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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アルメイン大陸 テルス神殿
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66/207

66.毒

 砂蠍サンドスコーピオンに勝利したレンジとハープは、倒れていたセレスを介抱した。

 気が付いた彼女は、がばっと飛び起きると、目の前に積まれている岩山が気になった。


「こ、これは何?」


「サンドスコーピオンの墓。」


 レンジは鼻の下を人差し指で擦る。

 砂まみれの二人を見ると、セレスは不謹慎だと思いながらも笑ってしまった。

 よくよく目を凝らすと、レンジの肌が露出している箇所は、傷がいくつもつけられていた。

 楽には勝てない相手だったのだろう。

 セレスは労いの念も込めながら、レンジとハープに治癒魔法をかける。


 レンジは先程の戦いで、自信を取り戻した。

 あのような身のこなしは自分にしか出来ないことから、自分にしか出来ない戦い方があることを発見した。

 そして、ハープと力を合わせて敵を倒したことで、自分一人で倒せない敵は、協力して倒せばいいということを再認識できた。

 そのような意味合いで、サンドスコーピオンとの戦いは、レンジにとって大きな収穫だった。

 

 一方で、シアードは苦戦を強いられていた。

 いつものように剣で応戦するのだが、いまいち戦いに集中出来ていない。

 バジリスクの尾や牙を剣で受け止めているが、どこか動きが鈍い。

 いや、鈍くなったという方が正しい。

 あの時、大地の精霊の耳打ちした言葉が彼の脳裏をかすめる。



「いつまで隠し続けるつもりだ。」


「……お見通し、ですか。」


「……今に出てくる。

 その時、お前はどうするつもりだ?」



「シアード!?」


 レンジの、自分の名前を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、眩暈がした。

 すると、バジリスクの攻撃を受け止めていた剣が手から離れてしまった。


「う……。」


 シアードの身体は、毒に犯されていた。

 その毒は、バジリスクの戦いで犯されたものではなかった。

 王の間で戦った時、毒屍人ポイズングールに肩を噛まれたときのものだった。

 セレスの治癒魔法で、確かに傷は癒えた。

 だが、体の中に注入された毒までは取り除くことが出来なかった。

 シアードは、ずっと黙っていた。

 国を取り戻すことが先決だったからだ。

 そして、時間と共に毒が彼の体を蝕んでいたが、人並み外れた精神力で自分を支えていた。

 彼はずっと、立っているのがやっとの状態だったのだ。


「ぐあぁっ!!」


 片膝をついて頭を抱えている時、背中に鈍痛が走った。

 そして次の瞬間、シアードの体は空を舞い、頭から砂の大地に落ちた。


「シアード!」


 バジリスクの尾から繰り出す衝撃が、どれほど強力なものかというのは、それを受けたセレスがよく分かっていた。

 セレスはシアードの元に駆け寄って治癒魔法をかけるが、一向に回復の兆しが見えない。

 バジリスクには、ハープが再び爆砕岩衝撃ロッククラッシュを唱えて攻撃するが、鋼鉄の体にはさほど効き目がないようで、足止めくらいにしかならなかった。

 シアードは、治癒魔法をかけ続けるセレスの手首を掴み、息を切らしながら話す。


「セレス、剣を……取ってくれ……。」


「ダメよっ、そんな体で戦うなんて無茶よ!」


「い……いから……早くくれ……!」


 セレスは、目に涙を浮かべて首を横に振る。

 ならば自分で取りに行こうと、シアードが上体を起こすと、レンジが目の前に立っていた。


「ほら。」


「悪いな……。」


 シアードは、レンジから剣を受け取ると、バジリスクがいる方へと鈍い動きで向かった。


「何で行かせたの!?

 レンジのバカ!」


「うるせぇ!

 あの魔物に勝てるのは……シアードしかいないんだよ!」


「だからって、あんた自分が何したか分かってるの!?」


 セレスは、シアードを心配するあまり大粒の涙を流す。

 レンジ自身も、本当は彼が心底心配でたまらないのだ。

 だが、なおも剣を握ろうとする彼の姿を見ると、それを止めることが出来なかった。

 おそらく、このバジリスクは長年砂漠の民や旅人を恐怖に陥れてきたのだろう。

 だからこそ、シアードはそれを討ち取りたかったのだ。

 国を離れていても、人々を苦しめる魔物が許せないという、実に彼らしい考えだった。

 

 バジリスクが、埋もれていた岩山から姿を現した。

 大きな口を全開にし、天に向かって吠える。

 何度も爆砕岩衝撃ロッククラッシュをくらって怒りが頂点に達しているのだ。

 ハープは魔法を連発したせいで疲弊しており、素早く動けない。

 それに加えて、バジリスクの怒涛の迫力が彼女をすくみ上がらせた。


「シギャアアァアッ!!」


 バジリスクはもう一声吠えた直後、岩山を脱出し、一歩一歩力強く砂の大地を踏みしめる。

 そして、ハープとの距離を詰め、今にも喰らおうとしている。

 

 もうダメだ───。


 その瞬間、黒い影がバジリスクの頭上に映った。

 そして、一秒も満たない時間が経ち、バジリスクの体は割れたように粉々になった。


「この技……この剣……最高だ……。」


 シアードは無我夢中で飛び上がり、防御破壊ガードブレイクを繰り出したのだ。

 そして、バジリスクを倒したことを認識することなく、そのままハープの目の前で意識を失った。


「シアード!!」


 そこに、レンジとセレスが駆け寄ってきた。


「シアードは毒に犯されてるの、治癒魔法も効かないの、どうしよう、シアードが死んじゃう……!」


 セレスが震えながら取り乱している。

 ハープはセレスの肩に手を置いて、提案した。


「シアードを連れて、今すぐカリナーンに向かうよ!」

 

 ハープは瞬間移動魔法テレポートを唱えると、全員を連れてカリナーンへと移動する。

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