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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
グリーン・ヴァレ 歴史と考古学の街ブックガーデン
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88/207

88.デート

 レンジは、隣にいるハープの表情を何度も横目でちらちらと見ていた。

 ハープがその視線に気づき、視線が合うと、少年の顔は驚くほど真っ赤に染まる。


 いつものように、笑った顔をちっとも向けてくれないレンジに対し、ハープは胸が締め付けられるような感情を覚える。


「ねぇ、レンジ。

 どうして私の事避けてたの?」


「避けてなんかねぇよ。」


「ウソ。」


 ハープが足を止めて、レンジの正面に位置を変える。

 レンジは、彼女は本当にずるいと思った。

 ハープの澄み切った瞳の前では、誰も彼もがウソをつけなくなるからだ。


「……かっこ悪いトコ、見せちまったからだよ。」


「いつ?」


 全く覚えのない事に、ハープは思わず首を傾げた。


「風の谷での事さ。

 オーガの子供がさらわれて、エイル族もオーガも困ってるときに、俺は自分が加護を授かる事ばかり考えていたんだ。

 ロイドに負けたくないとも思ってた。

 なのに、ロイドはちゃんと周りのこと考えてて……。

 ……そうだよな。

 そんな事じゃ、精霊も、そりゃあ見向きもしないよな。

 こんなかっこ悪いとこ、ハープにだけは見せたくなかったんだよ。」


 先程まで狼狽していたレンジは、元気なく俯いてしまった。

 一方でハープは、彼が自分を避けていた理由が判明したことで、心が晴れやかな気分になった。


「私は、レンジの事、かっこ悪いだなんて思った事は一度もないよ。

 怒りたいときには怒るし、悩むときには悩むし、楽しいときには笑う。

 真っ直ぐで正直な、そんなあなたがいつも凄いと思うし、羨ましいって思ってるの。

 私も……自分の感情を正直に出せるような人になりたいな。」


「ハープ……。」


 レンジは、ハープが真剣な表情の中に、何かを隠している事を感じ取った。

 だが、敢えてそこには触れないようにした。

 いや、彼女が触れさせないようにした、という方が正しいのかもしれない。


「今日は、旅とか精霊だとか、そういうのは忘れよう?

 今日……ううん、今だけでいいから……。」


 ハープはそう言うと、そっと、レンジの左手を握った。

 今まで、こんなに幸せなことがあっただろうか。

 いつになく大胆な彼女の手を、レンジも優しく握る。

 まるで、トリノの繊細な硝子細工に触れるかのように。

 反応が返ってくるとは思いもしなかったのだろう。

 ハープは驚き、思わずレンジの手を離してしまう。

 頬が桃色に染まる彼女の表情は、今までに見た事のない表情だった。


「───可愛い。」


 レンジは、そう呟いた。

 純粋に、そう思ったからだ。

 だが、ハープはその言葉に対して、耳も頬も真っ赤になりながら顔を背けた。


「ご、ごめんなさい。

 何て言えばいいのか……私、どんな顔をしたらいいのか……分からないの。」


 頬に手を当てて、か細い声でそう話すハープが、レンジは愛おしくてたまらなかった。

 結局、再び手を繋ぐことはなく、二人は街の店が立ち並ぶ場所まで歩いた。

 この街にある店の半分は本屋であるが、食べ物を売る店も数多く存在する。

 レンジはこじんまりした露店の店の隣で、風の精霊の好物であるメロンで作られたシャーベットを二人分購入する。

 実をいうとレンジは辛味が好きで、シャーベットのような甘い物を好まない。

 だが、甘い物が好きなハープに付き合うために二人分、購入したのだ。


「これ、すっごく美味しい!」


 ハープがあまりにも美味しそうに食べるので、自分も一口、口に含んだ。

 メロンの慣れない風味と甘みが口いっぱいに広がる。

 好んで食べない甘い物が、愛しくてたまらないハープが隣にいること、


「ほんとだ、美味いな!」


 それだけで、彼にとって最高の味へと変化する。


「あっ。」


 レンジは、ある本屋の店頭へと駆けて行った。


「どうしたの?」


「これ!」


 興奮気味のレンジが指す方向に、ハープは目をやった。

 そこには、本がずらりと並んでいる。


「『好きな女は、こう落とせ!モテない男の必勝バイブル』って。

 レンジ、こういうのが読みたいの?」


 ハープの言葉に、レンジは思わず本が並ぶ棚を見た。

 そこには、まるでガラットのように筋肉質な男が表紙の雑誌があった。

 レンジは、ぶんぶんと頭を横に振って思いっきり否定した。

 少々、読みたいと思ったが。


「違ーう!!

 そんなのじゃねぇ、その隣の棚だよ!」


 そこには、あの世界で有名な物語、『300年の平和』の絵本が並んでいた。

 

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