74.仲間
魚をごちそうになり、レンジ達一行はオーガの隠れ里を出ようとした。
その時、一人のオーガがロイドの腕を掴んで独特なあの口調で話し始めた。
「オーガたち、お前、半分信じる。
だけど、そんなに待てない。
遅いと、エイル族、殺しに行く。」
ロイドは、力強く掴まれた手を、「分かったよ」と言いながらそっと離す。
そして、子供を想って泣いていた女型のオーガに目をやり、一つ質問を投げかけた。
「一つ聞くけど、オーガの子どもは何処でさらわれたんだ?」
「分からない。
洞窟、行ったまま帰ってこない……。
とても、心配。」
目に涙を溜めてそう話す母親のオーガが、ロイドは不憫でならなかった。
それから四人は、オーガの隠れ里を後にして洞窟を抜けた。
瞬間移動魔法を使うことも出来たが、オーガやエイル族を刺激しないためにも、使用を控えた。
洞窟の入り口付近には、ゲイルの他にもたくさんのエイル族が、レンジ達の帰りを待ちわびていた。
レンジ達の姿が見えた途端、彼らは一斉に寄って来て、次々と話しかけてくる。
「どうだった!?」
「洞窟怖くなかった!?」
「オーガは何で怒ってたの!?」
「僕たち、ちゃんと眠れそう?」
「ちょ、ちょっと待てよ!
ちゃんと話すから。」
レンジの言葉は、エイル族の騒ぎに簡単にかき消された。
詰め寄るエイル族の人々にもみくちゃにされながらも、四人は再びゲイルの家へと運ばれた。
レンジは、オーガの隠れ里であった事を話した。
オーガは子供が何者かにさらわれて怒り狂っていること。
その怒りからくる地団駄が、地響きの原因であること。
そして、エイル族が子供をさらったと思い込んでいること。
ありのままに伝えると、ゲイルは腕を組んで困った表情を浮かべていた。
「うーん、困ったなぁ。
本当に私たちは何も知らないんです。
洞窟に入る事すらままならないのに一体どうやって連れ去るんですかねぇ。
またしばらくこの地響きに悩まされるのかと思うと、気が休まりませんよ……。」
どうやら、エイル族がオーガの子供をさらったわけではないらしい。
であるとすると、子供を連れ去った犯人は他にいるということだ。
それはそうと、風の精霊のところへ案内してほしい、と考えていたレンジは、ゲイルに心を読まれたようだ。
「あぁ、そうそう。
精霊様の祠へ案内するんでしたね。
はっはっは、そう焦らないで下さいよ。」
レンジは、彼の言葉にうろたえた。
自分が焦っていたことを見透かされたからだ。
ロイドよりも先に、精霊の加護を受けて強くなりたいと思うあまり、焦りが前に出てきてしまった。
目の前にいる困っているエイル族やオーガよりも、いつしか自分のことばかり考えていた。
それが他人の言葉となって聞かされると、とても情けなくて恥ずかしい気持ちになった。
だが、それに対してセレスもハープも何も言わなかった。
何故なら、そんなレンジの気持ちを理解していたからだ。
それから四人はエイル族に運ばれて、風の精霊を祀る祠の前に到着した。
祠はもぬけの殻で、魔力ひとつ感じない。
「この通り、精霊様は留守なんです。
気まぐれな方ですから、今頃どこで何をされているのやら。
あ、そうそう、これを供えておかないと。」
「それ、何だ?」
レンジが指す「それ」とは、自分の顔ほどもある薄緑色の果実である。
丸い球体に網目が走っているのが特徴で、どうやらメロンというものらしい。
「これは、時々来るリアンの商人から買うんですよ。
精霊様の大好物でして、甘くて美味しいんです。
それじゃ、戻りますか。」
ゲイルは、祠の前にメロンを丸ごと供えると、レンジ達を一気に谷の一番上まで運んだ。
「あまり力になれなくてすみません。
しかし、どうしたものか……。
オーガの子供が心配です。
親もさぞかし心配していることでしょう。」
あの底抜けに明るいゲイルが落ち込んでいると、彼の子供たちが寄ってきて、ゴーレムの周囲を飛び回る。
「手分けして探そうよ!」
「そうだよ、僕たち空を飛べるんだから、空から探せばすぐ見つかるよ!」
「よーし、頑張って探すぞー!」
「無事に見つかったら、一緒に遊んでくれるかなぁ?」
エイル族である彼らは、本当に明るかった。
ロイドは、そんなエイル族も、オーガのことも助けたいと心の底から思っていた。
風の精霊に会いに来たはずなのだが、もうそれは彼にとってさほど重要ではなかった。
目の前にいる困っている者達を助けたい。
それが人間でなくても、彼には関係のないことだった。
「ロイド?」
一人、向きを変えて歩き出した彼を、不思議に思ったハープが呼び止める。
すると、ロイドはゆっくりと口を開いた。
「悪いがここからは別行動だ。
僕は、精霊の加護を受けることよりもエイル族やオーガを助けてやりたい。
オーガとも約束したからな。
子供を見つけ出してやるって。
だから、僕はこれからリアンに向かう。」
ゲイルは、ロイドの心を読み取った。
彼の発言にウソ偽りはない。
そして、黒髪の少女のことを想うあまり身の安全を願う気持ちや、金髪の少年に対して嫉妬めいた気持ちを抱いていることも読み取れる。
だが、心の奥底に秘めている黒い靄だけが読めないでいる。
「何だよ、水くせぇなぁ。
俺たちも一緒に行くよ。」
レンジがため息交じりに、
「そうよ、一人で探そうだなんて無茶だわ。
それに、ロイドにいてもらわなきゃ私達困るの。」
セレスが腕を組みながら、
「ロイド……もうどこにも行かないで。
お願い。」
そしてハープが願うように、立ち止まる彼に伝えた。
こうして、ロイドの心の靄は消えていった。
どうやらそれは、自分が仲間だと認められているか分からない不安によって生じていたものであった。
話さないゴーレムとずっと旅をしてきた彼は、仲間が欲しかったのだ。




