67.謎の女性
シアードは、城の者によって城内のベッドに運ばれた。
バートが腕利きの医者を国中から集めたが、皆、顔を真っ青にしながら首を横に振った。
毒にも様々な種類があるようで、シアードが犯されている毒は医学的に証明されていないものだった。
その毒は既に身体中に回っており、手の施しようがないと、医者たちは口を揃える。
「貴様ら……それでも医者なのか!?」
バートが医者の肩を掴んで迫るが、医者は無言のまま目をきつく閉じたままだった。
「私のせいだ……。」
セレスは責任を感じていた。
シアードの右肩は、毒々しいまでの紫に変色していた。
そこからくる毒だとすれば、間違いなく王の間で戦った毒屍人によるものだ。
彼がポイズングールに噛まれたのは、自分を庇ったからだった。
セレスは、魘されるシアードの姿に、涙が止まらない。
そんな彼女を、レンジは後ろからポカッと軽く殴った。
「バカ、シアードがこんなところで死ぬわけがねぇだろ!
それに見ろ、採ってきたぞ!」
レンジの手には、フレア草があった。
ハープの瞬間移動魔法でアレス島の森へ行き、採ってきたようだ。
「シアードはこれで絶対助かる、これで……!」
フレア草を握るレンジの手は、大きく震えている。
本当は、不安で不安で仕方がないのだ。
「───そんなのじゃ、この毒は治せないよ。」
「何だと!?」
すれ違いさまに、女性の声がした。
その女性は、フードを深く被り、顔の下から半分がベールで隠されており、目しか見えなかった。
「てめぇ、もっかい言ってみろ!」
「レンジ、落ち着いて。」
突っかかるレンジとそれを止めようとするハープを無視し、その女性はシアードの方向へと歩いていく。
脇目も振らず、真っ直ぐ歩いてくる姿に、その場にいる人々は割れるように道を開けた。
「何すんだよっ!
シアードに触るんじゃねぇ!」
怪しげな女性は、レンジを無視したまま目を閉じて何かを呟いている。
そしてシアードに両手をかざし、眩い光を発した。
光が消えたと同時に、レンジがシアードの傍に駆け寄った。
そこには、先程まで魘されていた彼の姿はなく、いつものように端正な顔立ちで眠りについていた。
「これで体の毒はすべて取り払ったわ。
あとは丸一週間、安静にすることね。」
何が起こったのか、未だ理解できずにいる人々をそのままに、女性は部屋を出た。
「あのっ!」
先程まで泣きじゃくっていたセレスが、彼女を呼び止めた。
「どなたか分かりませんが、本当にありがとうございます!」
セレスの声に、女性は足を止めて振り返った。
「あなた、あの人が好きなんでしょう?」
「え!」
セレスの顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。
「でなければ、あんなに泣かないもの。
フフフ……懐かしいわ。」
「あの、さっきの魔法は治癒魔法ですか?」
「治癒魔法より、もっと強力な解毒魔法よ。」
「あなたは……もしかしてエルフなの?」
セレスの問いに、女性はベール越しに、ふっと笑った。
「どうなのかしらね。」
女性はそう言い残し、城の階段を駆け下りていった。
セレスは呼び止めることもできず、ただ女性の背中を見つめていた。
そのころ、レンジとハープはシェネルに呼ばれ、王の間にいた。
彼らと同い年であるシェネルは、ついこの間見た時よりも、幾分たくましく、立派に見える。
「これを受け取ってくれないかな。
昔、母上が商人から買い上げたものだ。」
「これは……!」
シェネルが差し出したのは、見覚えのある、あの青い石だった。
「感応石……。」
「へぇ、これはそういう名前なんだね。
この石は、魔物から身を守ってくれるという物らしいんだけど……君達なら知ってるよね。」
「カリナーンで使わないのか?」
レンジの言葉に、シェネルは笑みを浮かべながら首を横に振った。
「僕は、こんなものに頼らなくてもカリナーンを守ってみせるよ。
大砲は下ろしたし、武力も前ほど持たないけどね。
でも、この石もここにあるよりかは、君達に持っていてもらう方がずっと役立てると思うんだ。
そして、どうか兄上を守ってほしい。」
守ってほしい、と言われて、レンジは何だかむず痒かった。
「俺達がお前の兄貴に守られてるんだけどな。
ありがたく受け取るよ。」
「レンジ……。」
感応石を手に持つと、ハープが小声でつついてきた。
「大丈夫。
持っていても使わなければいいんだ。
そうだろ?」
「それならいいんだけど……。」
ハープはこの石の副作用を肌で感じ、いち早く発見したためか、どうしても腑に落ちないでいた。




