68.合流
「あ、そうだ。
なぁ、シェネル。
この砂漠を西に越えていくと、何があるか知ってるか?」
レンジは、大地の精霊の言葉を思い出した。
砂漠を西に越えていくと風の谷があり、そこには風の精霊がいるという。
「カリナーンよりずっと西に行って砂漠を越えると、一本の小さな橋がある。
アルメイン大陸と、グリーン・ヴァレと呼ばれる大きな島を繋ぐ、ただ一つの橋だよ。
その橋を渡って南の方に行くと、風の谷という場所があるんだ。
とてもじゃないけど、人が住めるような場所じゃないんだけどね。
僕は一度だけ砂漠の向こうに行ったことがあるんだけど、それはもう、大変だったよ。
まともに歩くと五日はかかるだろうね。」
「い、五日!?」
あまりの距離に、二人は聞き直した。
「馬車とか何かに乗ってでも、一日見ておいた方がいい。
僕達が行ったのは、橋を渡って北に位置するブックガーデンという、歴史と考古学の街だよ。
興味があったら行ってみるといいよ、いろんなことが知ることが出来る。」
シェネルから次の目的地への情報をもらい、王の間を後にした。
すると、レンジが珍しく腕を組んで、頭を悩ませている。
シアードが養生する部屋へ行くと、彼は目を覚ましたようで上体を起こしていた。
その傍らにはセレスが座っており、レンジは幼いころ何処となく見た事のある光景に、懐かしさを感じた。
「シアード!
もう起きてていいのか?」
「あぁ、心配かけたな。
セレスから話は聞いた。
俺は一週間、ここに残らなければならないらしいな。」
レンジはすっかり忘れていた。
シアードの言葉に現実に引き戻され、俯いてしまった。
その少年の頭を、シアードは軽く撫でた。
「一週間、待ってられないだろ。
風の谷に行って来いよ。」
「シアード?」
「いいか、レンジ。
俺達にはあまり時間が残されていないんだ。
俺が回復するまで待ってるわけにはいかないだろ。
ハープのためにも、しっかりしろ。」
シアードがこの場に一週間も留まるということは、パーティから外れるという事を意味する。
もちろん、彼の体調を整えることが第一だが、内心不安でたまらない。
それ以外にも、どうやって砂漠を越えるかということも考えていかなければならない。
ぐるぐると、いろんな問題が頭の中に混在する。
シアードに助けを求めたいところだが、今の彼に気を使わせるわけにはいかない。
それに、シアードも自分の目を真っ直ぐ見てくる。
自分で考えろ、と言わんばかりの眼差しだ。
その時だった。
ハープにとって久しく聞いていない声が、背後から聞こえてきた。
「僕が手伝ってやろうか?」
四人は、声のする方へと意識を向けた。
「ロイド!」
そこには、ラクベールを出た途端、離脱した者の姿があった。
「久しぶりだなハープ。
危ない目にあったりしてないか?」
少し棘のある言葉に、レンジはむっ、となった。
まるでお前じゃ力不足だと言われているような気がした。
「僕も風の谷へ行くんだ。」
「一人で行けばいいだろっ。
つーか、俺達、水の精霊と大地の精霊から加護を受けたんだぜ!」
「何だと?」
「アンタは違うでしょ。」
「う、うるせぇ!」
威張っていたレンジに対して、セレスが突っ込んだ。
慌てるレンジを見たところ、どうやら加護を受けたのは赤髪の女と、今ベッドの上にいる男だろう、とロイドは確信した。
「なんだ、お前は違うのか。
そりゃそうだよなぁ。」
「何だと!?」
「ちょっと、ロイドもレンジも止めなよ。
二人がそんなだと、シアードも落ち着かないよ。」
ハープの一言で、レンジとロイドは言い争うことを止めた。
「……ふん。」
「チッ!」
「まぁ、そう言わないで。
ロイド、あなたと私たちの目的は一緒なんでしょ?
一緒に行きましょうよ。
シアードがしばらく抜けちゃうから、戦力が欲しいの。」
「何言ってんだよ!
こんな奴いなくたって、俺がなんとかしてやらぁ!」
シアードは吠えるレンジの首根っこを掴み、黙らせる。
「私とハープと、それにこんなのだけじゃ不安だもの。
ねっ、いいでしょ?」
ロイドは、セレス、ハープ、そしてレンジの順にそれぞれの顔を見た。
「……確かにな。
分かった、僕も同行する。」
「勝手に決めんな!」
なおも吠えるレンジに、シアードはげんこつで黙らせた。
「そうなれば、砂漠を越える方法を考えなきゃね。
歩きというわけにはいかないわ、干からびちゃう。」
「その事なら心配ない。」
「あら、どうして?」
「僕についてきてもらえれば分かる。」
ロイドとセレスはすっかり打ち解けたようで、その姿を見てシアードはひとまず安心した。
彼女本来のしっかりした性格を、離脱する前に見ることができたからだ。
「じゃあな、シアード。
俺達行ってくるから、安静にしてろよな。
……いろいろ気に食わねぇけど。」
若干頬を膨らましながら、レンジは三人の後を追いかけていった。
シアードはふと、レンジの後姿を見た。
そこには、島にいた頃よりも一回り大きくなったレンジの背中があった。
「こいつに乗っていけば、夕方までには風の谷へ着けるだろう。」
「す、すげぇ……!」
カリナーンから少し歩いたところに、ロイドが指す「こいつ」の姿があった。
まるで壁のようにそびえ立つ、二〇メートルはあるであろうゴーレムである。
「こいつは、僕の相棒のヴォルスだ。
僕はあれから、こいつと旅をしていたんだ。」
「良かった、一人じゃなかったんだね。」
ロイドの事を案ずるハープの発言が、レンジにとっては少々面白くない。
もちろん、長年の知り合いであるロイドの身を心配する気持ちはあって当然なのだが、それよりも気に食わないのは、
「安心しろハープ。
これから何があっても、僕が守ってやるからな。」
彼がハープの隣から離れないことだ。
「あ~あ、強敵だわ、こりゃ。」
ゴーレムの手のひらの上で、セレスがニヤニヤしながらこちらを見てくる。
「ふん!」
レンジはそんなセレスに対し、そっぽを向いて反抗した。




