【第10話】証と役職
約6年にも渡る修行生活が終わりを迎えようとしていた。
今日で僕専用お掃除手帳の最後のページが全て埋まる。
「先輩、今日こそ勝たせて貰いますよ。
僕の鋼の身体が悲鳴をあげる速度で挑みます」
「……せいぜい…針金……格の差を……分からせる」
最初は先輩に着いて行くのが精一杯だったが、今では毎日競い合って掃除している。
ちなみに、まだ1度も先輩に勝てた事は無い。
「クーちゃん頑張ってね〜!」
「今日こそ勝てよナツメ! 俺達が応援してるからな!」
と僕達を応援する声が聞こえる。
いつからか僕と先輩の掃除合戦は図書館内の名物になっていたようで、掃除が始まるとワラワラと集まってくる。
「では先輩、行きますよ。よーい……」
「……どん」
合図と共に僕と先輩は本棚を駆け登り、棚の上からハタキを振るっていく。
部屋の中心からお互いが逆方向にハタキを振るって行き、部屋の端まで来たら、中心に向けてモップをかけて行く。
勝敗は掃除の正確性、掃除した場所の面積、後は効率の良さによって決めている。
掃除が終わった後に2人でお互いの掃除を評価し合って、
3つの項目の内2つ勝つことが出来たら勝利である。
(今日こそは、今日だけは負ける訳には行かない)
僕は今までの経験と効率化された動きをフル活用させ、的確にハタキを振るいながら駆ける。
「ナツメ君いいペースよ〜!」
「ナツメ! お嬢は今、7つ目の棚に行ったぞ!
ペース上げようぜ!」
「ありがとうございます! でも、これでも全力です!」
僕を応援してくれる人達は飛びながら僕に先輩の現状などを伝えてくれる。
僕はまだ6つ目の棚の後半にいたので焦りが顔に現れていたと思う。
この場所は長さ50メートル程の棚が全部で40本並ぶ長方形のエリアになっており、他の複雑な形状の部屋と比べると勝敗がとても分かりやすくなっている。
2時間少し経過すると、僕が掃除する分の20本全ての棚の
ハタキ掛けが終わる。
しかし、ここからが本番だ。皆様お待ちかねのモップ掛けである。
ハタキとは違い、テクニック等はほとんど必要ない、純粋なスピード勝負だ。
「いいよナツメ! 今互角! このままブッチ切れ!」
「今日はもしかしたら勝てるんじゃないか!?」
「最後まで応援お願いしますね!」
本棚と本棚の間は約2メートル、モップの幅は80センチ程なので、最低でも1往復半は走らなければいけない。
15本目の床辺りでいつもなら少しペースが落ち、足も限界を迎えそうになる。
(だけど、関係ない!)
今日勝たなければ今まで僕を応援してくれた人達に合わせる顔がない。
足の感覚は既に無いに等しいのだが、今日はすこぶる調子が良い。走るペースが衰える気がしない。
17…18…19……次でラスト! 最後の棚の角を曲がって少しすると先輩の姿も見える。
完全に掃除するには1往復半必要なので、1度先輩とすれ違う。
その時の先輩は表情こそあまり変わらないが、とても楽しそうな雰囲気が感じられた。
最後の折り返し、僕は正面から迫ってくる先輩に向けて全力で駆ける。
残り数メートル、2…1…そして…………
「ぐぇっっ!!?」
僕のモップと先輩のモップが衝突し、僕は手を滑らせてしまった事で鳩尾にモップの柄が深くメリ込む。
痛みでうずくまっている僕に後ろから声がかかる。
「……後輩…お疲れ様………無事?」
「ぅぐ、何とか…大丈夫です……」
どうやら先輩は僕と衝突した時に、棒高跳びよろしく僕の頭上を飛び越え、可憐に着地していたらしい。
「……採点…始めよ?」
「はい! 今日は過去1番の出来ですよ?」
「……ん……期待してる」
まずはお互いが掃除した場所を見て回る。
「流石ですね、埃ひとつ無いですよ…」
「……ん…当たり前」
流石は先輩だ、100数年のキャリアは伊達じゃない。
評価項目の内、正確性は先輩に軍杯が上がるだろう。
次に掃除した面積だが、最後のモップ掛けで2メートル程僕がリードしたので僕に軍杯が上がる。
これで1対1である。
最後の項目である効率なのだが、これは応援していた人達に聞きながら勝敗を決めるしかない。
「と、言う訳で皆さん! クーちゃん先輩と僕の今日の仕事ぶりはどうでしたか?」
「今日のナツメは超頑張ってたな!」
「クークラちゃんだって相変わらず見事なハタキ捌きだったわよ?」
「ナツメ君のモップ掛けはノンストップだったよね?」
「あぁ、あの走りは目を見張るものがあるな」
「クークラ様〜! 今日も可愛かったですぞ〜!!」
毎回こんな風にワイワイと議論をしだす。
いや待て、最後の可愛いは関係ないからね?
「皆さん! 決まりましたか?」
「おう! 話し合った結果、今日の仕事でより効率よく掃除が出来ていたのは……」
『ナツメ選手〜!』
議論していた人達が声を合わせて僕の名を呼んだ。
「僕、ですか? 本当に!?」
「あぁ、ここに居る皆の総意だよ」
「実は言うと、クークラ嬢は途中で頭に巻いてる三角巾が緩んで落としていたんだよ。
それも加味して、今回はナツメ君の勝利だよ」
正直こんな時はなんて言えばいいのか全く分からない。
僕の6年間がようやく実り、先輩に勝つ事ができた。
とても嬉しいのだが、今日で僕の手帳の最後のページが埋まる。
嬉しい半面、少し寂しい気持ちもあるのだ。
「……後輩…おめでとう……でも…可愛さと…可憐さでは……負けない」
「その点ではさらさら勝つ気ないですよ」
「……最後のハンコ…押すから……手帳出して?」
先輩に促されるまま手帳を渡して、最後のハンコを押してもらう。
「……6年間…お疲れ様………楽しかった」
「僕も楽しかったです! 長い間ありがとうございました!」
こうして僕の手帳の全ページが埋まった。
「そう言えば、何かご褒美があるんでしたっけ?」
「……あ…完全に…忘れてた」
忘れられてた……
途中からはあまり気にしてなかったけど、最初はそれのために必死で頑張ってたからな。
「……家に帰って……夕飯後に…渡す」
「分かりました。楽しみにしてますね!」
「……ん…期待してて」
そんな訳で夕飯を食べ終わり、図書館メンバー全員集合状態で先輩からご褒美を受け取る準備をする。
「……これが…ご褒美」
「ありがとうございます!」
そう言われて渡されたのは、指輪なんかが入ってそうな小さな箱と、装飾が施された細長い木箱の2つだ。
「……開けてみて」
まずは小さい方の箱を開けてみる。
これは……
「バッジ、ですかね?」
中に入っていたのは本と羽根ペンをモチーフにした様なバッジが入っていた。
「……このバッジ……ここの職員である…証明になる」
「これは僕から説明するよ」
と、アルバさんが前に出る。
「このバッジはここの職員である証明の他にも、この都市で生活するにあたって、金銭が必要なくなると言うのが1番の利点だろうね」
「金銭が必要無いってどういう事ですか?」
「無論、そのままの意味だよ。
ここの福利厚生みたいな物の1つでね。
図書館は基本、誰でも無料で出入りできるし、本を借りる事もできるのは知ってるかな?
まぁ、紛失とか破損とかはまた別だけどね。
それで、図書館を無料で解放する代わりに、飲食や雑貨なんかはバッジを見せれば無償で提供してくれるんだよ」
そうだったのか、この6年間はずっと図書館に籠って掃除してたし、休日も読書に耽ってたからな。
「ちなみに、このバッジは担当する持ち場によって絵柄が違うんだよ。
僕は司書のような事をしていてね、絵柄は本と本棚だ」
「……クークラは…掃除担当……絵柄は…本と箒」
「アタシは受付よ、絵柄は開いた本と閉じた本」
「私は図書館での業務は無いですが、オラシア様の監視と躾という事でバッジを頂いております。
絵柄は本と翼ですね」
「そして最後になりましたが、図書館長をしているわたくしのバッジが本と羽根ペンです」
読んでいただきありがとうございます!
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次回からはようやく待望の戦闘シーン等が書けそうでワクワクしております!
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