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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アレス島再び
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95/207

95.おかえり

 レンジ達一行は、瞬間移動魔法テレポートによって、ポートベリーへと移動していた。

 昨夜、レンジ達はそれぞれが得た情報を交換し合った。

 もちろん、印の魔法については触れないでいた。

 共通の情報として分かったのは、アレス島にはかつて火山が存在したこと、そしてオリバとレンジの両親が、ブックガーデンの出身であるということだった。


 ポートベリーの港に到着した船が、汽笛を鳴らしている。

 汽笛の音が耳に入ってきた時、レンジの脳裏に、あの日の記憶が鮮明に蘇る。


「レンジとは、ここでお別れしたんだよね。」


 ハープが自分と同じことを考えていたということに、レンジは驚き、彼女の顔を見やった。

 するとそれに気付いたのか、彼女もこちらに視線を向ける。

 二人の目が合った時、彼女はにこっ、と微笑みかけてきた。

 つられて笑いそうになったが、レンジは妙な照れ臭さを感じた。

 そしてそれを隠すために、頭をぽりぽりと掻く。

 ハープは、レンジが照れた時に行うその癖を見抜いていた。

 それが何故だか嬉しくて、可笑しくて、くすくすと笑うのだった。


 二人の間に何があったのかは知らないが、ロイドにとってその光景は少々面白くない。

 だが、昨日シアードに男のやきもちはみっともないものだと釘を刺された彼は、今一つ行動に移せないでいた。

 本当はハープの手を引いて、かっさらってやりたいくらいだ。

 体の奥底から湧き出てくる、鈍く締め付けられるような気持ちと必死になって戦っている時、レンジが口を開いた。


「なぁ、シアード。

 何でまた急に帰ろうなんて言い出したんだ?」


「アレス島に火山があったという話は聞いたよな。」


「あぁ、みんなおかしなことを言うんだよ。

 この島で育った俺達がないって言ってんのにな。」


「図書館の学者が、アレス島の火山の噴火原因は、人智を超えた力が関与しているかもしれないと言っていた。

 ……オリバ叔母さんなら、きっと何か知ってるはずだ。」


「そうだな、聞いてみるのが一番だ。」


 五人はポートベリーを後にして、アレス島の中心に広がる森の中へと入って行った。

 草木のところどころから、フレア草が顔を覗かせる。

 懐かしがって見ている時、茂みの方から草木の擦れ合う音が聞こえてきた。

 殺気が溢れる気配と草木が揺れ動く様子に、この島育ちであるレンジは、そこに何がいるのかは分かっていた。


「ガァッ!!」


 案の定ベアが牙を剥き出し、鋭い爪を向けて襲い掛かろうとしてきた。

 だが、今のレンジにとって、この島の魔物など敵ではなかった。

 がら空きになった腹部に左右打ちを素早く決めると、ベアは口を開けたまま背中から倒れた。

 どうやら気を失ったようだ。


「ありゃ。」


 倒したベアの腹部には、見覚えのある火傷の痕があった。

 どうやらこのベアは、ハープとフレア草を探していた時に襲ってきたベアの様だ。

 いつかレンジ達に復讐してやろうと、執念深く思っていたのかもしれない。


「何やってんだ、早くとどめを刺せよ。」


 ロイドが二本あるうちの片方の剣を、ベアの心臓部に構えた。

 だが、シアードはロイドの手を掴み、目を見ながら首を横に振った。


「放っておけ。」

 

 今は狩りをしにきたわけではない。

 島の人々は、たとえ魔物であっても、この島の生き物の無駄な殺生を好まない。

 半生以上をこの島で過ごした彼もまた、仲間であっても、余所者にベアを殺されるところを見たくなかったのだ。


「わ、わかったよ。」


 シアードの真剣な眼差しに根負けしたロイドは、剣をしまう。

 そして、イラプの村に着くと、村人が駆け寄ってきた。


「レンジ、随分久しぶりだな!

 あれ、お前、ちょっと背が伸びたか?」


「へへ、まあな。」


 イラプの村の人口は百にも満たないほど少ない。

 だからこそ、村全体が和気藹々とした雰囲気に包まれている。

 彼らは皆、旅に出た三人のことを心配していたのだ。

 ちゃんと食事を摂っているのか。

 魔物に襲われたりしていないだろうか。

 シアードは無事なのだろか……これは主に村の女性陣の思いだが。

 ハープとロイドは、人情味に溢れたこの村の雰囲気が落ち着かないでいた。

 ラクベールの都には、旅立った自分たちを出迎えてくれるようなことは無い。

 自分たちを心配してくれるような声など一切無い。

 下界の人間に育てられた二人にとって、この村の和気藹々とした雰囲気は羨ましかった。

 そして、心地いいとさえ思えた。


「レンジ、オリバ叔母さんに会ってやれ。

 いつもいつも、お前の事、心配していたぞ。」


「あぁ、もちろんそのつもりだ。」


 レンジは村人にそう告げて、家へと向かった。


「オリバ叔母さん!」


 レンジは、勢いよく家の扉を開けた。

 そこには旅立つ前と変わらぬ様子で、椅子に腰かけて紅茶を飲むオリバの姿があった。

 そして、柄の擦れたカップをテーブルに置くと、優しい声で言った。

 おかえり、と。


「お……叔母さーん!!」


 気が緩んだのだろう。

 レンジとセレスは、恰幅の良いオリバの身体に飛び込んでいった。

 彼女の丸みを帯びた手が、二人を抱きしめる。


「元気そうで良かったよ!

 あんたたちも、よく来たね。

 さぁさ、こっちへ来てお座り。」


 オリバの張りのある優しい声は、ただ突っ立っているだけであったハープとロイドの耳に心地よく響いた。

 

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