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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
グリーン・ヴァレ 風の谷
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76/207

76.ロック鳥

 ドン・チェルニは目を輝かせながら感応石を眺めていた。

 珍しいものが大好きなドン・チェルニは、非常に満足げな表情を浮かべ、感応石を空にかざして光を透かしたりして吟味している。


「ロイド、檻の鍵だ。」


 レンジがロイドに鍵を手渡すと、彼は手早く檻の鍵を開けた。


「ほら、お前はもう外に出られるぞ。」


 ロイドが檻の扉を開き、檻から出そうと手を差し延べる。

 しかし、オーガの子供はひどく怯えており、手を近づけると身をよじって遠ざかる。

 そして、触れるか触れないかの距離に手が来た時、犬歯をむき出しにして彼の右腕に噛みついた。


「ロイド!」


 その様子を見ていたセレスが思わず鞭を握りしめ、レンジも咄嗟に構えの姿勢をとるが、ロイドは首を横に振った。

 オーガの子供が噛みついたままでいる腕からは、鮮血が流れ落ちる。

 よほど痛むのか、表情はひどく険しい。

 一方で、オーガの子供も目をきつく閉じてうなり声を上げ、噛みついて離れない。

 牙に近い犬歯をググッと、奥へ奥へと突き刺すかのように顎の力を強めていく。

 ロイドは、オーガの背中に目線を落とした。

 すると、そこには鞭で叩かれたようなミミズ腫れの痕が多数見られた。


「……もう大丈夫だ。

 隠れ里に、母親の元に帰してやる。」


 止め処なく流れる鮮血には目もくれず、ロイドは少年の震える身体を優しく撫でる。

 びくっ、と一瞬子供の身体が強張ったかと思うと、子供は恐る恐る目を開け、視線をロイドへと合わせる。

 彼の自分を見つめる眼差しに、背中を撫でてくれるその手から伝わる優しさに、子供の身体中に走る緊張感と警戒心が解けていく。

 すると、三人は目を疑った。

 彼が撫でていた背中の痕は、跡形もなく消え去ったのだ。


「あなたも治癒魔法を使えるの……!?」


 セレスは、自分以外にも治癒魔法を使う人間がいることを初めて知った。

 ロイドはエルフのように耳が尖っていないとなると、彼も、自分と同じようにエルフと人間の間に生まれた子ということになる。

 ロイドが何かを言いかけたその時、ケーッという鳴き声が空に響き渡り、ものすごい勢いの風が舞い起こる。


「な、何だ!?」


 影がどんどん迫ってくる。

 レンジ達や街の者が空を見上げると、そこには鷲の形をした巨大な鳥がこちらを見ていた。

 以前戦った鶏怪鳥コカトリスとは比較にならない大きさで、見る者の度胆を抜く。

 その鳥の姿に、ドン・チェルニはがたがたと全身を震わせた。


「あれは……ロック鳥!」


「ロック鳥?」


 ロック鳥が、少し離れた街中へと爪を下ろしたかと思うと、馬車と二頭の馬を鷲掴みにした。


「うわああぁっ、助けてくれぇ!!」


 中に乗っていた客と、馬車を先導する御者ぎょしゃが助けを求めて叫び声を上げるが、ロック鳥は空高く舞い上がると、その声は消えた。

 そして、太陽の眩い光によってロック鳥の姿は確認出来なくなったかと思うと、空から馬車の破片や馬の骨らしきもの、そして、御者のシルクハットといった物が降ってくることで、彼らの死を悟った。

 そして、上空から降ってくる赤い小雨からは、鉄の匂いがした。


「おっかねぇ……!」


 その地獄のような光景に、レンジも思わず声を上げる。

 街の人間は取り乱し、慌てふためいている。


「行くぞ!」


 その最中、レンジ達は戦闘態勢をとる。

 しかし、相手は空にいるため、自分達では手出しが出来ない。

 降りてくるところに狙いを定めることにした。

 ハープが詠唱を始めると、周囲に風が生じる。

 すると、風は三本の矢のごとく形を形成し、ハープが示す方向───すなわち、ロック鳥の胸元を目掛けて飛んでいった。

 疾風矢ウインドアローという、風の中級魔法である。

 ロック鳥に三本の矢が命中すると、空中で動きが止まる。

 そして、ドン・チェルニの館を目掛け、黒光りする鋭い爪から急降下してきた。


「何と恐ろしい……!

 そうだ、これを!」


 ドン・チェルニは思い出したかのように感応石を手に取った。

 ハープがそれに気づき、ドン・チェルニの元へと駆け寄る。


「だめ……それを使っちゃだめ!!」


「このままでは、私の屋敷が、財産が……!」


 ハープの声は、ドン・チェルニに届かなかった。

 気が動転している彼は、感応石を高く天にかざした。

 すると、感応石から青白い光が漏れ、薄く広がっていく。


「グエェッ!?」


 ロック鳥の脚にバチッと電撃が走る。

 もう一撃、くちばしをバリアに突き刺そうと攻撃をしかけるが、再度はじかれる。

 ロック鳥は身体が痺れ、大きな羽を何とか動かして浮いているのがやっとの状態となった。


「ふはは……素晴らしい、素晴らしいぞ!

 これが感応石の力……これが……!」


 ドン・チェルニはハープの忠告をきくことなく、ただただ感応石の力に酔いしれている。

 その時、感応石に亀裂が入ったかと思うと、ドン・チェルニの手の中で音もなく砕け散った。


「何てことだ……。」


 手のひらに散らばる欠片を見て、ドン・チェルニは呆然としている。

 青白いバリアが消え去ったことが分かると、ロック鳥は三度目の攻撃を仕掛ける。

 鋭い爪で、ドン・チェルニを鷲掴みにしようとする。

 呆然としている彼に、避ける気力などない。

 そこに、ロイドとレンジが立ちふさがった。

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