表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/104

【第12話】怠惰を貪る異形 ①




「……先輩として……後輩の恋路は…見守る所存」


「こんな事言うのはアレですけど、勘違いですからね!?」


「わ、分かってますから! わたしなんかがそんな風に思われる事なんて……ないから……」


「いえ、そんな事はないです! 充分可愛いです!」


「ふぇ!?」



 またやらかしてしまった。

 ルーナさんはボンッと音が聞こえそうな勢いで顔が真っ赤に染まる。

 これは純度100%で僕が悪い。



「……後輩……無意識って……怖いね?」


「ええ、今絶賛痛感中です。

 まぁ、そんな話しはさておき、今日はなんの為に先輩はここに来たんですか?」


「……忘れてた……料理を…習いに来た」


「料理ですか? 僕もちょっと興味あります」


「じゃ、じゃあ3人で作ろっか?」



 そんな訳で僕とルーナさんはフリフリのエプロン、先輩は自前の割烹着を身に付けて台所に立っていた。



「ご、ごめんね? これしかなくて……」


「大丈夫ですよ? これで外に出るのは流石に恥ずかしいですけど」


「あ、あの! ナツメさんさえ良ければ歳も近そうですし、敬語とかさん付けを無しにしませんか?

 歳が近そうなお友達ってクーちゃんしかいなくて…」


「ぜひお願いします! あ、敬語は無しだよね。

 これからは友達としてよろしく、ル、ルーナ……」



 女の子を名前で呼ぶって思っていたより緊張するな……

 先輩は仲はいいけど、あくまで先輩と後輩って感じだし、他のメンバーも圧倒的に歳上な訳だし、そう考えると初めての友達かもしれない。



「……イチャイチャ……終わった?」


「いや、言うほどイチャイチャしてないですからね?」


「ま、まぁそんな事より! 今日作るのはアップルパイです!」



 料理と言っていたので、今の時間的にお昼ご飯を作るものだと思っていたけど、アップルパイか……

 そう言えば以前、女の子の中にはお昼ご飯にスイーツを食べる子もいるってアベリアさんに教わったな。



「材料は揃ってるから、早速みんなで作りましょう!」


「……何から…すればいい?」


「じゃあ先ずは手分けして、皆でリンゴを切るよ!」



 見よう見まねでリンゴのヘタを取って、皮ごと適度な大きさに切ってみる。

 単純な作業だがこれが結構難しい。

 ルーナは慣れた手つきでリンゴを捌いている。

 一方その頃先輩は……


 ズガンッッ!! ズガンッッ!!


 と、料理をしているとは思えない音をたてながらリンゴをいじめていた。



「ク、クーちゃん、そんなに力を入れなくても切れるよ?」


「……ん……分かってはいる…けど…難しい」


「それとね? 包丁の持ち方なんだけど……」


「……知ってる……猫の手」



 自信あり気に答えているが、これは僕でも知っている。

 猫の手にするのは切る物を抑える側の手で、決して包丁を握る側ではない。

 っていうか、今まで猫の手で包丁を握っていたのか……



「まぁ、このリンゴは今から煮詰めるし、パイの中に入っちゃえば見えないから大丈夫だよ、クーちゃん」


「……ん…このリンゴ…救われた」



 目の前にあったリンゴだった物に救いがあるようで、先輩も安堵の表情を浮かべている。


 それからはリンゴを煮詰めたり、パイシートって生地で煮詰めたリンゴを包んだり、3人でワイワイしながら進めた。



「いまからは焼く工程なんだけど、我が家にオーブンなどありません!」



 高らかにルーナが宣言した。



「じゃあ、フライパンとかで焼くんでしょうか?」


「ナツメ君、正解! フライパンにバターを塗って弱火で裏表を焼いていきます」



 何気に僕の呼び方がナツメ君になってる!


 フライパンが1つしか無かったので、3人で交代しながらアップルパイを焼いた。



「そして出来上がった物がこちらになります」



 目の前にあるのは、美味しそうな見た目のアップルパイが1つと少し不格好な物が1つ、そしてもう1つは……

 円盤型の、炭かな?



「……どうして……」


「わ、わたし弱火って言ってなかったっけ?」


「ルーナはちゃんと言ってたよ」


「……弱火で10分なら……強火なら…数分だと……」


「「…………」」



 僕とルーナはただただ沈黙するしかなかった。

 先輩は自分が生成した真っ黒な円盤を今にも泣きそうな目で見つめている。



「先輩、僕のやつと半分こしましょう? ね?」


「……ん……ありがとう……後輩…意外と優しい」



 意外とは余計でしょう……

 これでも普段から紳士的に接してるつもりなんだけどな。



「私のも少しあげるね。 それじゃあ皆で食べよっか」


「「「いただきます!」」」



 初めて作った割には美味しいじゃないか!

 3人で楽しく食べてるからって言うのもあるかもしれないけど、普通に味がいい。







 食後はしばらくお喋りした後、僕と先輩はルーナと別れて帰路についた。



「思ったよりもボリュームありましたね」


「……ん…満足した」



 最初は腹の足しにならないと思ったが、これが意外と満たされるものである。

 食べ切れなかった分は銀紙に包んでお土産にしてもらった。


 その後、図書館に戻ってからは先輩と読書したり、日向ぼっこをしたりして過ごした。


 ちなみに、お土産に貰ったアップルパイは夕食後に他の人にはバレないよう、僕の部屋で先輩とこっそり食べた。



 ◆◇◆◇◆◇◆



 2日後


 今日からはリオ爺の執務室に行く事になっている。

 昨日の休日は買い物に行こうとしたが、リオ爺に完璧に頭に入れて欲しいと1冊の本を渡され、夕方までその本を読んでいた。

 その本なのだが──


『初心者でもわかる! うさぎさんの飼い方』


 ──という本である。

 うさぎでも飼うつもりなのかな? と思いながらも一応、言われた通り内容は覚えてきた。

 しばらくすると、リオ爺がコーヒーを片手に執務室に入ってきた。



「ご機嫌よう、ナツメ君。

 渡した本は覚えてきましたかな?」


「おはようございます。

 一応覚えてきましたけど、何のためだったんですか?」


「それは後ほど、嫌という程分かりますよ」



 うわぁ、絶対に面倒な何かだな……

 そんな事を言っていても始まらないので、早速自分がどんな仕事をすればいいのか聞いてみた。



「そうですね、まずは神域の図書館における、館長の主な仕事について説明しましょう」


「主な仕事ですか?」


「ええ、図書館長の仕事は大きく分け、2つあります。

 1つは物語の中で異形になった者を叩きのめす事。

 2つ目は……「ちょっと待ってください!」」



 普段から温厚なリオ爺の口から何やら荒々しい言葉が出てきたのも驚いたが、それよりも聞き慣れない言葉が出てきた。



「異形ってなんの事なんですか?

 先輩みたいな人を助けるんじゃないんですか?」


「これは感心。覚えていましたか。

 そうですね、クークラのような者を救う事が2つ目の仕事です。

 前にも似たような事を話しましたが、禁書庫は魔素を吸収し、意志を持ってしまった本を集めた場所です。


 その意志の中にはクークラのような感情を知りたい、ここから出たい。等の安全な者もいます。

 ただ、中には悪意に満ち溢れた意志を持ってしまう者もいます。


 その悪意に呑まれ、異形な姿になってしまった者を鎮める事が私達の仕事です」



 そうか、確かに前に禁書庫を覗いた時の声も悪意がある声が多かったな。

 でも、本の中でいくら悪意を持っても、大して危なくないはずではないか?



「例えばですけど、禁書を封印すれば危険は無くなりませんか?」


「ふむ、いい質問ですね。

 それに関しては、何回か試した事がありました。

 しかし、結果は鎖で縛ろうが、密閉空間に閉じ込めようが、僅かな隙間をこじ開けて外に出てきました」


「外に…ですか」


「ええ、異形の力が強くなると本の中から外に飛び出してくる事があります。

 それだけは未然に防がなくてはいけません。

 外に出てきた場合は、すぐに聖天騎士隊に討伐してもらわなければなりません」



 リオ爺はそう言うと、飲んでいたコーヒーを一気に飲み干した。



「まぁ、色々言っていても仕方ないので、早速仕事を見てもらいましょう。

 今日は私の仕事の見学をしていてください。

 それでは向かいましょうか、禁書庫に」







 何気ない会話をしながら、禁書庫の扉の前に到着した。

 相変わらず高い窓だな……



「上にある窓って何処に繋がってるんですか?」


「ナツメ君は図書館の裏側に聖天騎士の訓練場がある事はご存知ですか?」


「はい、1度訓練を見学しに行った事があります」


「それなら話が早いですね。

 あの窓は訓練場のちょうど真ん中にあります。

 わたくしが討ち漏らした異形はこの窓からしか出る事ができませんので、そうなればすぐに聖天騎士が気付きます」



 前に行った時は気付かなかったな。

 まぁ、訓練所の端の方だったし見えなくて当然か。

 そんな事を思っていると、リオ爺が禁書庫の鍵を開け、扉を開いた。



「さて、前回は倒れてしまいましたが、今はどうですか?」


「だ、大丈夫です…」


「それは良かったです。では、中へ……」



 少し警戒しながら中に入る。

 禁書庫の中は思ったよりも普通の部屋だった。

 ただ、鍵付の棚があったり、鎖が巻いてある本があったり所々物々しかった。



「取り敢えず今日は見学をしていただくだけなので、細かい話しや面倒な事は向こうでお話ししましょう。

 ここに立って頂けますかな」



 リオ爺に案内され立たされたのは、壁一面に書かれた魔法陣の前だった。

 なんかファンタジーっぽい!

 いや、今いる場所だってファンタジーなんだろうけど、なんせ今までしてきたのって掃除とかだったし、ね?



「では、これからナツメ君には物語の中に入るための合言葉を決めてもらいます。

 なんでも良いので自分だけの合言葉を考えてください」



 合言葉か、なにがいいかな……

 やっぱり魔法の長文詠唱みたいなのがいいかな?

 って言うか、何気にスルーしたけど物語の中に入るってなんだ!?



「一応言っておきますが、かっこいいを理由に合言葉を決めると、後々後悔することになります」


「わたくしは先に行きますので、後で私と同じようにして合言葉を唱えてください。

 ちなみに、今回入る物語は『ウサギとカメ』です」



 話しながら一冊の本を壁の前にある机に置き、その上にリオ爺は手を添える。



『我が願いに応じ見せよ…物語のその先を…結末の向こう側を』



 これがリオ爺の合言葉か、なんか詠唱っぽくていいな!

 合言葉を唱え終わると、魔法陣の文字が淡く光だした。



「やり方はだいたい分かりましたね?

 本に手を置き合言葉を唱える、それだけです。

 ただ、1度決めた合言葉は変えられませんので気を付けてください。

 では、向こうで待っておりますので」



 そう言い残すとリオ爺の体が一瞬眩く光った。

 次の瞬間には、既にそこにはいなかった。


 さて、待たせるのは悪いし、合言葉を決めないとな。

 シンプルかつ、かっこいい感じに……

 しばらく悩んだ後、僕は本の上に手を添えた。



『悪しき者に正義の鉄槌を…助けの声に愛の手を』



 …………決まった。これはかっこいい!

 唱え終わると先程と同じく、魔法陣が淡く光り出した。






 目を開けると、禁書庫ではない光景が広がっていた。

 山と言うよりは、なだらかな丘が続いているような場所だった。



「無事に来る事ができたみたいですね」


「うわぁ!!」



 心臓に悪いので後ろから急に声をかけないで欲しい。



「それでは向かいましょうか、この物語を狂わせている者の所へ」



 しばらく一本道を歩いていると、丘の上の方から


 ダンッッ!!! ダンッッ!!!


 と音が聞こえてくる。

 その音は頂上に近くなるにつれて大きくなる。

 そして、音の正体があらわになった。

 大きな……いや、そんな言葉じゃ足りない。

 そこに居るのは僕の身長の軽く4倍はありそうな大兎だ。



「さて、見えてきましたね。

 ナツメ君、あの兎が足をドンドンしているのはどういう意味か分かりますかな?」


「え? 確かスタンピングと言って、警戒や怒っている時にする行動です」


「渡した本をしっかり読んで来ているようで安心です。

 ここからはわたくし一人で向かいますので、ナツメ君はここで見ていてください。

 うさぎは視力は悪いですが、聴力は優れていますのでくれぐれも大声は出さな……?」


 ズダンッッ!!


 っ!? 一際大きな音がしたかと思うと、大兎はその大きさからは考えられない程の跳躍をしていた。



「危ない!!」


「己の能力に胡座をかき、勝負の最中に惰眠を貪っていた兎風情が……」


 ギシャァァァァアアア!!


「…………喧しい!」


 グギュァ!?


 リオ爺の拳が大兎の顎に強烈な一撃を叩き込む。

 大兎は地面を転がった先でのたうち回っていた。



「では、尋常に参りましょう」



 僕はこの時、何となく分かってしまった。


 今から始まるのは戦闘なんて物じゃない。


 極めて一方的な蹂躙であるという事を……





読んでいただきありがとうございます!


更新が遅れて申し訳ないです!


戦闘シーン、何とか書けました……(汗)

次回はもう少し戦闘します!


もし良ければ、評価を付けていだだけると助かります!

今後とも応援お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] リオ爺とともに、本の物語の中へ。一時的ですが、ある種の異世界ともいえるこの作品の世界観の裾野を垣間見た印象です。こういう世界連結の発想は面白いし、物語は大きく発展させられる鍵とも思えます。…
[良い点] アップルパイ作りでお笑いがあった後には……おお、リオ爺が輝いてる!
[良い点] 拝読させていただきました。 本好きなので主人公に共鳴できるところも少なくなく、たのしく読めました。 今後の更新を楽しみにしています。 [気になる点] まだ本格的なストーリー前というのもある…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ