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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アルメイン大陸 テルス神殿
67/207

67.謎の女性

 シアードは、城の者によって城内のベッドに運ばれた。

 バートが腕利きの医者を国中から集めたが、皆、顔を真っ青にしながら首を横に振った。

 毒にも様々な種類があるようで、シアードが犯されている毒は医学的に証明されていないものだった。

 その毒は既に身体中に回っており、手の施しようがないと、医者たちは口を揃える。


「貴様ら……それでも医者なのか!?」


 バートが医者の肩を掴んで迫るが、医者は無言のまま目をきつく閉じたままだった。


「私のせいだ……。」


 セレスは責任を感じていた。

 シアードの右肩は、毒々しいまでの紫に変色していた。

 そこからくる毒だとすれば、間違いなく王の間で戦った毒屍人ポイズングールによるものだ。

 彼がポイズングールに噛まれたのは、自分を庇ったからだった。

 セレスは、うなされるシアードの姿に、涙が止まらない。

 そんな彼女を、レンジは後ろからポカッと軽く殴った。


「バカ、シアードがこんなところで死ぬわけがねぇだろ!

 それに見ろ、採ってきたぞ!」


 レンジの手には、フレア草があった。

 ハープの瞬間移動魔法テレポートでアレス島の森へ行き、採ってきたようだ。


「シアードはこれで絶対助かる、これで……!」


 フレア草を握るレンジの手は、大きく震えている。

 本当は、不安で不安で仕方がないのだ。


「───そんなのじゃ、この毒は治せないよ。」


「何だと!?」


 すれ違いさまに、女性の声がした。

 その女性は、フードを深く被り、顔の下から半分がベールで隠されており、目しか見えなかった。


「てめぇ、もっかい言ってみろ!」


「レンジ、落ち着いて。」


 突っかかるレンジとそれを止めようとするハープを無視し、その女性はシアードの方向へと歩いていく。

 脇目も振らず、真っ直ぐ歩いてくる姿に、その場にいる人々は割れるように道を開けた。


「何すんだよっ!

 シアードに触るんじゃねぇ!」


 怪しげな女性は、レンジを無視したまま目を閉じて何かを呟いている。

 そしてシアードに両手をかざし、眩い光を発した。

 光が消えたと同時に、レンジがシアードの傍に駆け寄った。

 そこには、先程まで魘されていた彼の姿はなく、いつものように端正な顔立ちで眠りについていた。


「これで体の毒はすべて取り払ったわ。

 あとは丸一週間、安静にすることね。」


 何が起こったのか、未だ理解できずにいる人々をそのままに、女性は部屋を出た。


「あのっ!」


 先程まで泣きじゃくっていたセレスが、彼女を呼び止めた。


「どなたか分かりませんが、本当にありがとうございます!」


 セレスの声に、女性は足を止めて振り返った。


「あなた、あの人が好きなんでしょう?」


「え!」


 セレスの顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。


「でなければ、あんなに泣かないもの。

 フフフ……懐かしいわ。」


「あの、さっきの魔法は治癒魔法ですか?」


「治癒魔法より、もっと強力な解毒魔法よ。」


「あなたは……もしかしてエルフなの?」


 セレスの問いに、女性はベール越しに、ふっと笑った。


「どうなのかしらね。」


 女性はそう言い残し、城の階段を駆け下りていった。

 セレスは呼び止めることもできず、ただ女性の背中を見つめていた。


 そのころ、レンジとハープはシェネルに呼ばれ、王の間にいた。

 彼らと同い年であるシェネルは、ついこの間見た時よりも、幾分たくましく、立派に見える。


「これを受け取ってくれないかな。

 昔、母上が商人から買い上げたものだ。」


「これは……!」


 シェネルが差し出したのは、見覚えのある、あの青い石だった。


「感応石……。」


「へぇ、これはそういう名前なんだね。

 この石は、魔物から身を守ってくれるという物らしいんだけど……君達なら知ってるよね。」


「カリナーンで使わないのか?」


 レンジの言葉に、シェネルは笑みを浮かべながら首を横に振った。


「僕は、こんなものに頼らなくてもカリナーンを守ってみせるよ。

 大砲は下ろしたし、武力も前ほど持たないけどね。

 でも、この石もここにあるよりかは、君達に持っていてもらう方がずっと役立てると思うんだ。

 そして、どうか兄上を守ってほしい。」


 守ってほしい、と言われて、レンジは何だかむず痒かった。


「俺達がお前の兄貴に守られてるんだけどな。

 ありがたく受け取るよ。」


「レンジ……。」


 感応石を手に持つと、ハープが小声でつついてきた。


「大丈夫。

 持っていても使わなければいいんだ。

 そうだろ?」


「それならいいんだけど……。」


 ハープはこの石の副作用を肌で感じ、いち早く発見したためか、どうしても腑に落ちないでいた。

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