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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アルメイン大陸 テルス神殿
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64/207

64.テルス神殿

「な、何だこりゃ……!?」


 レンジは、目の前に広がる光景に足が立ちすくんでいた。

 それはあまりにも非現実的で、自然の恐ろしさを身体で感じた。


 レンジ達一行は、リジェの集落より南東に位置するテルス神殿に来ていた。

 確かに神殿らしき大きな建物があるのだが、床の真ん中に大きな亀裂が走っている。

 まるで、地割れでも起きたかのように広がる裂け目は、真っ暗で底が見えない。

 吸い込まれそうな大地の裂け目によって、神殿は真っ二つに破壊されていた。


「一体、何が起こったんだ?」


 レンジやセレス、ハープが辺りを見回している時、シアードは一つの石碑を見つけた。

 文字がところどころ擦れているため、読める文字のみを拾い上げる。


「……ロ……に……印する。」


 そこに、レンジ達が集まってくる。

 目を凝らして石碑を凝視しているシアードの姿を不思議に思ったのだろう。


「これ、何て書いてあったんだ?」


「分からない。

 文字が擦れていて読めないんだ。」


「───ゼロ、ここに封印する。」


 背後から、男の低い声がした。

 自分達しかいないと思われていた場所に、聞き慣れない声がしたことによって四人は激しく驚いた。

 そこには、鎧を着た長髪の若い男性の姿があった。

 砂漠の砂に似た髪色が、男の白い肌と青の瞳を際立たせている。


「あ、あなたは?」


 ハープは恐る恐る男に尋ねた。

 よくよく見てみると、男の身体は金色のオーラに纏われている。


「我は、大地の精霊ガイア。

 この姿は、砂漠で亡くなった人間の身体を借りているものだ。」


 今、目の前で話す大地の精霊は、姿かたちは人間そのものだ。

 だが、水の精霊を目にしたときに感じたのと同じく、神秘的であった。


「精霊様。

 ゼロを再び封印するために、どうかお力を貸していただけませんか?」


「……見ろ。」


 大地の精霊は、大地の裂け目を指した。


「石碑を見ただろう。

 ゼロと人間はこの地で戦い、そして三百年前にこの場所に封印されていた。

 お主とよく似た少女の魔法と、我々精霊の力によってな。

 しかし、少女の魔法はついにゼロを抑えきれなくなったのだ。

 この大地の裂け目は、ゼロの封印が解き放たれた時に生じたものだ。」


「あなたでも抑えきれなかったの?」


 セレスの問いに、人間の身体を借りている大地の精霊が、ふっと笑う。


「少女の魔法は、術者の精神を使う古代の魔法だ。

 三百年も長らえた事自体が、不思議でならない。」


「復活してしまったゼロを再び封印するために、どうかお力を貸していただきたいのです。」


 再度、真剣に懇願するハープの眼差しを受け止めるかのように、大地の精霊も少女の目を見つめる。


「……お主。

 印の魔法がどういうものか、分かっておるのか?」


 その問いに、ハープはゆっくりと頷いた。


「それが私の……私がこの世に生まれた、使命ですから……。」


 大地の精霊は、少女の覚悟を受け止めることにした。

 ハープの表情も雰囲気も、三百年前の記憶に残る少女と何一つ変わらない。


「そうか……。

 だが、お主よりも加護を授けるに値する人間がいる。

 我はこれより、その者に力を貸すことにしよう。」


 長髪の男性という、仮の姿をしている大地の精霊は、シアードの目の前に立つ。

 加護を授かるのは自分だと思っていた、レンジを素通りして。

 二人の色男が並ぶと、とても絵になるなと思いながら、セレスとハープは眺めていた。


「お主の祖国と民を愛する心の強さ、しかと見せてもらったぞ。

 我はここから、このアルメイン大陸に広がる国を見守っている。

 お主の無事を十年もの間、祈り続けた老人のことも、お主を待ちわびていた幼き国王の事も、我は全て見ていた。」


 シアードは黙ったまま、目を閉じて深々と礼をした。

 そして、シアードの頭上から、一粒の光が舞い降りてくる。

 世界樹の森で見た光景が、今、自分に起ころうとしている。

 光がぱっ、と弾けると、シアードは自分の身体が徐々に熱くなるのを感じた。


「ひとつ、我の技を伝授しよう。

 この技の名前は、防御破壊ガードブレイク。」


防御破壊ガードブレイク?」


「敵のどんな堅い防御も打ち砕くという究極の剣技だ。

 お主は、剣を使うのだろう?」


 大地の精霊は何かを念じ、手を上にかざすと、そこには神々しい両刃の剣が現れた。

 そしてそれを、シアードの目の前にゆっくりと下ろした。


「これは、聖剣グラディウス。

 大地の力が封じ込められている。

 人間が創った物とは違い、まず折れることはないだろう。

 存分に振るうがよい。」


 その剣は、シアードの手に非常に馴染んだ。

 そして、軽く剣を振るってみた。

 まるで、ずっと昔から使っていたかのような、しっくりくる使い心地だった。

 

「ありがとうございます。」


 よほど嬉しかったのだろう。

 シアードは目を輝かせながら、剣の刃を眺めたり持ち替えたりしている。

 そして大地の精霊は誰にも気づかれぬよう、彼に耳打ちした。


「お主ら、これから何処を目指すつもりだ?」


「あとは……風と火の精霊に会わなきゃいけないんだ。」


 レンジの言葉に、大地の精霊は口元に手を当てて、ばつの悪そうな顔をしていた。


「どうしたんだよ。」


「いや……よりによって、曲者しか残っておらぬとは。」


「くせもの?

 精霊にくせものとかあるのか?」


「……会えば分かる。

 それはそうと、風の精霊ならこの砂漠をはるか西に越えた風の谷にいるぞ。

 ただし、奴は気まぐれでな。

 常にそこに留まっているとは限らん。

 気を付けて行かれよ。

 我は、時が来るまで眠ることにしよう。」


「えっ、あ、おい、ちょっと!」


 レンジの呼び止める声に反応することなく、大地の精霊は裂け目の方へと消えていった。

 裂け目にひょいっ、と飛び込む姿を見て、レンジ達は身の毛がよだつ。

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