【第13話】惰眠を貪る異形 ②
体勢を立て直した大兎は先程貰った一撃を警戒しているのか、距離を取って様子を見ていた。
リオ爺は上着を脱ぎ捨て、両手に白い手袋をはめながら、ゆっくり大兎の元へ歩いて行く。
「ナツメ君、今から見る事は全て現実です。
しっかりと見て、受け入れ、そして学んでください」
こちらを見ることも無く、そう言われた。
声を出すと狙われるかもしれないので、静かに1度頷く。
僕は音を可能な限り出さないように、その場から少し離れる。
先に静寂を破ったのは大兎だった。
真っ直ぐリオ爺に向けて突っ込んで行く。
「……遅い!」
ドゴォォオ!!
正面から迫る大兎を地面に叩き落とした。
あの速度で遅いって……僕には微塵も見えなかった。
リオ爺は地面にめり込んだ大兎の頭を踏み付けて抑え、懐から1本の筆を取り出した。
「わたくしが抑えておりますので、こっちに来ても大丈夫ですよナツメ君。
見せたい物がありますので」
大丈夫って言われても、足元の大兎めちゃくちゃジタバタしてるんだけど……
恐る恐る近くまで来てみたけど、間近で見ると凄い迫力だ。
「今から目にする事は少し残酷なように見えますが、これは図書館長の責務ですので目を逸らさないでください」
「はい。えっと、何をするんですか?」
「まぁ、見ていなさい」
リオ爺は手に持った筆を掲げ、空中に刀を描きだした。
文字通り、空中に刀を描いているのだ。
「それ、どうなってるんですか?」
「不思議ですか? でも、ここは本の中なのです。
今こうして描いているのも紙の中、端的に言えば本の中に落書きをしている感覚だと思ってください」
なるほど? よく分からないが強引に理解しておこう。
「よし、描けましたね。
それでは手っ取り早く終わらせましょう」
そう言って、空中に描いていた刀を握る。
絵の刀を握っている、何とも不思議な光景だ。
リオ爺は手に持った刀を大兎に向けて振り下ろす。
その刀は大兎の首を切り裂き、胴体と離れ離れにする。
つい先程までバタバタと暴れていた大兎は、数回ビクッと震えると動かなくなった。
鮮やかな赤が広がっていく。
「うっぷ……おぇぇ……」
駄目だ、切断面を見てしまった。
しばらくすると、事切れた大兎の体は黒く染まり、バシャッとその場にインクのような黒い水溜まりを作る。
「これで作業はだいたい終了です」
「これで、終わりですか? うっぷ……」
「いえ、最後の確認が残っております。
もう少しすれば先程倒した兎が蘇りますので、それを確認出来たら帰りましょう」
え、蘇るの? せっかく倒したのに?
リオ爺は懐中時計を見ながら、先程できたインクの水溜まりの周りを歩いている。
「そろそろですね」
「隠れてた方がいいですか?」
「その必要はありません。
今から蘇るのは本来在るべき姿の兎のはずなので……ほら、来ましたよ」
黒い水溜まりを見ると、真ん中がボコボコと盛り上がり始め、徐々に兎の形になっていく。
先程までインクの水溜まりがあった場所に、1羽の兎が現れた。
「異形化はしていませんね。
よし、では帰りましょう」
「色々聞きたいですけど、取り敢えずこの兎はもう大丈夫なんですか?」
「以前、別の物語で異形の状態で蘇った者がいたのですよ。
ですが、今回は大丈夫です。
帰る時の合言葉は共通ですのでわたくしに続いて唱えてください」
『そして物語は幕を閉じる』
「そ、そして物語は幕を閉じる!」
短い合言葉を唱えると、目の前に禁書庫の壁で見たような魔法陣が現れた。
「では、帰りましょうか。
この後もやらなければならない事がありますので」
そう言いながら魔法陣の中に歩いていく。
僕も急いで後を追い、魔法陣の中に入った。
魔法陣を抜けると、ロッキングチェアの上で飲み物を飲んでいる先輩に出迎えられる。
「……思ったより…早かった……おかえり」
「出迎えありがとう、クークラ。
待たせてしまいましたかな?」
「……そんなに…待ってない……それよりも……」
先輩はロッキングチェアからぴょんと飛び降りると僕の方に駆け寄り、袖を引っ張る。
「……後輩…聖天騎士隊のとこ……行くよ」
「え、何しに行くんですか?」
「そう言えば言ってなかったですね。
ナツメ君は今日から私の元で修行をしてもらいます。
その時に、ナツメ君が1人前になるまでの間、君と共に修行し、補佐してくれる者を探して欲しいのです」
修行か……軽く言ってるけど、かなり大変なんだろう。
でも、誰かと一緒にできるならまだ耐えられる。
先輩と掃除してた時も大変だったけど、競い合う先輩がいたから頑張れたと言っても過言じゃない。
せめて一緒にいて楽しそうな人を探そう。
「……じゃあ…行ってくる」
「リオ爺は行かないんですか?」
「わたくしは報告書などをアルバに押し付けて来なければならないので、2人で行ってきてください」
アルバさん……ファイト!
せめて僕だけは優しくしてあげよう。
僕と先輩は聖天騎士隊の所へ向かう途中、図書館の出口付近でオラシアさんと遭遇した。
「おや、2人でお出かけですか?」
「はい、これから聖天騎士隊の所へ向かう途中です。
オラシアさんはサボりですか?」
「最近、ナツメ君が私をどう思っているのか薄々気付き始めてお姉さん悲しいです。およょ」
わざとらしく悲しそうな雰囲気出しているが、そもそも自業自得だと思う。
「そう言えば、今『聖天騎士隊』って言いました?」
「…? はい、言いましたけど」
「諸事情により、わたしも同行します!」
「え、なん「同行します!」……分かりました」
よく分からないが、オラシアさんも一緒に向かう事になってしまった。
ほぼ毎日メイレールさんに叱られてるのに、この人も懲りないよな。
後に、ここでオラシアさんを無理矢理にでも置いていけば良かったと後悔する事になる。
更新が遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
今年も読んでいただきありがとうございます。
今年は『ライフ イン ライブラリ』以外にも短編や色んなジャンルに『挑戦』する年にしたいと思っております。
私のモチベーションを上げるために感想や評価をしていただけると嬉しいです!
今年も私とナツメ君をの応援をよろしくお願いします。




