56.カリナーンは好きか?
レンジ達一行は、カリナーンに到着すると二手に分かれた。
シアードとセレスが城内に入り、王妃を討つ。
それ以外の者は、徴兵されている国民を救うために、城内の訓練場を目指すという作戦だ。
どちらともまず、カリナーン城を目指すのだが、そこまで辿り着くのは容易ではない。
まるで要塞のようにそびえ立つあの城は、大砲を街の方へ向けている。
二万の兵士に大砲をもつカリナーンの軍隊と、千人ほどの庶民の力とでは雲泥の差がある。
だが、レンジは言う。
「いいじゃねぇか少なくても。
要するに負けなきゃいいんだ。
俺達は俺達で、城にいる国民を助けよう!
そんでもって、シアードを信じろ!」
レンジが士気を高めている時、向こうの方から何かが壊れる音が響いてきた。
衝撃が起きた直後、熱を帯びた突風が小石や枝を運んでくる。
カリナーンの軍隊が、あろうことか街の中に大砲を撃ったのだ。
「なんて奴らだ……!」
「レンジ、急ごうよ!
でないと、もっと撃ってくるよ!」
そう話すハープの様子が、撃たれた大砲の威力を物語る。
レンジ達は、急いで城の中の訓練場を目指す。
その際に、自分達を狙ってくるいろんな兵士と戦闘を交える。
ただひたすら、見境なく人を斬り付けてくる者もいれば、集落の者の姿を見ると、涙を流しながら剣を放る者もいる。
ひとえに「兵士」と言っても、彼らの戦う動機はひとつではなかった。
ただ暴れたいだけ、本当は戦いたくないが命令に背くことが許されないなど、様々だ。
二万の兵士の中に、命を賭して国のために戦う者は、一体何人いるだろうか。
団結力のない寄せ集めの兵などに、長くこの日を待ちわびた集落の人々が負けるはずもなかった。
倒した兵士の武器を奪うことで、レンジ達の軍は強化されていった。
カリナーンの城門に辿り着いたとき、門番が二人とも倒れていた。
レンジは、そこにかすかに見える馬の足跡で、シアードとセレスは既に城内にいることを確信した。
レンジ達は、地図で見た位置の訓練場に向かった。
「みんな、助けに来たぞ!」
訓練場の扉を開けると、そこには大勢の武装した兵士がいた。
彼らは皆、街から収容された国民であった。
だが兵士達は、こちらに槍を一斉に向けてきた。
「ま、待てよ!
俺達はあんたたちを助けにきたんだぞ!?」
兵士の一人が、声を震わせながら大声を上げる。
「う、うう、うるさいっ!
俺達は、逃げたお前らの分まで、苦しめられてきたんだっ!
か、か、覚悟しろ!」
兵士がもつ槍は、大きく震えていた。
怒りで震えていたのか、同じ国民に槍を向けるのが怖いのか、その震えがどこからきているのか分からないが、このままやられるわけにもいかなかった。
「ま、待てよ!」
「うるさいっ!
うるさいうるさい!!
わあぁーーッ!!」
兵士は叫びながら突進してきた。
レンジは咄嗟の出来事に避けられないでいた。
身構えながら、ぐっと体に力を入れて目を瞑っていたが、何も起こらない。
恐る恐る目を開けると、目の前にはバートが手を広げて立っていた。
兵士の突いた槍は、バートの左手を貫通していた。
「バートさん!!」
大量の血を流すバートに、大勢の人が駆け寄る。
矛先が真っ赤に染まった槍を握りしめたまま、兵士は歯を剥き出して取り乱していた。
「ワシは……大丈夫じゃ。
なぁに、腕の一本くらい……国民が受けた苦しみに比べたら……こんなもの……。
……なぁ、お主ら……。
カリナーンは好きか?」
ハープが、傷口に布をあてがう。
しかし、それはみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
バートは手当てを優しく阻止すると、ゆっくりと立ち上がり、なおも言葉を続けた。
「ワシは……第一王子と共に、一度はこの国を出た。
じゃがのう、やっぱりのう、捨てきれんかったんじゃ……。
昔に比べて……この国は変わってしもうたがの、いつか取り戻すことをずっと夢見てきたんじゃよ……。
……第一王子が帰ってきたんじゃ。
シアード王子は……今まさに王妃を討とうと、国を取り戻そうとしておる。
国民よ、戦おうではないか。
ワシらの手で……大地と花の国を取り返すんじゃ。」
その時、後ろの方で拍手が聞こえてきた。
拍手しているのは、一人だ。
「ハイハイハイ!
いやぁ、なんとも素敵な爺様だ!
熱いねぇー、俺、そういうの嫌いじゃないぜ?
でもよ、こいつらは渡せねぇ。」
壁に手をついてそう話す大柄な男は、傍にいた兵士を一蹴りした。
すると、兵士はそのまま壁の方へと激突し、意識を失った。
衝撃によって凹んだ壁が、男の一撃の威力を物語る。
「みんな、早く脱出するんだ!」
息を切らすバートを背負った集落の男が、部屋から出るように促した。
「そうはさせねぇっての!」
男が大きな体を使って、こちらに体当りしようと目掛けてくる。
ハープは手の平から火の球を生み出し、それを男に投げつけた。
一瞬ひるんだ隙に、レンジが両手を前に出して動きを阻止した。
「何だ、おめぇはよぉ……。」
「おめぇの相手は俺だ、デカブツ!」
レンジ、負けないで。
全員が無事部屋を脱出したことを確認したハープは、レンジに目で合図を送ると、人々の一番後ろについて出て行った。




