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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
グリーン・ヴァレ 風の谷
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73/207

73.鬼族の怒り

 その声の主は、今までに見たことのない者達だった。

 姿かたちは確かに「人」なのだが、頭に立派な二本のツノを生やしており、男性も女性も、皮をなめして作られた服らしきものを身に着けている。

 薄暗い洞窟の中でよく見えないが、彼らの皮膚は赤黒く、暗闇の中で光る紫の目が恐怖心を煽る。

 片手には自然素材で器用に作られた槍を持ち、彼らはそれを振りかざして皆一斉に巨大魚を突き刺した。

 レンジは、彼らが槍を突き刺す瞬間に巨大魚から飛び降り、ハープを守ろうと立ちはだかった。

 戦闘態勢をとっていると、彼らの中の一人が喋りだした。

 聞き慣れない口調に、レンジは思わず戦闘態勢を崩してしまう。


「お前、魚しとめた、いい奴。

 魚、食わせてやる、来い。」


 低い声色からして、それは男の声だった。

 男がそう言うと、他の者は巨大魚を引き上げ、神輿のように担いで運ぶ。


「ど、どうする?」


 レンジが小声で三人に聞くが、洞窟内ではいかなる声も響く。


「聞こえてる。

 ないしょ話、ないしょ、なってない。

 鬼族オーガ、ウソつかない。

 鮮度落ちる、早く来い。」


 オーガと聞いて、レンジ達はついていくことにした。

 隠れ里といわれるようなところに住んでいるのだから、自分たちで探すよりもついていった方が手っ取り早い。

 そして鮮度を気にする辺り、何処となく可愛らしく思えてきた。

 エイル族といい、グリーン・ヴァレは変わり者ばかりだ、と、巨大魚の神輿を見ながら四人は思った。


 洞窟を抜けると、そこには原始的な生活風景が広がった。

 オーガの隠れ里には、家などの建築物は見当たらない。

 自然に出来たのか、何かしらの方法で掘ったのか、岩壁のところどころにほら穴があり、彼らはその中で暮らしているようだった。

 里の真ん中には焚火のような跡があり、石包丁を使って調理をする女性達の姿も見受けられた。

 女性達が大きく手を振ると、巨大魚はその場に下ろされた。

 そして、顔よりも大きな鱗を一枚一枚、素手で剥がしていく。

 その光景を眺めていると、レンジについてくるように言った男のオーガが話しかけてきた。


「お前、オーガの隠れ里、何しにきた?

 オーガたち、今、大変。

 とても怒ってる。」


「俺らはエイル族に頼まれてここに来たんだ。

 何で怒ってるのかを聞いてきてくれってさ。

 それと、あんたらの地響きで眠れないんだとよ。」


 エイル族、と発したレンジの言葉に、オーガの目つきが豹変した。

 レンジの肩をとがった爪で鷲掴みにし、怒りを露わにしている姿はまさに、鬼そのものだった。


「お前、エイル族、味方か?」


「別にそんなんじゃねぇよ。」


「エイル族、悪い奴。

 オーガのこども、さらった。」


 男の言葉に、鱗を剥いでいた一人の若い女性が泣き崩れた。

 こども、会いたい、と繰り返し泣く姿はあまりにも不憫で、セレスとハープが女性の傍に行き、背中を優しく撫でて慰める。


「だから、オーガたち、許せない、許さない。

 いくさの前に、腹ごしらえする。

 これ食ったら、エイル族殺しにいく!」


 男がそう言うと、オーガ達は大声で吠えて地団駄を踏む。

 相当な力なのだろう。

 岩壁から小石がパラパラと降ってくる。

 地響きの原因は、こうして怒り狂ったオーガの地団駄によるものだと判明した。

 レンジ達も立っているのがやっとの状態だ。

 オーガ達の興奮冷めやらぬまま、ロイドが口を開いた。


「本当にエイル族が攫ったのか?」


「さらったに決まってる。」


「エイル族がそう言ったのか?

 エイル族がここに来たのか?

 彼らは、洞窟にも入れないような奴らなんだぞ。」


 淡々と喋るロイドに、男が詰め寄った。

 そして、ロイドの服を掴んで大きな犬歯をむき出しにしている。


「お前、なにがいいたい。」


「決めつけるのは良くないってことさ。

 僕らが風の谷に寄った時、オーガの子供の姿なんて見なかった。」


「かくしてるに決まってる!」


「もしそうでなかった場合、どうするんだ?

 エイル族を殺すと、ユニベルの風を奪うことになるんだぞ。」


「かまわない!

 オーガたち、こども、一番大事!」


 彼らは彼らで、自分達の家族を想う強い気持ちを持っていた。

 しかし、このような狭く閉鎖的な環境で暮らしているために、他の種族についての知識がないのだろう。

 だからこそ、一番身近なエイル族が頭に浮かび、いつからか彼らが子供をさらったと思い込んでいるのだ。


「僕がオーガの子供を探してきてやる。

 だから、エイル族を殺そうだなんて思うな。」


「……分かった。

 だが、もし、こども見つからなかったら、お前を殺す。」


「いいだろう。

 それまで、エイル族を殺そうだとか考えるなよ。」


「お前たち、エイル族、違う。

 いったい何者?」


「人間さ。」


「ニン、ゲン……?」


 ロイドは、男とオーガの子供を見つけてくることを約束した。

 しばらくすると、香ばしい魚の焼ける匂いがしてきた。

 見た目よりも随分美味そうな匂いだ。

 その方向に目をやると、レンジ達とオーガが仲良く魚を貪っていた。


 呑気というか、マイペースというか、三人の様子にロイドは張りつめていた気が、ふうっと緩んだ。


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