まる。

 僕の部屋が羞恥に悶える無音の静寂に包まれた。


 ・・・・・・


 何の時間なんだこれ……

 今やらなきゃ行けないのは『反省会』だよ!



「き、気を取り直して反省会を開催する!」


「お、おー!」



 その後、アルバさんに夕飯に呼ばれるまでは、2人で反省会をぎこちなく進めていた。

 僕達にはまだまだ伸び代がありそうだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆



 翌朝、図書館メンバーでの朝食の席で、リオ爺が僕とルーナに告げた。



「ナツメ君にルーナさん、今までの反省を活かして今回は先に言っておきますね。

 本日、お2人に解決してもらう物語は『桃太郎』の異形になります。

 ナツメ君には馴染み深い物語ですかね?」


「そうですね。

 小さい頃に母さんに読み聞かせてもらったりしましたから……」



 忘れていた訳では無いけど、意識すると少し寂しいな。

 母さん、元気にしてるのかな。

 じいちゃんは……まぁ、元気だろうけど。

 物思いに耽っていると、横に座るルーナから質問が来る。



「ねぇナツメ君、桃太郎ってどんなお話だっけ?」


「桃から生まれた男の子がきびだんごで犬、猿、キジを仲間にして、鬼ヶ島で鬼退治をする物語だね」


「じゃあ異形は鬼になりそうだね」


「いえ、そうとは限りません」



 否定をしたのはリオ爺だった。

 まぁ、物語を知っていれば、確かに異形になりそうなのは鬼だけではない。



「もちろん、鬼は異形になりやすいですが、桃太郎の3匹のお供もなる可能性があるのですよ。

 命を掛けた鬼との戦いの報酬がきびだんごですからね」


「確かに割に会ってないですね……

 もしかして、きびだんごってこう…危ないお薬的な何かがさ!」



 とんでもない事をルーナが言い出した。

 きびだんごで鬼退治は確かに無理があるけど、(それ)(それ)でヤバい。



「今回もリオ爺は同伴してくれるんですか?」


「いえ、今回は最初からお2人だけです。

 わたくしは別の物語に潜りますので」


「ちなみに何の物語か聞いても?」


「わたくしは『ハムレット』という物語に入ります。

 今回は入って来てはダメですよ?」



 ハムレット……ってシェイクスピアが書いた4大悲劇の1つじゃないか!

 特にハムレットは登場人物のほとんどが死んでしまう。

 そんな物語であるから、どんな異形が出てくるか分かったものじゃ無い。



「分かりました。桃太郎が無事に解決出来たら、僕達はどうしたらいいですか?」


「無論、上がりですよ。

 街に行くなり、部屋で休むなり自由です」


「……じゃあ…後輩が帰ったら……クークラも休む」


「何の関係があるんで「……休む!」……分かりましたよ」



 おお、リオ爺が押し負けてる。

 先輩はいつもこんなゴリ押しの戦法で、休みをもぎ取ってるのかな……



「……後輩……終わったら……遊びに行こ」


「分かりました。

 じゃあ、終わったらリビン(ここ)グに集合で。

 ルーナもいいよね?」


「お昼前には終わるように、張り切らなきゃね!」



 そうと決まれば早く朝食を食べ終え、禁書庫ヘ向かわないとな。

 出来ればお供退治より、鬼退治の方向がいいな……



 これが僕とルーナの悲しい異形退治の始まりだった。




【オラシアの執務室にて】


「オラシア、至急連絡したい事があります」


「あらリオテーク、珍しいですね」


「今日の異形なのですがね、倒した後、死んだ状態で元に戻るのを確認しました。

 わたくしも初めてだったので、一応連絡をと」


「それはそれは、何かの勘違いだといいのですが……」


「一応、最悪の事態を想定しておきましょう。

 アレが外の世界に干渉しているのやもしれません」


 そこまで話した所で、メイレールが割って入る。


「アレってまさか!? リオテーク!」


「飽くまで最悪の場合です。

 わたくしとしても、それの可能性は低いと見ています」


「分かりました。

 リオテーク、報告ありがとうございます。

 ただ、この件はまだここだけの話にしてくれますか?

 女神オラシアの名において、この情報は制限します」


「では、わたくしはこれにて」


 そう言って、リオテークは執務室を後にした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ルーナとの恋愛プロットが展開!? 桃太郎は不穏な予感。リオ爺が報告した「アレ」も充分不穏ですね。しかも後書きで語られるなんて。色々と緊迫感があってたまらない!
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