70.風の谷
鶏怪鳥を無事倒すことが出来たレンジ達一行は、アルメイン大陸の西の果てであろう場所まで来ていた。
来た方向を振り返っても、カリナーンはとうに見えなくなっていた。
橋の向こうに見える大地は、砂漠とは違って短い緑の草が生い茂る。
砂漠の暑さにはウンザリしていたレンジ達は、グリーン・ヴァレに渡ることを待ちわびていた。
「早く行こうぜ。」
「行きたいんだけど、ヴォルスはどうするの?
ヴォルスは橋を渡ることは出来ないわよ。」
「あ、そっか。」
砂漠を縦断するにあたって、ゴーレムの助けは非常にありがたかった。
ロイドを慕って共に旅をしてきた仲間を、ここで見捨てるわけにはいかなかった。
だが、当のロイドは何も困った様子を見せることなく、三人を不思議がっていた。
「何を心配してるんだ?
それよりも、しっかり掴まってないと落ちるぞ。」
「え?
落ちる?」
レンジ達は疑問に思いつつも、ゴーレムの指にしがみ付く。
「ヴォルス、やってくれ。」
ロイドが声をかけ、ゴーレムの手のひらを叩いた。
するとゴーレムは走り出し、どしん、どしん、と、そのスピードはどんどん加速していく。
「わああぁあっ!!」
「いやぁあぁっ!!
怖い!!」
彼らは振り落とされないようしがみ付くのがやっとだった。
何をするのかも分からないまま、ゴーレムはアルメイン大陸とグリーン・ヴァレの間にある渓谷に向かい、そしてあろうことか飛び越えた。
着地した衝撃で地面は激しく揺れ、ゴーレムの足元の大地は、巨大な生物が掘り進んだかのようにえぐれていた。
衝撃によってレンジ達は、ゴーレムの真上に吹っ飛ばされて宙を舞っていた。
そこにゴーレムがさっと手を差し出すことで、足場が出来る。
「あ、ありがとう。」
ロイドは、すばやくハープを抱きかかえていた。
「ふーっ、なんとか無事着地出来たわ。」
「……重い!
ケツをどけろ!」
一方で、セレスはレンジを下敷きにしたことで無傷であった。
アルメイン大陸とグリーン・ヴァレを結ぶ橋を渡ることなく、グリーン・ヴァレに到着した彼らは、ゴーレムから降りて久しぶりの緑の大地を踏みしめた。
彼らは皆、グリーン・ヴァレに吹く風は柔らかくて気持ちいいものだろうと想像していたが、そうではなかった。
風は身体に纏わりつき、何かしら緊張感を漂わせる。
この気味が悪い風の正体を知るべく、四人は風の吹いている方向、すなわち南へと向かうことにした。
南下するほど風は強まっていき、歩くことすらままならない状態になる。
そして、ロイドの案でゴーレムの真後ろを歩くことにした。
風に逆らってさらに歩くと、風がぴたっと止んだ。
例えるとするならば台風の目のような、風の中心に着いたようだ。
「……すげぇ。」
今までろくに目も開けられなかったが、到着した場所に広がる光景を見て、レンジは思わず声を漏らす。
そこには一つの巨大な穴が開いており、岩の壁に建物が作られている。
シェネルも言っていたが、とても人間が住めるような場所ではなかった。
しかし、実際に人は住んでいる。
確かに人間の姿かたちをしているのだが、彼らは人と呼べるのだろうか。
ここまで自分達の目を疑ったのは、ラクベールでの生活の様子を見た時以来だった。
そこで暮らす者たちは皆、背中に白くて大きな翼を生やしている。
その大きな翼を使って空を自由に飛びまわって遊ぶ子供もいれば、建物から建物へと、翼を使って移動している者もいる。
彼らの容姿は、随分と特徴的であった。
薄い濃いはあるものの、皆、髪の色が桃色で、着ている羽衣も非常に軽装であった。
どうやって風の谷を探索しようか、情報を集めようか、と考えているところに、翼を生やした子供たちがわらわらと集まってきた。
「人間だっ、人間だー!」
「ゴーレムもいるよ!!」
「ねぇねぇっ、どっから来たの!?」
「さっきすっごい地震があったんだよー!」
「きっとあいつらの仕業だよ!
あいつら勘違いして、まだ怒ってるんだよー!」
「ガオォーーー!!」
「キャーこわーい!!」
子供達は、レンジ達にワーッと詰め寄って喋るだけ喋ると、あれこれ言いながらまた空を自由に飛び回っていた。
「な、何なんだぁ……!?」
彼らの自由な様子に、四人は唖然としていた。




