【第36話】嫉妬に狂う異形 ①
「そこの2人組、止まりなさい!」
僕達は街の門番に止められていた。
まぁ、燕尾服と軽鎧のミスマッチな2人組、ましてや片方はどデカい戦鎚を担いでいるんだ、止められるよね……
「見た所この街の者ではないな。
名は? 何処から来た? それにその武装に……
つ、翼は飾り……なのか?」
「ま、待ってください!
僕はナツメ、隣の子はルーナです。
僕達は最近、この街で怪物が出たと言う話を聞き付けて来ました」
「怪物……もしや王城で目撃されたと噂の?」
咄嗟に出たハッタリだったけど、上手く行きそうだ!
後はルーナが僕に適当に合わせてくれるだけで、門番は突破できる気がする。
「その噂で間違いないと思います。
もし良ければ、詳しい話を聞かせて貰えませんか?」
「そうだな、分かった。
その背負っている武器を除いて、危ない物を持ってないか検査は一応させてもらうけど、いいね?」
「はい。お願いします。
ルーナもいいよね?」
「え? う、うん!」
その後、ポケットの中や服の内側なんかにも怪しい物が入ってない事を証明した。
ルーナの翼も何とか、飾りと言う事で押し通した。
「うん。異常無し!
疑って悪かったね。でも、仕事だから許してくれ。
それにしてもよく出来た翼だね、本物に見えるよ!
それよりも、怪物の事だね。
ただ、僕達も知ってる事は少ないんだ。
王城でそういう事があった、くらいの噂話だからね」
「そうですか……
王城には普通の人でも入れるのでしょうか?」
「中に入るには王の許可が必要なんだが、噂が本当なら猫の手も借りたい状況だろう。
王城前にも門番が居るはずだから、その人達にはこっちから連絡を入れておくよ。
それじゃ、気を付けて行っておいで!」
対応が丁寧な門番の見送りを背に、僕達は王城に向かって歩き始める。
体感的に神界の方が広いうえに、王城までは一本道だったので、思ったより早く着いてしまった。
目の前まで来ると更に迫力がある。
王城の前で呆気に取られていると、城門の方から恰幅の良い男性が駆けて来た。
「やぁ! 思っていたより早かったね!
君達がナツメさんとルーナさんだね?
連絡は貰ってるから、どうぞこちらへ」
「は、はい……」
促されるまま城の中へ。
城門をくぐると、それはそれは悲惨な様子だった。
足を負傷した人、腕がない人、あちこちを忙しなく走り回るメイドさん……かな?
全身を布で覆われている人達は恐らく、もう……
「見ての通り、君達が聞いた噂は本当だよ。
今は辛うじて怪物を部屋に閉じ込めているが、いつまで持つか分からない……
正直、藁にもすがる思いなんだ。
王に代わり僕から直々にお願いしたい。
君達も化け物狩りを手伝ってくれないだろうか?」
「元より僕達もそのつもりです。
1度見ておきたいので、案内してくれませんか?」
「ありがとう、異国の勇士達よ。
では、物音をあまり立てないように着いてきてくれ」
そのまま静かに連れられたのは大きな扉の前だった。
道中見てきた扉とは違い、明らかに大きく、そして煌びやかな装飾で飾られている。
男は人差し指立てて口元に「静かに」と言うジェスチャーをして見せ、小声で話始める。
「(ここは本来、謁見の間なんだ。
この鍵穴から中が見えるから、覗いてごらん)」
最初に僕が親指サイズの鍵穴から中を覗いて見る。
扉から近くの位置でギシギシと音は聞こえるが、何も見えない。
僕は首を横に振って見えない事をアピールする。
すると、男は隣の部屋まで移動し、小窓から瓦礫の欠片を謁見の間へと放り込む。
すると──。
──ドドドドドッッ!!!
得体の知れない何かが、瓦礫が落ちた方へ一目散に走り出す。
ようやく、異形の全貌が明らかになった。
4本足……いや、正確には2人分の足だろうか?
人間2人が背中合わせになって、胴体で数回ねじり合っているような姿をしている……
それがお互いが空気椅子をするような体制で、器用に駆けている。
ただ、人と言っても全長は2メートルを優に超えている。
全体的に青白く、2つある頭はそれぞれ目元が真っ黒な茨で覆われている。
『シん…デレら……しン…レラで……レられラれレら……』
頭にこびり付く、嫌悪感を沸き立たせる声。
2つの口から1つの単語が同時というか、交互に聞こえて来て頭がおかしくなりそうだ……
ルーナにも異形を見てもらうと、「ひっ……」と小さく悲鳴をあげる。
「(あの、1度2人だけで戦って見てもいいですか?)」
「(僕は構わないけど、大丈夫なのかい?)」
「(ありがとうごいます。無理はしません)」
「(何かあった時は僕を呼んでくれ。
すぐに駆け付けて援護するから)」
「(分かりました。
後その、今更ですけど、名前を聞いてもいいですか?)」
「(そうだな、チャームとでも呼んで貰おうか)」
僕とルーナは先程瓦礫を投げ込んだ小窓がある部屋に入り、壁が崩れてできた人がギリギリ通れる程の穴から静かに謁見の間へ足を踏み入れる。
異形を目の前にすると、迫力は3倍増しに感じる。
──でも。
「リオ爺と比べると、どう?」
「見た目はともかく、10倍はマシかな……」
僕と考えが一緒のようで何より。
迫力はあるが、リオ爺と比べると可愛い物だ。
殺気も多少は感じるが、メイレールさんのそれとは比べ物にならない。
僕は中距離からルーナの援護が出来るように、自分の身長より少し長い槍を描き持った。
「よし、行くよ!」
「うん、行けるよ!」
掛け声と同時にルーナは空中に、僕は異形の足元へと展開する。
僕達の声に気付いた異形は声を頼りに動き出す。
記念すべき僕とルーナの初戦闘が幕を開けた。




