王都編 第10説
再び俺達は紅竜王の待つ霊峰へと戻ってきた。
俺の姿を紅竜王も大きな竜独特の瞳で見据えると巨体を起き上がらせる。
「お待たせしました」
と俺は、紅竜王の元へと歩みを進める。そして俺のすぐ後ろにはアリーシャとシャルノが並び紅竜王へと歩く。
アリーシャは御伽噺の中で知らなかった竜王に感嘆を漏らしシャルノはその巨体を見据えてはいるがその大きさに驚愕と言うよりは自分も手合わせをしてみたい欲求が出てウズウズしていた。
そんな二者二様をチラリと俺は確認する。
「なに、特に待ったとは思っておらぬよ。して、後ろの2人は連れて行くのか?」
「いえ、2人にはここで待ってもらおうと思ってます。それでなんですが、先にヴィルアスの花を咲かせて頂くことはできませんか?」
先に咲かせてもらっていれば帰ってきた時にそのまま王都へ帰れるための判断だった。そして紅竜王は了承をしてくれて一瞬だけ周囲に光ると次の瞬間には辺りを白い花が彩っている。
無事に咲いたのを確認し俺は紅竜王にお礼を言い2人には「行ってくる」とだけ短く伝えた。2人も「いってらっしゃい」とだけ答え
俺と紅竜王は霊峰から少し離れたところの山と山の間にある広い砂地へと降り立った。
それに続いて俺も降り立つ。
「ふむ。ここにしよう」
独りごちて紅竜王は魔力を高め始め紅いオーラが紅竜王の周りを覆い始める。
「一体何をして「まぁ、お主は見ておるが良い」」
いるんですか?と続けようとしたところを紅竜王は遮る。そして徐々に魔力値が高くなり紅いオーラが上へと昇り始めたと思ったら一斉に拡散し紅いオーラがドーム状のような形に広がった。
「守護結界・・・」
紅竜王とガロンの周りを包む紅いオーラの正体は守護結界である。
守護結界は使い手の本質によって色を変える。紅竜王のように炎を得意とするならば紅。ガロンの場合は黒と言った具合である。
この守護結界の中での行動はすべてダメージという概念が消え持続している限りは中で何が起ころうと死ぬことは決してない。ただし持続時間や対象者などは使い手のレベルに左右されるため万能になるためにはそれなりのレベルが必要である。話を戻そう
「左様。そしてこの結界は約一刻ほど持つようにしておる。その間に我にお主の力を見せて欲しい」
そして紅竜王は再び自身に紅いオーラを纏わせ・・・・人の姿、竜人となった。
その姿は老齢ながら鍛え抜かれた身体をしており極めつけは纏うオーラが紅く揺らめいており宛ら、そのオーラは個の意思を持っているかと思うほどの魔力の高さを示していた。
「さて、あの状態でも良いのだがあの姿のままだと些か結界内で動き辛くてしかたなかったのだ、しかし人の姿になるのも久しぶりではあったが上手くいったようだな。我は準備が出来た故、お主も万全を期してほしい」
対するガロンは特にあそこまでの変身をするわけではない。否、吸血鬼の姿への変身もまた人外の変身になるのだろうか。そう思いながらガロンも本来の姿へと変える。
互いに力を出せる状態になり向かいあう。互いに獲物はなし。
「お主のことは創造主様より聞き及んでおる。ならば我から名乗るのが礼儀だろう。我は竜皇国の守護竜が1人炎竜。紅竜王!お主の力見極めさせてもらう!」
名乗ると同時に紅竜王の両手にはガントレットのようなものが装着された。しかしそのガントレットは赤く燃え盛っている。
ならば、俺も名乗ろう。眼前の竜に力を示すために。竜王に名を刻み込むために
「不死のガロン。縁あって創造主のウェイスさんにこの世界に連れてきてもらった元人間です」
いい終えると同時に俺は空中の何もない空間からシステム画面を開きアイテム欄から篭手を取り出し装着する。
お互いに打撃を主とした接近戦である。
この時の戦いで何故剣を使わなかったか・・・後にガロンはこう語った。
「男なら拳で語る時は弁えている」とのことだった。往来にして男というのは熱くそしていつまでも子供なのかもしれない。
場面を戻そう。
互いの距離は20mは開けているがどちらも規格外の力の持ち主だ。もしも制空圏が肉眼で見えるならこの距離でも射程圏内だと見えていたかもしれない。
時間だけが過ぎていく。お互いに見合って1分、いや10分は経っているのではと錯覚するほどの張り詰められ均衡を保っていたが「ふぅ」と先にガロンが息を整える。
その刹那、紅竜王は駆ける。その速さはまるで一陣の風のような速さであった。
狙うは足。そのまま足が掛かり転倒するならば追撃が出来る。もし、距離をとるならば仕切りなおしでもいいだろう。だが、自らが相手にしているのは己が地よりも高いであろう青年だ。
油断大敵である。だからここは距離をとられようがとられまいが自分は休む間も与えず思考すらもさせないほどの連打を打ち込もう。
ガロンが眼前へと迫りスピードを落とさずそのまま紅竜王はしゃがみ込み足払いをする。そして重心の乗った足を払い除ける感触が伝わってくる。
(取った!)
崩れ落ちるガロンにさらに追撃をすべく拳に魔力を込める。高密度の魔力を一点に集中させ爆発させる一撃。言葉にすれば簡単に思えるが実際に使おうとすれば体内魔力の操作に長けているか長年の経験によって初めて出来る技である。
しかしその拳がガロンを捉えることは微塵もなかった。
紅竜王は己が内で考える。何故、我の拳はあやつを捉えていないのかと。しかし、考えている場合ではない余裕なんてものもない。捉えられなかった。これだけで今は十分だ。
そう切り替え紅竜王はガロンを視認しようとした・・・が、いない。そしてその直後、野生の勘とも言える感覚で真横へと飛ぶ。
飛ぶとほぼ同時に居た場所を中心に大きく亀裂が入っている。誰がと問われるまでもなく紅竜王と相対していたガロンによる一撃だった。自分の一撃が空を斬っただけでなく先の一撃も寸での所まで分からずに野生の勘に助けられるとはなんたる愉快なことか。
紅竜王は外見とは裏腹に口元が大きく吊り上っている。久しく忘れていたこの身に宿る紅く滾るほどの高揚感たるはなんと甘美なのだ。全力を賭してでも眼前の青年には敵わぬかもしれない。だが、それでも全力を賭けて戦いたい相手だ。
そして相対しているガロンは紅竜王に対しての警戒をさらに高めることにした。
先の一撃だが、定石ではある足払いまでは確かに読めていたがそれでも尚、紅竜王のが早かった。そしてさらには体勢を崩され次の一手である拳がガロンへと繰り出される瞬間。
ガロンの体がゆらりとブレ霧散した。闘拳スキルの多影というスキルである。これは一定のMPを使うことで自分を投影できるスキルだ。
そして当のガロン自身は紅竜王の後ろへと転移し空を斬った紅竜王の一瞬の隙をついて拳を落とすが、紙一重のところで紅竜王が避ける。これが本能による危機回避能力なのかガロンには分からないがそれでも簡単には決着が尽きそうにないなとガロンもまた口を吊り上げる。
互いの初撃は空振りの結果に終わる。再び互いに相対するがそれは長くは続くものではなかった。先の攻防と同じく紅竜王が駆ける。眼前に迫ったガロンに対して先ほどとは違い次は下から掬い上げるかのようなアッパーを繰り出す。単なるアッパーならばさほどの脅威もないであろう
だが、それは魔力がないならばの話である。紅竜王は先と同様に魔力を自分の拳へと練り上げる。しかし先程とは違い拳当てるのを目的としたものではない。
(空撃)
紅竜王は自らとガロンの間にある空間を破裂させ音による一種の目くらましを使う。突然の破裂音にガロンも怯み少し足を後退させる。その一瞬を見逃さず紅竜王は正拳を見舞う。
そしてその一撃はガロンを捉える。金属と金属がぶつかり合う音が鳴り渡る。咄嗟のガードが間に合ったガロンだがこの一撃により体勢を防御へと促されてしまう。
それを好機と見た紅竜王は追撃をすべく大地を蹴りガロンの体勢が戻る前に接近し拳と足による打撃を繰り出し続ける。その一撃一撃も決して軽くはない一撃である。通常の人間ならばガードすることは叶わずすぐさまその命を散らすことになっていたであろう。
襲い掛かる打撃の応酬にガロンは耐え紅竜王が僅かでも隙を見せるならば喰らいつけるように様子を伺う。そして、幾度となく打撃を繰り出す紅竜王が再び掬い上げるかのような拳を出すとガロンは防御している手が弾かれ無防備な状態を晒しだした。
そしてそれを待っていた紅竜王は正拳をガロンへと打とうとしたところでまたもや野生の勘だろうか危機を察知し今度は後ろへと飛ぶ。
体勢を整えてガロンを見やる。すると、ガロンは少し悪巧みがバレた子供のような感じの顔をした。なるほど、一杯食わされるところだったようだ。
「お主も人が悪いな」
「ははは。もう少しだと思ったんですけどね。さすがは紅竜王と言った所です」
ガロンがしようとしたこと。それはガードが弾かれたと思わせ次の攻撃にカウンターとしてサマーソルトをしようと思っていたのである。
両者共に決め手となるものがなく時間だけが過ぎていく。力の証明なのだから勝敗に意味はないのは互いに分かっている。だが、両者は思考する。
目の前の男に勝つことこそが今この場における至高の証明であると。だからこそ
紅竜王は自らの魔力を高める。
不死王は自らの魔力を高める。
高く 高く どこまでも
研ぎ澄ませ どこまでも
「化身」
「多影」
紅竜王は自らを変質させる。その姿は紅い。燃え盛る獣のような髪に全身は紅い魔力が纏っている。そして足元は小さく燃え盛っている。まさに火の化身のような。だが、なんとも幻想的な姿か
不死王は自らを重ねる。どこまでもどこまでも。その一つ一つが己である。
「「オオオォォッオオオオォオオオオォオッ!」」
一陣の風と共に現れるのは紅。辺りを喰らい尽くさんとばかりに赤い炎が轟音と共に爆発する。重ねていた多影の何人かが吹き飛ぶ。だが、それらを無視し紅竜王は本体であるガロンを引き剥がそうと拳を練り上げ突き上げ振り落とし蹴り上げる。
その姿はまさに一騎当千。並の千の軍勢ならば跡形もなく燃え尽きているだろう。だが、相対するは不死の王。紅竜王が十全に力を出し切っていても未だに底が見えない相手である。
風を斬る音が 轟音が 燃え尽くさんとする炎がガロンへと襲い掛かる。
しかし、それでもガロンは受け流し、時には多影が受けきり、紅竜王の拳がガロンを捕らえることは未だにない。悪態をつきたくなるほどであると紅竜王は考える。
そして次の瞬間、ガロンは一人の多影が消えたと同時に紅竜王の後ろへと転移する。
「同じ手は食わぬ!」
紅竜王も予測していたのであろう。目の前からガロンが消えたと同時に裏拳を繰り出す。だが、そこにいたのは霧散するガロンであった。
しまった!と紅竜王は理解する。そして
「闘拳奥義、多影連撃」
その言葉を最後に紅竜王は意識を手放した。
「あ、目が覚めましたか?」
ガロンは紅竜王の意識が戻ったのを感じ取り声を掛ける。紅竜王は寝転がり顔だけを動かしガロンへと向ける。
「・・・・創造主が自らで確かめろと言ったこともわかるな」
紅竜王の中に悔しさはない。むしろ全力を出せたことに誇りを持っているほどだ。
そしてガロンはこの男に対して声を掛けるべき言葉は何が良いかと悩んでいた。強さについていうならばまさしく強かった。だが、それを言葉にするのは無粋だろう。
ならば――
「紅竜王さん。俺の元に来ませんか。貴方の力が必要です」
そう言ってガロンは頭を下げる。それを紅竜王は一瞬呆けて眺めていたが目を閉じる。まったくこの男は・・・なんとも面白いやつだ。と思う
「命令でなくお願いとはな。いいだろう。元より先の戦いは力を示してもらうためだったが気が変わった!」
紅竜王は立ち上がると守護結界を消しガロンを見やりそして執事のごとく流麗に腰を折る
「この紅竜王。今より我が主ガロン様の剣となり盾となることを誓おう」
この至高の主に仕えるのがきっと運命だったのだろうと紅竜王は思う
そしてガロンはその誓いに対して笑顔で迎えいれたのだった。
王都編 第10説「紅竜王戦」




