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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
グリーン・ヴァレ 歴史と考古学の街ブックガーデン
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85/207

85.再会

「セレス!」


 セレスは、自分を呼ぶ声に足を止めた。

 その声の主になら、自分の今の胸中も顔もさらけ出してもいい。

 そう思えたからだ。


「あんな事聞いたら、泣いちゃうよね。」


「……ハープ。

 私、悔しいよ。

 だって国同士の約束だなんて、どうすることも出来ないじゃない!」


 セレスは振り向くや否や、ハープに抱き付いて泣き出した。

 自分よりも少しばかり背の高い彼女の背中を、ハープは黙って優しく撫でた。


「セレス様、どうしたのかしら……。

 まさか、私とシアード様の事、祝福してはくれないのかしら。」


 世間知らずの姫様は、非常に不思議がっていた。

 悪気がないのは分かっているのだが、セレスの気持ちを知っているからこそ生じる苛立ちというものがある。

 同じく想いをよせる者がいるロイドには、セレスの気持ちが痛いほどよく分かる。


「誰もがみんな、あんたの恋を祝福できるわけじゃない。」


 壁にもたれかけていたロイドが腕を組んだまま、ルナ姫にそう言った。


「それに結婚というものは、本来愛し合った者同士でするものじゃないのか。

 肝心なシアードの意思はどうなんだ?

 あんた、約束約束っていうけど、シアードの意思は聞いたのかよ。」


「こ、これロイド殿!

 この方はリューベルクの姫君です。

 口が過ぎますぞ!」


 慌ててバートが止めに入るが、ロイドの表情は面白くないと言わんばかりであった。


「まぁ、なんて方なの!

 無礼にも、程がありましてよ!」


 ルナ姫は目を見開いて、口元に手を当てている。

 彼女は気づいていないのだ。

 彼女の一人歩きした惚気が、セレスが宝物のように大切にしてきた想いを踏みにじってしまったという事に。

 バートが間に入り、双方を諌める中、ロイドはとどめの一言を放つ。


「王族の約束だとか、そんなくだらないものに頼らないで、自分の力で振り向かせたらどうなんだ?

 世間知らずのお姫サマ。」


 ロイドは、ふん、とそっぽを向き、ルナ姫には目もくれず部屋を後にした。


「……バート様。

 私、非常に不愉快ですわ。

 シアード様に会いに来ただけですのに、どうしてこのような不愉快な思いをしなければならないのです!」


「ルナ姫、一度、中庭に行きましょう。

 花を見た後、紅茶でも飲んで気分転換しましょう。

 そ、それではレンジ殿、しばらく坊ちゃまを見ていてはくれませぬか。」


「あぁ、いいよ。」


 こうして部屋の中は、レンジとシアードの二人だけになった。


「……シアード。

 もう起きてもいいよ。」


 レンジの言葉に、シアードは目を開けて上体を起こした。

 やれやれ、と言わんばかりの半ば呆れた表情を浮かべている。


「シアード、久しぶりだな!」


「……いろいろと疲れた。」


「ははっ、だろうな!

 何となくだけど、侍女の様子見てたら分かるよ。」


 シアードは一息つくと、レンジの頭を撫でた。

 いつもと変わらない様子で話すシアードの声は、少年にとって非常に心地いいものだ。


「お前こそ、その様子だと無事に風の精霊に会うことが出来たみたいだな。」


「加護を授かったのは、俺じゃなくてロイドなんだけどね。」


 シアードは意外だ、というような表情を見せる。

 理由は二つだ。

 ひとつは、加護を授かったのがレンジではなく、ロイドだという事。

 もうひとつは、あれだけ毛嫌いしていた彼の名前を、ごくごく自然に口にした事だ。

 何はともあれ、彼らが無事なことにシアードは安堵する。

 カリナーンに残されていても、いつもレンジ達の身を案じていたのだ。

 しかし、目の前にいる少年は、腑に落ちない表情でこちらを見つめている。


「シアードはさ、ルナ姫と結婚すんのか?」


 真顔でそんな事を聞いてくる彼に対して、思わず吹き出してしまった。


「何だよっ、俺、真剣に聞いてんだぞ!」


「あぁ、悪かった。

 俺はあの人と結婚するつもりはない。

 幼いころに約束をしていたと言っても、それは親同士が勝手に決めた政略結婚だ。

 俺がこの国の王になっていたらの話だろう。」


「そ、そっか。」


 レンジは、胸を撫で下ろした。

 それがあまりにも分かりやすくて、シアードは笑いそうになるのを奥歯を噛んで堪えた。


「それに俺は、城の暮らしがどうも向いていないみたいだ。」


 シアードはカリナーンの第一王子でありながらも、半生以上、アレス島で自由奔放に生きてきたために、城の暮らしが窮屈で仕方なかったのだ。

 

「レンジ、次に行く場所は決めているのか?」


「いや、特には決めてないけど……。」


「もし良かったら、グリーン・ヴァレに戻って、ブックガーデンという街に行きたいんだがいいか?

 どうしても調べたいことがあるんだ。」


「分かった、みんなにも話してみるよ。」


 二人で部屋の外に出ると、そこにはハープとロイドと、そして目が少しばかり赤くなっているセレスがいた。


「僕はロイド。

 これから一緒に旅することになったんだ、よろしく。」


「あぁ、よろしくな。」


「シアード!

 無事でよかった。」


「心配かけてすまなかったな。」


 シアードはハープにそう言うと、隣にいたセレスの頭をくしゃっと撫でた。


「お前は昔から、泣き虫だな。」


「だって……。」


 セレスは、そのままシアードの胸に飛び込んだ。


「シアードがいなくて、本当はすごく心細かったの……。

 すごく心配したんだから……。」


「すまない。」


 シアードはセレスの頭を二度撫でると、すぐさま身体を離した。

 そしてシェネルに挨拶をしようと王の間に行ったが、彼は謁見えっけんが忙しくてそれどころではない。

 城を出ようと、中庭を抜けて城門へ向かう時、レンジ達はバートとルナ姫に遭遇した。

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