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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アルメイン大陸 テルス神殿
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65/207

65.砂漠の魔物

 これで、精霊の加護を受けた者が二人揃った。

 

 セレスの治癒魔法は、アレス島にいた時に比べて非常に強力な力になっていた。

 シアードも、元々強かったところに聖剣グラディウスと新たな技が加わったことでまた一段と強くなり、今ではこのパーティの攻撃の要となる存在だ。

 そして、ハープの魔力は誰よりも高く、強力な攻撃魔法が多くの敵をなぎ倒す。

 それに比べて、レンジはいつまでも素手だけで応戦している。

 大抵の魔物は一人で倒すことが出来るため、決して弱いわけではない。

 だが、人食い蛾のような触れる事が出来ない魔物が出てきたときは、まるで歯が立たない。

 少年は、自分が加護を受ける番を今か今かと待ちわびている。

 自分も彼らのように、特別な力が欲しいといつも考えていた。


「レンジ。」


 ハープは、自分の隣で悶々としているレンジの肩を軽く叩いた。

 先程から深いため息をつく少年を、気にかけていたのだ。


「私は信じてるよ。

 だって、レンジは強いもの。」


 「強い」なんて言われると、いつもなら手放しで喜べるはずなのに、なぜか今は喜べないでいた。


 自分には、精霊の心に響くような強い気持ちがあるのだろうか。

 あるとしたら、一体それは何なのか。

 気になって気になって仕方がない。


「あぁ~~、わかんねぇ!!」


 いきなり髪の毛をくしゃくしゃとし出すレンジの仕草に三人は足を止め、そして目を向けた。


「また変なこと考えてたのよ。

 放っておきましょ。」


「んだとコラッ!!」


 セレスの言葉に、強い口調で反発する。

 よかった、いつものレンジだと、ハープは胸を撫で下ろした。


「……そうも言ってられないけどな。」


 シアードが素早く剣を抜いた。

 三人もその行動にもしや、と思い、辺りを見回すと、そこには大人ほどあるサソリ型の魔物と、灰色の体と固い鱗をもつ五メートルほどの大トカゲの姿があった。

 

 この砂漠に棲息する、砂蠍サンドスコーピオンと、バジリスクだ。


「よりによって……。」


 剣を構えたシアードが、珍しく冷や汗をかいている。

 何故なら、砂漠で最も遭遇したくない魔物が目の前にいるからだ。

 アルメイン大陸の砂漠に暮らす者なら、「バジリスクを見たら逃げろ」と皆、口を揃えて言う。

 サンドスコーピオンも十分脅威だが、バジリスクは何よりも恐ろしい魔物だ。

 一般に店で売られている武器では、バジリスクの固い鱗に傷をつけることすらできない。

 そして、バジリスクの吐く息には猛毒が含まれており、今まで誰もこの魔物を倒そうとしないでいた。

 ハープの魔法はどうか分からないが、レンジの攻撃やセレスの鞭などでは、おそらく歯が立たない。

 自分の剣はしっくりきたものの、未だ使用したことがない。

 だが、大地の精霊を信じるのなら、防御破壊ガードブレイクと共に試してみる価値はある。


「うわっ、何だ!?」


 倒すかどうか、迷っているその時だった。

 サンドスコーピオンが長い尾を振り回し、砂煙を巻き起こした。


「何コレっ!?

 けほっ、けほっ、前が見えない……!」


「きゃっ!!」


「セレス!」


 砂が目に入り、視界が悪くなった時、バジリスクが尾でセレスを攻撃した。

 彼女は衝撃によってふっ飛ばされ、そのまま倒れ込んだ。

 砂煙が引くよりも先に、セレスを刺そうとするサンドスコーピオンの尾を、シアードが瞬時に断ち斬った。

 尾の切り口から、大量の濃い青の血が飛び散る。

 シアードはそのひと振りで、聖剣グラディウスの力を確信した。


「レンジ、こいつは俺に任せろ。」


 シアードは、目の前にいる砂漠に住む最凶の敵を仕留めることを決意した。

 バジリスクは大きく口を開け、唾液が絡みついた牙を見せつけている。

 今にもお前を喰ってやるぞと言わんばかりに、真っ赤な口内を見せつけて威嚇する。

 

「そいつの弱点は腹だ。

 何とかして腹を狙え!」


 サンドスコーピオンの体も、バジリスクとまではいかないが固い。

 だが、腹は熱を放出しやすい仕様になっているために柔らかいということを、彼は知っていた。


「分かったよ!

 シアード、やられんなよ!

 ハープ、俺が何とかしてアイツをひっくり返すから、魔法で応戦してくれ。」


「分かった!」


 レンジと同じくらいの背丈のサンドスコーピオンは、尾を斬られた痛みでのたうち回っている。

 尾を斬られては、砂煙を巻き起こすことも、毒針で攻撃することも出来ない。

 後は、何とかしてひっくり返すのみである。

 レンジは、魔物の胴に当たるところに正拳を垂直に振り下ろした。


「あれっ?」


 拳がサンドスコーピオンに当たった瞬間、ぬるっ、とした感触を覚え、そのまま砂の地面に転げてしまった。

 魔物は、自身の乾燥を防ぐために体内から油分を分泌させていた。

 過酷な砂漠を生き抜くための進化に、レンジは苦戦を強いられる羽目になった。

 目の前に転げている少年を串刺しにしてやろうと、サンドスコーピオンは立ち上がり、鋭いハサミで狙いを定める。


「今だっ!」


 レンジは素早く起き上がり、魔物の頭上に立った。

 そしてそのままとんっ、と前に蹴り倒すと、魔物はひっくり返り、腹が丸見えの状態になった。

 倒れた際に、軽く砂埃が舞う。

 ハープは、レンジが魔物の頭上に乗った時から、目を閉じて詠唱していた。

 彼女がすっと両手を広げ、手のひらをかざすと、地面から次々に岩が浮き出てくる。

 砂埃が舞うのを合図に、レンジに離れるよう告げた。


爆砕岩衝撃ロッククラッシュ!」


 ハープの声と同時に、多数の岩がサンドスコーピオンの腹を目掛けて振り下ろされていく。

 岩同士がぶつかる、ごつごつした音がその場に鳴り響く。

 ギュッ、っという、虫を潰した時の独特の鳴き声が聞こえたかと思うと、ハープの魔法によって作られた岩山が崩れることはなかった。

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