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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アルメイン大陸 王都カリナーン -後編-
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61/207

61.三つの願い

 シアードには、三つの願いがあった。


 その一つ目を叶えるために、訓練場へと足を運ぶ。

 訓練場には、徴兵されていた国民と王妃に雇われた貧民街出身の兵士の姿があった。

 貧民街出身の兵士は皆、縄できつく縛られていた。


「離しやがれ~っ!!」


「うるさい、観念しろっ!」


 国民が、兵士を縛る縄に力を込める。

 だが、シアードはそっと手を差し延べてそれを阻止した。


「シ、シアード様!?」


「彼らは王妃に雇われていただけなんだ。

 離してやってくれないか。」


「し、しかし……。」


「それに彼らはもうこの国の兵士だ。

 俺は、彼らに早速取りかかってもらいたいことがあってここに来た。」


 この国の兵士。

 そう話すシアードの言葉は、不思議と心地良かった。

 貧民街出身の兵士だということで、この城に最初から仕えていた兵士や使用人からは、普段から汚いものを見るかのような眼差しを向けられていた。

 貧民街出身の彼らとて、人の子である。

 そのような眼差しを向けられては、どうしても心がやさぐれてしまうのが常である。

 逃げるように暴力や酒に走っていた彼らを、シアードは「兵士」として尊重してくれている。

 そのことが、彼らの中にあった僅かばかりのプライドを刺激した。


「街に向けられている大砲を下ろしてほしい。

 頼む、力を貸してくれないか。」


 それは、異様な光景だった。

 一国の王子とあろうものが、貧民街出身の者達に深々と頭を下げているのだ。


「おやめください!

 何もこのような奴らに、シアード様が頭を下げる必要はありません!」


 国民が慌てて頭を上げるよう説得するが、シアードは微動だにせず、礼を崩さない。

 その真っ直ぐな姿勢に、縄を解かれた一人の兵士が近づいてきた。


「……アンタ、この国の王様になろうってお方なんだろ?

 だったら、頭なんか下げるモンじゃねぇ。

 あの大砲は、俺達に任せてくれよ。」


 シアードが顔を上げると、そこにはごろつきの姿はなかった。

 精悍な顔つきをした、この国の兵士の姿があった。

 兵士達は、はりきって訓練場を出ていった。

 それから、シアードは徴兵されていた国民に家族の元へ帰るよう命じ、自分は一旦リジェの集落へと戻ることにした。


 リジェの集落の入り口では、レンジ達がシアードの帰りを待っていた。

 三人とも笑ってはいたが、何処となく寂しそうな表情が垣間見える。

 彼らはきっと、自分がこの国に残ると考えているのだろう。

 そしてそれが、自分にとって最善の選択であると、そう考えてくれているのだろう。


「シアード……。」


 セレスが半分笑顔で、半分泣きそうという、何とも不思議な表情で自分の名前を呼んでくる。

 

「旅はやめないよ。」


 そう告げて、シアードは二つ目の願いを叶えるためにバートの家を目指した。

 そこには、治療を受けたバートと集落の人々の姿があった。

 バートは、シアードの表情と彼の優しい性格から、すべてを読み取ったのだろう。

 整えられた髭を右手で触りながら、口を開いた。


「セレス殿の力は凄いのぉ。

 ワシの怪我をあっという間に治してくれました。」


 敢えて核心に触れず、自分の話をし出す。


「じいや、頼みたいことがある。

 ここにいる皆も、城に戻って俺の代わりにシェネルを支えてほしい。」


 その言葉に、誰も返事をしない。

 シアードが辺りを見回すと、皆、目を逸らしたり伏せたりしている。


「坊ちゃま……。

 坊ちゃまは本当に、カリナーンには戻られないのですね。

 坊ちゃまに仕えたいという、ワシらの気持ちはどうなるのですか?

 せっかく国を取り返したというのに、王が変わらないということなどあっていいのでしょうか。

 それにシェネル様は、正当な血筋ではありますまい。」


 その言葉に、シアードは頭に血が上っていく感覚を覚えた。

 初めて、自分の感情が抑えられなくなった。


「……これだから王族は嫌いなんだ。

 シェネルは、この国が好きだと……この国に生まれて良かったと言っていた……!

 王になるのに血筋がどうだとか、今更関係ないだろう!!」


 シアードがこんなにも怒りを露わにするところを、レンジ達は初めて見た。


「あいつは確かに小心者だが、誰よりも祖国を愛し、優しい心を持っている。

 それに王妃を討ったのは俺ではない、シェネルだ!

 あいつは自分の手で、大地と花の国を取り戻したんだ。

 国を守るためとはいえ、自分の、実の母親を討ったあいつを、一体誰が責めることが出来る!?」


 バートは、詰め寄るシアードにずいっと顔を寄せ、彼に負けない迫力で言い返した。


「しかし坊ちゃま!

 それでは国民に示しがつきますまい!

 このままシェネル様が王の座にいては、国民も今まで通りなのかと不安に思われます!

 ともかく国王として即位していただかないと、アケル様も報われんでしょうな!」


 亡くなった父の名が、シアードに冷静さを取り戻させた。


「……分かったよ。」


 観念したようにため息をつき、そう呟いた。

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