69.魔法剣
レンジ達一行は、ヴォルスと名付けられてたゴーレムに乗って砂漠を渡っている。
二〇メートルはある、巨大な体の肩に座り、景色を眺めていた。
「ヴォルスとはどこで知り合ったの?」
ハープが率直な疑問を、ロイドに投げかける。
「僕とこいつは、東の果てで出会ったんだ。
僕はあれから、このアルメイン大陸に渡った。
南を目指して歩いていたら、こいつがいてね。
何かを守るように、ずっと立ちふさがっていたんだ。」
「ヴォルスは何を守っていたの?」
「墓だよ。」
「墓?」
ロイドは、ゴーレムの岩壁のような顔に手のひらを置いた。
「その墓は大分古くて、確か……エルバーと刻まれていたかな。
こいつは、墓の前に花を供えてほしかったんだ。
こいつのでかくてごつい指だと、花は摘めない。
だけど、他の人間達は、こいつの姿を見るだけで逃げてしまうだろ。」
頭の後ろで手を組んで話に耳を傾けていたレンジは、そりゃそうだ、と思った。
こんな巨大なゴーレムが自分に迫ってきたら、誰だって逃げ出したくなるに決まっている。
「僕が花を供えてから、やたらついてくるようになったから一緒に旅をすることにしたんだ。
こいつは言葉を話すことができないだろ?
だけど、心がある。
本当に優しくていい奴なんだ。」
ロイドは、ゴーレムの顔に置いている手で、軽くゴーレムを撫でた。
ゴーレムを見つめる彼の表情は、まるで古くからの友人と会話しているかのように感じた。
「へーっ。
お前、実はいい奴なんだな!」
その光景にレンジは感じたままを口にした。
ただのいけ好かない奴だと思っていたが、少しだけ見直したようだ。
すると、ロイドの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
「ロイド、大丈夫?
顔が真っ赤だけど、のぼせちゃったの?」
ハープが首を傾げながら、ロイドの顔をじっと見つめる。
幼いころからずっと好意を抱いていた少女の顔が近くにあることで、彼は狼狽し、リンゴのように顔が真っ赤に染まった。
「な、何でもない。」
ロイドはくるっ、とハープに背を向け、気持ちを落ち着かせた。
ラクベールを出てハープと離れていても、彼女のことを考えない日はなかった。
無論、彼女が一人で、育ての親でもあるエレナの声を治す方法を、探しに行った時もだ。
ラクベールの民は人情味がなく、下界の人々のように必要以上に慣れ合ったりはしない。
気が合う者同士で一緒にはなるが、彼らは結婚をするわけでもなく、子供をつくろうともしない。
不定期に連れて来られる赤子や子供を、彼らは我が子として育てている。
ある場所かrs連れて来られた子供達は皆、不思議と魔法を使うことができる。
誰に教わったわけでもなく、極々当たり前に、まるで細胞にインプットされているかのように。
そのような者が集まったことで、やがてラクベールは「魔法都市」と呼ばれるようになった。
ロイドの生い立ちはラクベールの民からすると、「異端」だった。
エレナが若かりし頃に、赤子のロイドを抱いてラクベールにやってきた。
しかし、人々がどれだけ聞いても、言葉は返ってこない。
エレナはこの時から既に、声を失っていたのだ。
会話も出来ない、幼子もいるということで、大長老はエレナをラクベールにおくことを許したが、下界の人間に育てられたロイドは、元々いた人々に比べて感情の起伏がはっきりした子供に育った。
周りに比べて気が強い子供ではあったが、後に家族となった二つ年下のハープを守ろうとしたり、動物を可愛がったりする、優しくて思いやりのある心の持ち主に育ったのだ。
それは、ラクベールの民にはないもので、時として彼らはロイドを異端者扱いした。
人間でありながらも人間臭くないラクベールの民は、「人間臭い」ことを嫌った。
中にはそれを強烈に煙たがる人もいて、魔力の高い彼らは深い森に魔力の結界を張ることで、下界の人々の侵入を拒んだ。
下界の人間が来て、ロイドのような者が育てられぬようにと。
もちろん理由はそれだけではなく、彼らは下界の人間との、必要のない接触を避けたいとも考えていた。
ラクベールという名前を知る人間はいても、その場所は未だ謎に包まれたままであるのはそのためだった。
ラクベールの民が、人間臭いロイドを追い出さなかったのには理由があった。
それは彼が、ハープに次いで高い魔力の持ち主であったからだ。
ハープの魔力は群を抜いて高く、印の魔法を覚えることに対しての適性もある。
ロイドも魔力が高いとはいえ、彼はハープのように強力な攻撃魔法を使うことは出来ない。
そのため、彼は自分で戦う術を編み出したのだ。
「うわっ!
何だこいつ!?」
ゴーレムの肩は地上から十数メートルはあるため、空を飛ぶ魔物との戦闘は避けられない。
そこには、巨大な鶏怪鳥がいた。
見た目は鳥なのだが、蛇の尾をもつその体はまさに魔物そのものであった。
セレスが鞭で攻撃するが、いとも簡単に避けられてしまう。
レンジが構えを、ハープが魔法を詠唱しようとしたとき、ロイドが二人の前に立ちはだかった。
「こいつは僕が倒す。」
ロイドは双剣を抜き、詠唱を始める。
コカトリスは、上がっていく魔力に反応したのか、大口を開けて彼を目掛けて飛んできた。
そして、ばくっとロイドはあっけなく丸飲みにされた。
「ロイド!」
ハープが名前を呼んだ瞬間、コカトリスは中から引き裂かれたように真っ二つになり、地面に落ちていく。
「すげぇ……。」
ロイドは、華麗にゴーレムの手のひらに着地した。
握られた双剣は、めらめらと火を纏っている。
「それ……何だ?」
コカトリスの唾液を拭うロイドに代わって、ハープが説明をした。
「ロイドは、自分の武器に属性をつけて戦うことができる魔法剣の使い手なの。
私の攻撃魔法の力が、ロイドの双剣に加わる感じかな。
だから、相手の弱点に合わせて有利な属性が付けられるの。」
「それは凄いわね!
腕も立つみたいだし、頼りになるわ。」
戦いぶりを見ていたセレスも感心していた。
レンジも、悔しいが彼の強さを認めざるを得なかった。
だが、それを表立って口にすることは、少年のプライドが許さなかった。




