55.作戦
リジェの集落の離れに、二名の兵士と、子供の墓が作られた。
集落の人々は、兵士の亡骸など野晒しにしておけばいいと口を揃えて言ったが、シアードがそれをさせなかった。
集落の者にとっては非常に不本意だが、兵士の墓も、子供の墓も並べて作られた。
辺りは暗くなり、また肌寒い砂漠の夜を迎える。
ひと段落ついたかと思われるときに、シアードは墓の前にいた。
墓を一瞥した後、自分の両手に目を落とす。
そこには、確かに肌色の自分の手があるのだが、彼には血で染まりきった赤色に見えてならない。
剣を握り、人間の腕と首を切り落とした感覚が、未だに染みついて取れないでいた。
「……とうとう人を殺めてしまった。」
シアードは、ぼそりと呟いた。
一人は仕方なかった。
子供の母親を救うためだった。
だが、もう一人は?
本当にあそこまでする必要があったのだろうか。
しかし、あのまま生かしておけば、あの兵士も遅かれ早かれ民を殺そうとしただろう。
過去から生まれる罪悪感が、彼を執拗に責め立てる。
その時、後ろの方からバートの声がした。
「坊ちゃま……。
心を痛めておるのですね。
坊ちゃまの苦しみは、ワシらも背負うつもりですじゃ。
じゃからもう、自分を責めないでくだされ。」
ゆっくり後ろを振り向くと、そこにはリジェの集落の人々がいた。
「坊ちゃま。
ワシらは明日、カリナーン城に攻め込むつもりですじゃ。
どうか指揮をとって下さらぬか。
詳しくは、ワシの家で話しましょう。
お待ちしております。」
バートと人々は、その場を後にした。
シアードもそれについていこうとしたが、ふと、オアシスに咲く小さな白い花が目についた。
それを三つばかり採ると、再び墓地へと向かう。
そして、それをひとつずつ、そっと墓の前に添えて祈った。
誰の、どんな魂も、安らかに大地へ還っていくように───。
「シアード、どこ行ってたんだよ。
みんな待ってたんだぜ?」
バートの家には、既にレンジ達がいた。
すまない、と一言詫びてレンジの隣に座り、背負っていた剣を下ろした。
バートは二枚の紙を取り出した。
一枚はカリナーンの街路図、もう一枚は城内のあらかたの間取り図だ。
「ワシが十年前の記憶で書いた物じゃが、経路や部屋数などは変わってないはずじゃ。
カリナーンの兵士は、ざっと二万はいるじゃろう。
それに比べ、ここの集落で戦える者は千にも満たない。
坊ちゃま、いかがなさいましょう。」
一通り図を見たシアードは、すぐに案を出す。
「城内に入ってしまえば、王の間までの距離はそんなにない。
俺がシリウスに乗って城内へ乗り込んで、王妃を討ちとる。
だが、その前にやる事がある。」
「確かに、城の中を知っている者が行ったほうが無駄な動きが少なくて済みますな。
して坊ちゃま、やるべき事とは?」
シアードは、城内の間取り図の右端を指す。
城門を抜けた後、右方向へ進むとその部屋に繋がっている。
「まず、訓練場にいる国民を救い出す。
その国民をこちら側につけることが出来れば、きっと大きな戦力になる。
全員が全員、俺達についてくれるかは分からないが、このままがむしゃらに責めるだけではこちらの数も足りない。
下手したらこのまま、彼らも皆殺しにされてしまう可能性もある。
その前に助けるんだ。」
「し、しかし、元ごろつきとはいえ鍛え抜かれ、武力を持った兵に太刀打ち出来る者など、この集落には……。」
「俺達がいるじゃねぇか。」
レンジが話に割って入った。
「同時進行でいこうぜ。
シアードは王の間に行くことだけ考えてればいいよ。
俺達で兵を食い止めつつ、訓練場のみんなを助ける。」
「……そうさせてもらおうか。
そっちは任せたぞ。」
「おう、任せろ!」
「して……坊ちゃまは、まさかお一人で城内に乗り込むわけではあるまいな?
それはいかん、無茶ですぞ!
誰かを供につけましょう。」
彼の身を案じるバートは、口調が焦りから早口になる。
シアードは首を横に振った後、セレスの方を向いた。
「お前は俺と一緒に来てくれないか?」
「わ、私?」
「あぁ。
この戦い、絶対に負けるわけにも、やられるわけにもいかないんだ。」
「分かったわ。」
バートはこの場にいる全員に作戦を伝え、人々は一旦解散していった。
「坊ちゃま、これを。」
バートは、家の引き出しを開け、散弾銃を一丁、シアードに手渡した。
「いざという時に使いなされ。」
黒光りした散弾銃は、ずっしりと鉄の重みがした。
「坊ちゃま。
ワシは、大地と花の国であるカリナーンを愛している。
じゃからこそ、どんなに変わり果てていてもこの国を捨てることが出来なかった。
戦える者の数は少なくとも、ワシは坊ちゃまが必ずや勝利に導いてくれると信じております。
そしてその暁には、どうか父上の後を継いでカリナーンの国王になって下され!
ここにいる皆、いえ、カリナーンの街の者もきっと、それを望んでおります。」
バートの細い腕が、願いを込めてシアードの手を握りしめる。
セレスは二人の様子を、切ない表情で見つめていた。




