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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アレス島再び
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97/207

97.火の精霊

 カイン達三人は、島に流れる川であった場所を挟む吊り橋を渡り、火山へと向かっていった。

 川の水は火山灰に吸収され、既に存在していない。


「ごほっ、ごほっ……。」


 リラは、酷くなっていく火山灰と硫黄臭に咳込むばかりだ。


 だから残ってろって言っただろ。


 そう言おうとしたが、愛しい妻が自分の傍から離れまいと腕に抱き付いてきたため、カインは言葉を飲んだ。

 その二人の後姿に、オリバはほんの少し胸が締め付けられるが、それ以上に、腕の中で眠るレンジの事が心配で、大切だった。

 足場はひどく不自由だ。

 深く降り積もった火山灰が行く手を遮る。

 灰に含まれた成分が、三人のゴム製の靴を青く変色させる。

 視界が灰色ばかりで、まるで別世界に来たような感覚に陥る中、カインは大きな岩場に出来た洞穴を発見した。


「何だここ?」


 洞穴の周りだけ、不自然に火山灰が少ない。

 そして、何やら靴の痕が見えることから、三人は人の出入りがあることを察知した。


「もしかしたら、じーさんの言ってた奴らかもしれねぇ。

 火山に何かしたっていうんなら、俺がぶっとばしてやる!」


 リラは、何の用心もなく、つかつかと洞穴に向かっていく夫を止めた。

 この男は本当に学者なのだろうかと、時々疑ってしまいそうになる。


「カイン!

 決めつけちゃダメよ。

 もしかしたら避難してる人達かもしれないし……。」


 洞穴の中を覗くと、そこは薄暗かった。

 地面を見てみると、オイルランプの割れた硝子の破片や、非常用の缶詰が目に入ってきた。

 カインは持参したオイルランプに火を灯し、洞穴の奥へと突き進む。

 すると、奥の方から何やら人の声が聞こえてくる。

 三人はオイルランプの火を消して、会話に耳を傾けることにした。


「なぁ、火の精霊さんよ。

 いつになったら俺達に協力してくれるんだ?」


「……ふざ……けるな……!

 俺は……お前らなんかに……力は貸さん!」


「やせ我慢は良くないよ?

 それになぁ、こっちも時間がないんだよねぇ。

 ほらほら!」


「ぐあぁッ!!」


 三人は目の前の光景を疑った。

 青白い稲妻が常に通っている檻の中に、深紅の髪をした青年が閉じ込められていた。

 その稲妻はどうやら魔力を含んだ特殊なもので、稲妻が檻を走るたび三人の身体に違和感が走る。

 青年の目は殺気立っており、檻に触れる度に身体が跳ね返されていた。

 長い黒髪を一つに束ねた男が、装置のスイッチを入れると、檻にはより強烈な稲妻が走る。

 その特殊な稲妻を浴びた青年の身体は、びくん、びくん、と不規則に跳ねていた。


「なんて惨いの……!」


 残酷な光景に、リラは口に手をあてがう。

 レンジを抱くオリバの身体には、自然と力が入る。

 そのせいか、レンジは起きてしまった。

 薄暗い視界と何かしらの恐怖を感じた幼子は、火がついたように泣き叫んだ。

 いるはずのない幼子の声に反応して、男がこちらに目をやると同時に、三人はその場に飛び出した。


「てめぇ、何やってんだよ!

 何で同じ人間に、そんな残酷な事が出来るんだよ!」


「人間?」


 カインの言葉に、黒髪の男はクックッと静かに笑った。

 その歪んだ笑いは、オリバの脳裏に焼き付いた。


「何か勘違いをされてるようだけど?

 こいつは人間じゃない、火の精霊さ。」


「火の精霊……!?」


 檻の中にいるその姿は、何処からどう見ても深紅の髪色をした青年であった。

 握り拳をつくったまま、床に伏せている青年を助けようと、カインとリラが檻に近づこうとした。

 すると、黒髪の男が二人の前に立ちはだかった。


「おっと。

 こいつは、我々アカデミーにとって大切な研究対象だ。

 お前らごときが触れていいものじゃない。」


 気配を感じた三人は辺りを見回すと、そこには白衣を着た男達が五人、ナイフや短剣を持ってこちらにじりじりと詰め寄っていた。

 オリバは泣き叫ぶレンジを一旦リラに渡すと、カインと共に身構える。

 そして、男達がカインとオリバに襲い掛かってきたが、二人は目にも止まらぬ連続技で五人を倒した。

 二人は、研究ばかりしている学者とは違い、幼いころからケンカで鍛えられており、その延長線上で武術の腕を磨いていた。


「ザコに用はねぇんだよ。」


「そうよ。

 あんたが親玉なんだろう?」


 オリバは再びレンジを抱き、カインは黒髪の男に詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。


「お前ら……火の精霊に何をした!?

 そのせいで火山が噴火しているんじゃねぇのか!?」


 黒髪の男は先程の彼らの戦いぶりを見て、力ではかなわない、と悟ったのだろう。

 素直に白状した。


「そうさ。

 火の精霊の力を制御して、アカデミーへ連れて帰るつもりだったんだよ。

 だがなぁ、こいつはひどく強情な奴でね。

 数か月も閉じ込めてるのに、まだいい返事をしないんだよ。

 こいつの怒りと島の火山が共鳴して、噴火を起こしていたんだ。」


 カインは、黒髪の男の話で噴火の原因を突き止めた。

 そして、思いっきり男の頬を殴った。

 吹っ飛ばされた男は一瞬、火の精霊が閉じ込められている檻に目をやると、檻の鍵を置いて立ち上がった。


「俺はこの島を出ていくよ。

 どうせ此処に居ても、火の精霊はいい返事をくれないだろうしな。

 鍵を此処に置いておくからさ。

 だからさぁ、もう許してくれよ。」


「消えろ……。」


「え?」


「消えろっつってんだよ!!」


 カインの怒鳴り声が洞穴に響いた。

 黒髪の男は、一瞬顔を歪めると、平然とした様子で向きを変える。


「メ、メビウス様……。」


 足にすがろうとしてくる、カインに倒された部下の手を思い切り踏みつけ、その場を後にした。


「今は退いてやる、今は……な。」


 そう呟きながら。

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