77.認めたくないけど
「よっと!」
レンジはロック鳥の脚に飛び乗り、全身を使ってしがみ付いた。
一方でロイドは、レンジとは逆の脚の爪先に飛び乗り、三本あるうちの二本の指を双剣で斬り落とした。
大地を揺るがすほどの断末魔が、リアンの街中に響き渡る。
その間に、二人はロック鳥の頭から生える、長く美しい虹色の毛にしがみつく。
ロック鳥は二人を振り落とそうと、猛スピードで飛び回ったり、頭を振り回したりしている。
「……綺麗だな。」
ロイドは、虹色の毛のあまりの美しさに、思わず声を漏らした。
「バカ、何を呑気なコト言ってんだてめぇはッ!
それより、コイツをぶっ倒すぞ!」
「───レンジ。
こいつの動きを鈍らせることはできるか?」
「え?」
「このまま普通に攻撃しても、恐らくこいつにダメージを与えられないだろう。
僕が魔法剣の魔力を最大限に高めている間、こいつを、お前一人に任せてもいいか?」
レンジは驚愕した。
まさかロイドの口から、自分に対して「任せる」という言葉が出るとは思わなかったから。
「……分かった。
落ちるんじゃねぇぞ!」
「あぁ、お前こそな。」
レンジは、ロック鳥が猛スピードで飛び回る中で全身の羽毛にしがみ付き、右翼部まで移動した。
一撃強打をお見舞いするも、分厚くて大きな羽根にその衝撃は吸収される。
「うりゃりゃりゃりゃ!!」
レンジは自分の身長ほどもあるロック鳥の羽根を、次々にむしり落とした。
大きくて美しいその羽根は、右に、左に、揺れながら地に堕ちていく。
半分ほどむしり散らしたところで、ロック鳥の柔らかそうな地肌が見える。
「せーのっ!」
翼を支える細い腕骨に向かって、全身の力を込めて正拳突きを決めた。
ボキッ、と骨を折る、嫌な音が聞こえた後に追い打ちをかけると、飛び回っていたロック鳥の動きが鈍くなった。
いつもは分厚い羽根に守られていたため、剥き出しにされた地肌には防御力など皆無である。
いくら小さなレンジの拳でも、ロック鳥にとっては、神経を針で無数に刺激されるような痛みだった。
「ロイドーっ、まだかよーっ!?」
レンジはバランスを崩し、ロック鳥の羽毛にしがみつくのがやっとの状態だ。
羽根むしりに思わぬ体力を奪われた少年は、羽毛を掴む手に力がほとんど入らないでいた。
そして、ロイドの双剣は、岩で出来た長細いランスのように変形していた。
その見た目は非常に長く頑強で、何かを突き刺すのに適している。
ロイドは双剣を持ったままロック鳥の頭上に立ち、レンジの方を見て呟いた。
「レンジ。
お前、がむしゃらだけど強いな。
……認めたくないけど。」
「何か言ったかー?
風で聞こえねぇ!!」
ロイドはロック鳥の頭に目をやり、狙いを定めると、
「くたばれ、化け物!」
両手に持つ岩のランスを、ロック鳥の脳天に渾身の力を込めて突き刺した。
巨大な鳥の断末魔が、リアンの街だけではなく、アルメイン大陸の広大な大地に響き渡る。
突き刺した岩のランスは、ロック鳥の脳天から舌まで貫通し、ロック鳥はそのまま海辺へと急降下していく。
「くッ……!」
ロイドはレンジの手を掴み、そしてもう片方には、あの虹色の毛を握っていた。
このまま海へ真っ逆さまに落ちていくことを覚悟したレンジは、ぎゅっと目を閉じた。
「いてぇっ!」
だが、着地したのは水中ではなく、ごつごつした岩の上だった。
レンジの視界には、見覚えのある色味の岩壁が広がった。
「遅いよ。」
そこには、瞬間移動魔法で連れて来られなかったゴーレムの姿があった。
ゴーレムは、ロイドが心配であの後を追いかけて来ていたのだ。
ゴーレムは水が苦手だと広く知られているが、両足は海に浸かっている。
その献身的な姿に、セレスやハープはもちろん、リアンの人々も心を打たれた。
「ヴォルス。
これ、お前にやるよ。」
ロイドは、ロック鳥の頭に生えていた長く美しい虹色の毛を、ヴォルスの太い指に結んだ。
「お前があんまりにも殺風景なだけで……別に、特別な意味なんてないからな。
勘違いするなよ!
全く……これもセレスが変なこと言うからだ。」
ロイドは照れているのだろう、自分を見つめるゴーレムの目線を、プイッと逸らした。
だが、ゴーレムは彼の耳が真っ赤になっていることを見逃さなかった。
ゴーレムはゆっくりと二人を地上に下ろすと、リアンの街中には拍手が湧き起こる。
レンジは、未だ呆然とし続けるドン・チェルニの目の前まで歩いていく。
「……おっさん。」
「私に……偽物をつかませたのか?
はっはっは、なかなかやるじゃないか。」
「そんなんじゃねぇよ。
きっと、本物なんかきっと出回ってないんだよ。
本物はアカデミーが……。」
「レンジ、気休めはよしてくれ。」
ドン・チェルニは、自分の肩に置かれた少年の手をゆっくりとどかした。
「あの、こんなものに頼らなくていいように、私が何とかします。
私が……ちゃんと魔法を覚えて、ユニベルを平和に導きます。
ですから……気を落とさないでください。」
「おかしなことをいうお嬢さんだな。
だが、何やら強い意志を感じるよ。
すまなかったね。
君の忠告を聞かないで、あの石を使ってしまって。」
「あんなに大きな魔物が目の前にいたんです。
当然の反応だと思います……。」
目の前にいる可憐な少女に、自分はこんなに悲しい顔をさせてしまっている。
いつもいつでも紳士でありたい彼にとって、これ以上の苦楚はない。
「はっはっは、そんなに悲しい顔をしないでくれたまえ。
今宵はあなたの夢でも見ることにするよ。
ありがとう、美しい女神様。」
そして、ドン・チェルニは使用人を連れて街中へと向かう。
「落ちたロック鳥の羽根を探すんだ。
きっと高く売れるぞ!」
レンジ達はドン・チェルニの商人としての逞しさに、感心せずにはいられなかった。




