第67話 前宰相の登城
翌朝、
メロゥ家の人達とカールトンおば様に見送られ、私とシオンは馬車に乗り一路王都へ出発した。おじ様は私用で朝早くから馬車に乗り出掛けて行ったらしい。
途中、私達は馬を休ませるのと自分達の休憩もかねて、通り道にある湖畔のほとりで昼食をとることになった。
メロゥ家の使用人が持たせてくれた軽食をバスケットから取り出し、敷物に並べる。
本当なら私も一緒に作りたかったのだけれど、馬車に乗せる荷物が思ったより多く、夜遅くまで荷造りするはめになってしまった。
そのため軽食準備は専門の料理人にお願いしたのだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
隣に座るシオンに葉物野菜とハム、トマトを挟んだパンを渡す。
「これはリリアナが作ったの?」
「ううん。昨夜つい荷造りで遅くなってしまって、家の人に作ってもらったの」
リリアナお手製のものと聞けば大抵シオンは喜ぶ。だが違うとわかり、すぐに彼の顔が曇った。そして心配そうに私の頬にそっと触れる。
「そうか、だから昨夜いつまでも部屋に灯りがついていたんだな。目の下にクマもあるし」
「!」
クマがあるなんて恥ずかしい。朝準備の時、鏡を見てもまったく気づかなかった。咄嗟にこすろうとするとシオンに手を止められた。
「擦ってもクマは消えないよ。逆に目を痛めてしまったらいけない。食事を終えたらすぐ出発しよう。馬車の中で少し眠るといい。あとはそうだな、王都に戻ったらまた一緒にランチをしよう。その時はリリアナの手作り楽しみにしてるよ」
「ええ、もちろん。頑張って作るわ!」
優しく言うシオンの前で私は気合いをみせるように、握りこぶしをつくってみせた。それをみてシオンはフッと笑う。
ランチ休憩後、再び馬車に乗り込む。少し休むよう言われ、私はシオンに寄りかかり、そっと目を閉じた。
◇◇◇
一方、その頃の王都。
王城に珍しい人物が登城していた。普段辺境の領地で貴族との交流がほとんどない生活をしているせいか、久しぶりに服装を決めるのに頭を悩ませた。
現役時代、使用していた物だが妻が事前にそれらの服を今風に仕立て直してくれていた。帰ったら再度妻に感謝を伝えねばと思う。
「お久しぶりでございます。カールトン卿」
なぜか城内の者達が出て、皆ずらりと整列し頭を深くさげ出迎える。
基本城に勝手に出入りすることはできないため、さすがにエドワルドも登城する旨を伝えてはいる。
だが、これがあるからエドワルド・カールトンはひっそりと少し小さめの入口から入ろうとしたのに、見つかってしまった。
カールトンは爽やかな顔で微笑んだ。
「皆、突然来てしまって申し訳ないね。本当はこんな風に来るつもりはなかったのだけど、少し用があってね、お邪魔させてもらうよ」
皆早く自分達の持ち場に戻って仕事を続けて、と言葉を加えておく。彼らは「はい」と元気よく持ち場に戻っていった。
このエドワルド・カールトンという男はフェリシアの暗黒期を先王と共に駆け抜け、一時代を築いた。立役者の一人、宰相の任に就いていた男である。
現在の平和で豊かなフェリシアがあるのはこの男の働きによるものといっていい。
そのため城の者達はカールトンを尊び礼をもって接するのだ。
皆が去り静かになった所で長い回廊の奥から立派な身なりをした金髪の美しい青年が来て歓迎の言葉を口にした。
「よく来たなカールトン。学園の卒業式以来か。久しぶりなのだから、城でゆっくりしていくといい」
「殿下、息災であられましたか。此度は突然の来訪、お心遣い感謝いたします」
明るく労いの言葉をかけてきた彼はジークハルト殿下。フェリシア王国第一王位継承者であり、エドワルドの教え子シオン・リュミエールと同年である。エドワルドは彼に片膝をつき深く頭を垂れた。
「よい。立ってくれカールトン。私も会いたかった。今日はゆっくりしていくのだろう? 私は午後から少しだが時間がある。久しぶりにお茶でもどうだ?」
「これは嬉しいお誘いでございますね。それではその頃殿下の所にお伺い致します」
「わかった、ではな」とジークハルト殿下が回廊を歩いていった。おそらく執務室に行ったのだろう。
カールトンもまた回廊を歩き始める。そこからは美しく管理の行き届いた庭園が見渡せるのだが、その先へ向かった。目指すは城の端にある離宮だ。
離宮に近づくにつれ、人がまばらになっていく。ひっそりと佇むそこの入口には近衛が立っていた。彼はエドワルドの姿に気づくと、一瞬驚いた顔をした後、頭をさげた。
連絡を受けた侍従頭の男が来てエドワルドを案内する。




