71.エイル族
レンジ達は、ある民家に来ていた。
唖然としていたところに、子供達の父親らしき人物が来て、家に招いてくれたのだ。
子供達が、四人を岩壁にある民家へと運んでくれたのだ。
レンジ達は、彼らに聞きたいことがたくさんあった。
ここは風の谷なのか。
翼の生えた彼らはいったい何者なのか。
風の精霊は何処に行ったら会えるのか。
あの気味の悪い風の出どころは何なのか。
今、思いつくだけでもかなりの疑問が浮かぶ。
悶々としながら彼らの翼を見つめていたら、男がにっこり笑って話し始めた。
「いやぁ、うちの子が失礼をしました。
私は、この子達の父親のゲイルと申します。
私達は翼をもつエイル族という種族でして、翼で起こした風を、このユニベルに運ぶ役割を担っています。
ここは紛れもなく、あなたたちが探していた風の谷ですよ。
そして残念ながら、精霊様はずーっと留守なんです。」
レンジ達は、お互いの顔を見合わせた。
まだ聞いてもいないのに、目の前にいる男は自分達の知りたいことを次々と答えたからだ。
「驚いたでしょ?
私達エイル族は、相手の心を読むことが出来るんですよ。
人間のように剣を握ることも、エルフのように治癒魔法を使うことも出来ないけど、この翼で空を飛ぶことも出来るから戦えなくたってなーんにも不自由してません。」
ゲイルは翼をパタパタと動かしてみせると、明るく笑う。
裏表のない、あっけからんとした彼らの性格は、レンジ達にとって非常に新鮮だった。
「そういえば先程、ものすごい地響きが起こったんですが、何か知りませんか?
何だか、いつもの地響きではなかったから気になって気になって。」
ゲイルの言葉に、ロイドは、まずいと言わんばかりの表情をし、先に詫びた。
「……すみません。
僕のゴーレムが、アルメイン大陸とグリーン・ヴァレの間にある渓谷を飛び越えた時の着地で起こったものです。」
「ゴーレム!?
そりゃまた珍しい……。
ゴーレムがいたんなら、あの強風の中を抜けて風の谷に来れたのも合点がいきますね。
それにしても……あの渓谷を飛び越えるだなんて、なかなかステキだよ、うん。」
独特のテンポで話すゲイルは、テーブルの上に用意したハーブティーを飲み干した。
会話の中でひとつ気になったことを、ハープが質問した。
「あの、いつもの地響きって何ですか?」
その質問に、ゲイルは苦笑いをする。
やはりそこに触れるか、と言わんばかりの表情を見せた。
この少女の澄み切った心の中を覗いてみると、彼女は自分達を心配してくれていることが分かった。
彼らが悪い人間ではないということを、会話の中からも探っていたゲイルは、今、この谷で起こっている地響きについてを話すことにした。
「実は今、この風の谷では大変なことが起きているんです。」
「大変なこと?」
「この谷底には、鬼族が暮らしているんです。
数日前からオーガの様子がおかしくなって、度々地響きを起こしてくるようになったんです。
彼らは何かしら怒っているようだけど、私達には原因が何が何やらさっぱりでして。
あの、もし良かったら、オーガ達に聞いてきてもらえませんか?
このままだと子供達も心配だし、それに何で怒っているのかが知りたいんです。
もちろん、ただとは言いません。
原因が分かった時は、精霊様を祀る祠へ案内します。」
エイル族は、戦う力を持たない部族であるため、オーガに恐れをなしていた。
もちろん、飛んでいる間は平気なのだが、睡眠や食事を阻害されては、いくら明るい彼らとて気が休まらない。
そのために、気味の悪い緊張感の漂う風が生じてしまう。
ユニベルに吹く風は、彼らと共に生きているのだ。
「その話のった!
で、どこに向かえばいいんだ?」
「谷底にある、隠れ里にオーガ達は暮らしています。
けれど、そこに行く前に地底湖の洞窟を抜けなければなりません。
私達も、入り口までなら案内できます。」
「一緒に中に入らないのか?」
「その……エイル族は恥ずかしながら、暗くて狭いところが苦手なんです……。」
「何だかエイル族って子どもみたいだなぁ。
まっ、いいや。
さくっと聞いてくるから、案内してくれよ。」
話が終わると、レンジ達は外に出た。
真上に大きな影が出来たため、上空を見ると、ゴーレムが穴を覗き込んでいた。
「ヴォルス、僕らはこれから谷底に向かう。
ここで少し待っててくれ。」
ロイドがそう言うと、ゴーレムはゆっくり頷き、集まっていた他のエイル族と楽しそうにしていた。
大人しいゴーレムと、優しく語り掛けるロイドの姿は、まるで、
「恋人同士ね。」
と、セレスが笑いながら彼に言った。
「バ、バカ言うなよ。
ゴーレムに男も女もないだろ!」
ロイドは顔を赤くしながら、やや強めの口調で話した。




