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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
グリーン・ヴァレ 風の谷
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75/207

75.見世物

 ハープの瞬間移動魔法テレポートにより、レンジ達一行はリアンにいた。

 カリナーンの国から祭りをするよう御触書おふれがきが出たようで、街全体が賑わっていた。

 それと共に、税を減らしてより自由な商売ができるよう、シェネルが中心となって政策に取り組んでいるようだ。

 ふと貧民街スラムの方に目をやると、そこにはもう誰も住んでいなかった。

 街の人の話によると、バートが街を修繕する仕事を与えたことで、皆、カリナーンの城下町に移り住んだとのことだった。

 かつての、何処となく締め付けられたような雰囲気は微塵も感じない。

 そこには、自由気ままに祭りを楽しむ人々の姿があった。


「なんかワクワクするな!

 俺、祭り大好き!」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?

 ほんっと、子供なんだから。」


 セレスに少々憎まれ口を叩かれても、今のレンジの弾ける様な好奇心には届かない。

 するとそこに、一人の商人がレンジに話しかけてきた。


「君ィ、そのキセルを売ってくれないか?」


「え?これ?」


 商人はニコニコと愛想を振りまきながら、レンジが持つキセルを指す。


「そうそう、それは非常に貴重な品でね。

 そのモデルはもう作られていないんだよ。」


「ふーん 

 でも、これ人の物なんだ。

 届けなきゃいけねぇから売れねぇや、じゃあな!」


 レンジは、忘れていたキセルの存在を思い出した。

 オーガを探しにせっかくリアンに来たのだから、ついでにキセルを彼に届けることにした。

 そして四人は、ドン・チェルニの屋敷へと向かった。

 そこには、異常なまでの人だかりが出来ていた。

 庭の中には大きな檻のようなものが置かれ、白い布で覆われている。


「な、何だ?

 前がよく見えねぇ。」


「……何かいる。」


 ロイドがそう呟くと、細い髭を生やした使用人らしき男が、盛り上げるような口調で喋り出した。


「お集まりのみなさん!

 これからお見せするのは、世にも珍しい生き物!

 さぁ、今見ておかないと、もう二度とお目に掛かれませんよ!」


 男の煽りに、庭の中に次々とお金が投げ込まれる。

 まだまだ足りないらしく、男はさらに煽る。

 中には早く見せろとブーイングも聞こえるが、そこにドン・チェルニの姿が現れると、騒ぎが歓声に変わっていった。

 どうやら彼は、祭りでは珍しいものをいつも見せてくれるらしく、この街の人気者であった。


「コホン、えー、本日はお集まりいただき、本当にありがとうございます。

 私が本日お見せしたいのは、何と、世にも珍しい鬼の子供でございます!」


「何だと!?」


 ドン・チェルニの言葉にロイドが大きく反応した。

 レンジは相変わらず前がほとんど見えていないようで、必死にもがいていた。

 そして、檻を覆っていた白い布が剥ぎ取られると、そこには赤黒い肌に紫の瞳、そして二本のツノを生やしたオーガの少年が怯えていた。

 集まった人々が、奇声を上げたりして好奇の目で少年を見ている。

 一斉に向けられた眼差しが怖いのか、少年は目をきつく閉じ、身体を縮めている。

 肩はがたがたと震えており、涙で頬を濡らすその姿は、人間の子供であるならば同情してもらえるだろう。

 しかし、現状は違う。

 檻の中に入れられ、好奇の目で見られ、少年に同情する者など誰もいない。


「こらこら、そんな事ではお客さまによく見えないで、しょッ!」


 使用人の男が、ガンッ、と強く檻を蹴った。

 オーガの少年は怯え、より一層すすり泣く。

 男の行動で、ギャラリーは非常に盛り上がった。

 ロイドは、気が付けば柵を飛び越えて庭の中に入っていた。

 そして、男の首を片手で掴み、高く持ち上げることで男の体は宙に浮いた。


「この、クズ野郎……!」


「ひぇっ!

 な、何ですか君はッ!?

 うぐぐ、く、苦しい……。」


「やめろ、ロイド!」


 ギャラリーをかき分けて、レンジ達が庭に乱入する。


「気持ちは分かるけど……やめようよ。」


 ハープがロイドに説得することで、男はどさっ、と床に落とされた。


「ゲホッ、ゲホッ……。

 な、何をするんですか!」


「……子供を思う気持ちは、何も人間だけにあるものじゃない……!

 今こうしている間にも、あの子供の母親は、身を裂かれる思いでいるんだぞ!」


 ロイドは歯を食いしばりながらそう言った。

 男は、そんな事知るか、と言わんばかりの態度をとる。

 それに対してまた腹を立てたロイドが殴り掛かろうとした時、


「やめたまえ。」


 柔らかい男の声がそれを阻止した。

 使用人の主である、ドン・チェルニだ。


「どういう事情があるのかは分からんが、私の使用人が大変失礼をした。

 不愉快な思いをさせたことを詫びよう。」


 ドン・チェルニの言葉で、先程の嵐のような出来事がまるでウソだったかのように静まった。


「おっさん!」


「おぉ、君は。

 久しいな、元気だったかい?」


「これ、落ちてたよ。」


「ややっ、探してたんだよ。

 いやいや、どうもありがとう。」


 レンジは、地底湖の洞窟で拾ったキセルを、ドン・チェルニに返した。

 そして、彼に問う。


「おっさんが、あの場所でオーガの子供を捕まえたのか?」


「そうだとも、エイル族にメロンを卸したついでにね。

 珍しかったから、祭りの見世物にしようと思ってね。

 だけど、もう収めることにするよ。

 君を不愉快にさせてしまったからね。」


 ドン・チェルニはちらっとロイドを一瞥した。

 商売を台無しにしやがって、と言わんばかりの彼の目つきに、ロイドは商人としての執念を見た。


「あのさ、その子を離してやってくれねぇかな。

 その子がいなくなってから、困ってる奴らがいっぱいいるんだ。」


「……いいだろう、私と君の仲だ。

 ただ、ひとつ条件がある。」


「条件?」


「感応石と交換だ。

 私は商人だからね、ただとは言わんよ。」


「う……。」


 レンジは、自分のポケットに手を伸ばした。

 そこには、シェネルから譲られた感応石があった。

 シアードを守ってくれ、と託されたものだ。

 レンジはオーガの子供、ハープの順に目をやった。


「お母さん、会いたい、お母さん……。」


 少年は鬼の姿に似つかわしくなく、目を擦りながら嗚咽交じりに激しく泣いている。

 ハープは、こくん、とただ頷いただけだった。


「分かったよ、おっさん。

 これがそうだよ。」


「おぉ、これが!」


 レンジは感応石を取り出し、ドン・チェルニに手渡した。

 そして彼もまた、檻の鍵をレンジに手渡すことで交渉が成立した。

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