表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アルメイン大陸 王都カリナーン -後編-
PR
62/207

62.一瞬の王様

 その日の明け方、レンジは一人、目を覚ました。

 この宿の部屋には、既にシアードの姿はない。

 彼はあれから、集落から姿を消した。


 国を取り返したにもかかわらず、ちっとも嬉しくない。

 悪政に終止符が打たれたのは喜ばしい事なのだが、シアードがこの国に残ってしまうのではないかと考えると、素直に喜べないでいた。


 旅はやめない。


 彼はそう言っていたが、昨晩の、老骨に鞭を打ったようにシアードに詰め寄るバートの姿が、レンジの脳裏に焼き付いていた。

 一度は、シアードと離れることを覚悟した。

 それを承知のつもりで、自分も力になった。

 だが、実際その時が来てみると、離れたくないと思ってしまう。

 それぞれの事情があるはずなのに、離れたくないと願ってしまう。


「俺って、相変わらずガキだよなぁ……。」


 レンジは宿を出て、バートの家を走って目指す。

 砂漠の朝は夜とまではいかないが、やはり冷える。

 だが、そう思えたのもほんの一時の事だった。

 砂の上を走っていると、自ずと体は温まっていく。

 目的地に着くと、家にある簡易な足場からバートはある方向を眺めていた。


「バートさん!」


「おぉ、レンジ殿。」


「あのさぁ、話があるんだ。」


「……まぁそう言わずに、こちらに来てみなされ。」


 バートはレンジに声をかけ、手招きをする。

 バートの隣に行くと、そこには幻想的な景色が広がっていた。

 何かの建物が、朝日を背に光り輝いているように見える。


「ここからはるか南東に、神殿がある。

 大地の精霊を祀る、テルス神殿じゃよ。」


「大地の精霊!?」


 レンジ達がこの大陸に来た一番の目的だ。

 様々なことがあったが、もちろん忘れてはいない。


「ワシはこの光景が好きでのう。

 この集落を作ってからこうして毎日眺めておる。

 それはそうと、レンジ殿、坊ちゃまとはどういうお知り合いで?」


「家族だよ。」


 レンジの言葉に、バートはきょとんとしている。


「シアードが海岸に流れ着いてたところを、セレスが助けたんだ。

 それから俺達は、俺のおばさんのところでずっと一緒に暮らしてきたんだ。

 だからさ……奪わないでくれよ。

 俺、まだシアードと一緒にいたいんだよ!

 もちろん、無茶なお願いだってことも分かってる、シアードにとって、この国に残ることが一番いいってことも分かってる!

 それでも……まだ、もう少しだけ、一緒に旅がしたいんだ。」


 目を潤ませながらこちらを見て話す少年に、バートは微笑みかけた。


「心配せんでもええ。

 坊ちゃまはああ見えて、頑固じゃからのう。

 ただ、ワシは王子としての最後の仕事をしてもらいたかっただけじゃ。」


「最後の仕事?」


「今日、城に行けば分かるじゃろう。」


 バートはそう言うと、支度があるから、と家の中へと入っていった。

 レンジが宿に戻ると、そこには目を真っ赤に腫らしたセレスと、元気のないハープがいた。


「ひっでぇ顔。」


「……レンジ、怒るよ?」


 城に向かう最中、レンジがセレスをいじる。

 セレスが鞭を握りしめると、ハープがおろおろし出す。


 カリナーンに着くと、そこには昨日までの姿はなかった。

 街中に向けられていた大砲は全て下ろされていた。

 そして、街中の民家もあちこちで修繕されている。

 そこには、昨日まで戦っていた兵士の姿もあったが、彼らは国民と共に武器ではなく、工具や材木を手に持っていた。

 兵士を含めた男性達の中には、ああでもない、こうでもないと言い合う者もいれば、肩を組んで酒を交わす者もいる。

 女性や子供は、あらゆるところにサボテンや緑の苗を植えている。

 本来の、大地と花の国と呼ばれるカリナーンの姿がそこにはあった。

 街中の人々の姿を微笑ましく思っていると、街中に大きな鐘の音が響いた。

 

「急げ急げ、新しい王様が見えられたぞ!」


 街じゅうの人々が、鐘の音と同時に城を目指して走っていく。

 レンジ達は、半ば人混みに飲み込まれるように城へと向かった。

 

 カリナーンの城の前に着くと、城の中央に位置するバルコニーから、正装をしたバートの姿が見えた。

 そして───。


「えっ、シアード!?」


 レンジ達は、自分の目を疑った。

 そこには、赤いマントを羽織り、頭に王冠を乗せたシアードの姿があった。

 その凛々しい姿に、国民の歓声が湧き上がる。


「シアード国王、万歳!!」


 国民の止まない歓声に、レンジ達は現実を受け入れた。

 シアードは自分達との旅よりも、この国の王になることを選んだのだ。

 本当なら、心から祝福しなければならないはずなのに、それが出来ない自分達がいる。

 レンジ達の計り知れない悲しみは、祝福の歓声なんかでは消すことはできない。

 その時、シアードの声が街中に設置された拡声器から聞こえてきた。


「……この国は一度、武力を強化することに走ってしまった。

 しかし、カリナーンの本来あるべき姿は、大地と花を愛する国であると俺は信じている。

 そして、ここに集まったすべての国民に、頼みがある。

 王と共に、どうかこのカリナーンを支えてほしい。」


「もちろんだ、王様!」


「王様万歳!

 シアード国王、万歳!」


 あちこちでシアードを称える言葉が聞こえてくる。

 すると、シアードはあろうことか王冠を頭上から外した。


「この国を治めるにあたり、俺よりも相応しい者がいる。

 俺は、今日よりその者に王位を継がせるつもりだ。

 その者は、誰よりもカリナーンの国を愛し、誰よりも優しい心を持っている。

 その新しい国王と共に、このカリナーンを支えていってほしい。」


 それからシアードは、バルコニーに姿を見せたシェネルに、王冠を乗せた。

 そして耳元で、ほら行け、と囁く。

 小心者、偽りの王、操り人形などと、陰ながら国民に揶揄されていたシェネルだが、この時ばかりは違った。

 そこには凛とした、若々しさが溢れる国王の姿があった。


「僕、頑張るから!

 もう、みんなを苦しめたりしないって約束するから!

 だから……だから、みんなもこの国を一緒に支えてください!

 お願いします!!」


 それは、彼らしい素直な言葉だった。

 一瞬の沈黙の後、シアードの時よりも大きな歓声が、彼を再び国王として迎え入れた。

 シアードは、バルコニーから引っ込んだ途端、マントを脱いで煙草を吹かしている。


「……バカ、王様が下手に出てどうするんだよ。」


 三つめの願いを叶えたシアードは、城を後にしようとした。


「坊ちゃま!」


 バートが、息を荒らげながら追いかけてきた。

 彼にうるさく言われるだろうと思ってはいたものの、意外にも王位を弟に譲ったことを責められることはなかった。


「どうか、お気をつけて!」


「あぁ。

 シェネルを、弟をよろしくな。」


 そう言い残し、シアードはカリナーンの城を出た。

 とても晴れやかな気分だった。

 街の入り口あたりで大きく手を振るレンジ達の姿を見ると、彼の身体からふっ、と力が抜ける。

 そして、そのまま、倒れるようにセレスにもたれかかった。


「シ、シアード!?」


 慌てふためくセレスの姿に、レンジとハープはそれぞれ微笑んでいた。


 疲れていたのだろうか、それとも、仲間の姿を見て安心したのだろうか。

 シアードは、安堵の表情を浮かべながら、そのまま眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ