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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
グリーン・ヴァレ 風の谷
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79/207

79.悪夢、再び

「……何で、エイル族、泣く?」


 この場にいるエイル族全員が涙する姿に、オーガは振りかざしていた棍棒をすっと下ろす。


「私達エイル族は、相手の心の中を読むことが出来るんです。

 悲しかったろう、辛かったろう。

 どれだけ待ちわびたことだろう。

 私も親だから、母親の気持ちが痛いほど分かります。

 あの地響きで、君達の異変に気付いていれば良かった。

 そうすれば、何か手伝うことが出来ていたかもしれないのに……。」


 ゲイルがそう言うと、連れ戻したオーガの子供が、エイル族とロイド達の目の前に立ちふさがった。

 そして、男のオーガに向かって大きく手を広げ、みんなを守るような格好をとり、大声で訴えた。


「オーガやめて、エイル族、この人たち、いい人!

 ニンゲン、いやな奴いるけど、いい人、ちゃんといる!

 この人たち、いい人!」


 その時だった。

 

「ぐわっ!!」


「きゃあっ!」


「うわあっ!」


「がはっ!!」


 エイル族とオーガの何人かが、次々に倒れていく。

 上空から降り注ぐ細い漆黒の光線が、彼らの身体をいとも簡単に貫いていく。

 四人はそれを瞬時に避け、光線が降ってくる上空を見上げた。

 そして、世界樹の森で起きた、悪夢が蘇る───。

 

「ゼロ……!!」


 宙に浮いた青白い少年は、人差し指から光線を打ち続けている。

 今度は、先程のようにエイル族やオーガを殺そうと狙っているのではなく、脚部や腕部といったあたりを狙っているように見える。

 エイル族に至っては、翼を主に狙っているようだ。

 痛みを伴わせ、ゆっくりとなぶり殺すつもりなのだろう。

 その光景に、オーガは怒りで、エイル族は恐怖で身体を震わせていた。


「あいつ、許さない!!

 オーガ、あいつ、殺す!!」


 オーガの一人が、ゼロを目掛けて棍棒を投げるが、相手は思ったよりも上にいるようで、それは届かないでいた。

 すると、先程まで縮こまって震えていたエイル族が、立ち上がった。

 オーガの心に広がる憤激に、彼らも引っ張られたのだ。


「僕達も奴が許せない……!

 仲間にこんなことする奴は、絶対許さない!!

 オーガ、僕らに考えがあるんだ。」


 すると、翼と腕部が無傷であるエイル族は、オーガを後ろから持ち上げた。


「オーガ、浮いてる……?

 すごい、鳥みたい。」


「……僕達エイル族は、君らオーガや人間みたいに武器を握ることは出来ない。

 だから、僕らの分まで戦ってほしいんだ。」


 オーガは、震える声で喋るエイル族の表情を見た。

 そこには、涙を流すまいと唇を噛み締めて我慢している顔があった。


「哀しみとか、苦しみとか、そういうの、ぜーんぶなくなっちゃえばいいのにね。

 みんな、心の何処かにそういう感情を抱いているんだ。

 僕達、そういうのが見えちゃうからさ……。

 だからこそ、泣いてはいられないって思うんだよ。」


「エイル族……。」


「何?」


「エイル族、いいやつら。」


「ありがとう。

 じゃあ、行くよ!」


 すん、と鼻を一度啜る音が聞こえたかと思うと、エイル族はゼロを目指してさらに上空を目指す。

 二十近くの、空を飛ぶオーガの組み合わせが、ゼロを取り囲む。

 そして、男のオーガの掛け声を合図に、皆一斉に棍棒を投げつけた。

 青白い半透明のゼロの身体に、それは次々と命中していく。

 傍目から見ると、青年一人に対して一斉に攻撃するのは如何なものかと思うかもしれないが、それはゼロの力を知らない者の考えだ。

 オーガとエイル族の視界には、全身が痣だらけになったゼロの姿がある。

 当のゼロは握り拳を作り、顔面の目の前で交差させて身を守っていた。


「すっげー……。

 空飛ぶオーガか!」


 レンジとハープは、ただただ上空を見つめていた。

 セレスは、傷ついた者に治癒魔法をかけている。


「ヴォルス、僕も戦う。

 僕をゼロの近くまで連れて行ってくれ。」


 ロイドが、ゴーレムにそう頼んだが、ゴーレムはゆっくりと首を横に振った。


「何故だ!?」


 理由を聞いても、ゴーレムは言葉を話すことが出来ない。

 ロイドは成す術がないまま、ただ黙って上空を見つめるしかなかった。


「攻撃、効いてる!

 オーガ、上からやる!」


「分かった、行くよ!」


 合図を送った男のオーガは、ゼロの真上に飛ぶよう、エイル族に指示を出す。

 真上に位置した時、オーガはゼロの頭に棍棒を振りかざそうと、棍棒を振り上げた。

 そして、オーガの攻撃はゼロの頭に命中した──はずだった。

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