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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
グリーン・ヴァレ 風の谷
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77/207

77.認めたくないけど

「よっと!」


 レンジはロック鳥の脚に飛び乗り、全身を使ってしがみ付いた。

 一方でロイドは、レンジとは逆の脚の爪先に飛び乗り、三本あるうちの二本の指を双剣で斬り落とした。

 大地を揺るがすほどの断末魔が、リアンの街中に響き渡る。

 その間に、二人はロック鳥の頭から生える、長く美しい虹色の毛にしがみつく。

 ロック鳥は二人を振り落とそうと、猛スピードで飛び回ったり、頭を振り回したりしている。


「……綺麗だな。」


 ロイドは、虹色の毛のあまりの美しさに、思わず声を漏らした。


「バカ、何を呑気なコト言ってんだてめぇはッ!

 それより、コイツをぶっ倒すぞ!」


「───レンジ。

 こいつの動きを鈍らせることはできるか?」


「え?」


「このまま普通に攻撃しても、恐らくこいつにダメージを与えられないだろう。

 僕が魔法剣の魔力を最大限に高めている間、こいつを、お前一人に任せてもいいか?」


 レンジは驚愕した。

 まさかロイドの口から、自分に対して「任せる」という言葉が出るとは思わなかったから。

 

「……分かった。

 落ちるんじゃねぇぞ!」


「あぁ、お前こそな。」


 レンジは、ロック鳥が猛スピードで飛び回る中で全身の羽毛にしがみ付き、右翼部まで移動した。

 一撃強打をお見舞いするも、分厚くて大きな羽根にその衝撃は吸収される。


「うりゃりゃりゃりゃ!!」


 レンジは自分の身長ほどもあるロック鳥の羽根を、次々にむしり落とした。

 大きくて美しいその羽根は、右に、左に、揺れながら地に堕ちていく。

 半分ほどむしり散らしたところで、ロック鳥の柔らかそうな地肌が見える。

 

「せーのっ!」


 翼を支える細い腕骨に向かって、全身の力を込めて正拳突きを決めた。

 ボキッ、と骨を折る、嫌な音が聞こえた後に追い打ちをかけると、飛び回っていたロック鳥の動きが鈍くなった。

 いつもは分厚い羽根に守られていたため、剥き出しにされた地肌には防御力など皆無である。

 いくら小さなレンジの拳でも、ロック鳥にとっては、神経を針で無数に刺激されるような痛みだった。


「ロイドーっ、まだかよーっ!?」


 レンジはバランスを崩し、ロック鳥の羽毛にしがみつくのがやっとの状態だ。

 羽根むしりに思わぬ体力を奪われた少年は、羽毛を掴む手に力がほとんど入らないでいた。

 そして、ロイドの双剣は、岩で出来た長細いランスのように変形していた。

 その見た目は非常に長く頑強で、何かを突き刺すのに適している。

 ロイドは双剣を持ったままロック鳥の頭上に立ち、レンジの方を見て呟いた。


「レンジ。

 お前、がむしゃらだけど強いな。

 ……認めたくないけど。」


「何か言ったかー?

 風で聞こえねぇ!!」


 ロイドはロック鳥の頭に目をやり、狙いを定めると、


「くたばれ、化け物!」


 両手に持つ岩のランスを、ロック鳥の脳天に渾身の力を込めて突き刺した。

 巨大な鳥の断末魔が、リアンの街だけではなく、アルメイン大陸の広大な大地に響き渡る。

 突き刺した岩のランスは、ロック鳥の脳天から舌まで貫通し、ロック鳥はそのまま海辺へと急降下していく。

 

「くッ……!」


 ロイドはレンジの手を掴み、そしてもう片方には、あの虹色の毛を握っていた。

 このまま海へ真っ逆さまに落ちていくことを覚悟したレンジは、ぎゅっと目を閉じた。


「いてぇっ!」


 だが、着地したのは水中ではなく、ごつごつした岩の上だった。

 レンジの視界には、見覚えのある色味の岩壁が広がった。

 

「遅いよ。」


 そこには、瞬間移動魔法テレポートで連れて来られなかったゴーレムの姿があった。

 ゴーレムは、ロイドが心配であの後を追いかけて来ていたのだ。

 ゴーレムは水が苦手だと広く知られているが、両足は海に浸かっている。

 その献身的な姿に、セレスやハープはもちろん、リアンの人々も心を打たれた。

 

「ヴォルス。

 これ、お前にやるよ。」


 ロイドは、ロック鳥の頭に生えていた長く美しい虹色の毛を、ヴォルスの太い指に結んだ。


「お前があんまりにも殺風景なだけで……別に、特別な意味なんてないからな。

 勘違いするなよ!

 全く……これもセレスが変なこと言うからだ。」


 ロイドは照れているのだろう、自分を見つめるゴーレムの目線を、プイッと逸らした。

 だが、ゴーレムは彼の耳が真っ赤になっていることを見逃さなかった。

 ゴーレムはゆっくりと二人を地上に下ろすと、リアンの街中には拍手が湧き起こる。

 レンジは、未だ呆然とし続けるドン・チェルニの目の前まで歩いていく。


「……おっさん。」


「私に……偽物をつかませたのか?

 はっはっは、なかなかやるじゃないか。」


「そんなんじゃねぇよ。

 きっと、本物なんかきっと出回ってないんだよ。

 本物はアカデミーが……。」


「レンジ、気休めはよしてくれ。」


 ドン・チェルニは、自分の肩に置かれた少年の手をゆっくりとどかした。


「あの、こんなものに頼らなくていいように、私が何とかします。

 私が……ちゃんと魔法を覚えて、ユニベルを平和に導きます。

 ですから……気を落とさないでください。」


「おかしなことをいうお嬢さんだな。

 だが、何やら強い意志を感じるよ。

 すまなかったね。

 君の忠告を聞かないで、あの石を使ってしまって。」


「あんなに大きな魔物が目の前にいたんです。

 当然の反応だと思います……。」


 目の前にいる可憐な少女に、自分はこんなに悲しい顔をさせてしまっている。

 いつもいつでも紳士でありたい彼にとって、これ以上の苦楚はない。


「はっはっは、そんなに悲しい顔をしないでくれたまえ。

 今宵はあなたの夢でも見ることにするよ。

 ありがとう、美しい女神様。」


 そして、ドン・チェルニは使用人を連れて街中へと向かう。


「落ちたロック鳥の羽根を探すんだ。

 きっと高く売れるぞ!」


 レンジ達はドン・チェルニの商人としてのたくましさに、感心せずにはいられなかった。

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