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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アルメイン大陸 王都カリナーン -前編-
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50/207

50.第一王子として

 なかなか寝付けないでいるレンジとセレスとハープは、考え事をしていた。

 もし反乱に加わってカリナーンを制した時は、シアードがこの国の王になる。

 そうなれば、彼とはこの国で別れなければならないことになる。

 それとも、戦いが終わった後、王にならずにユニベルの平和を救う使命を優先してくれるのか?

 だが、優しい彼がこの国の状況を放っておくはずがない。

 彼はああ言ったものの、きっとバートに協力するだろう。


 レンジ達は決めていた。

 シアードがどんな答えを出そうが、何も言わずに力になろう、と。


 夜が明け、レンジは朝日を浴びていた。

 そこにセレスがゆっくりとやってくる。

 明るいところでは、目を腫らしているのがばれてしまう。

 だが、それはお互い様だ。

 そう思ってお互い顔を背けたまま、「お、おはよう」と吃りながら言葉を交わした。

 すると、街の入り口付近が騒がしくなる。

 しばらくすると、男の罵声が聞こえてきた。


「行こう!」


 レンジとセレスは、声のする方へと向かっていった。

 人混みの中には、すでにシアードとハープがいた。

 そこには、三人の兵士と言い合いをするバートの姿があった。


「ここは、流れ着いた者が勝手に集まって出来た集落じゃ。

 カリナーンとは関係ないじゃろう。」


 真面目に話すバートとは反対に、兵士達はゲラゲラと笑う。

 三人いるうちの一人は昨日、城の訓練場で国民の手を踏みつぶした兵士だった。


「いーや、関係あるンだなぁ、これが。

 国を出て行った奴らが集まってるってこと、俺達はちゃーんと知ってンだからなぁ。

 残された国民は、可哀想だよなぁ。

 国を捨てて出ていったお前らの分も、税を納めなくちゃなんねぇンだから。

 ここンところ男は訓練で忙しいし、税収が少なくてな。

 てなワケで、今日からここに住む奴らにも全員、税金を払ってもらうぜぇ。」


 このあまりにも下品な口調。

 彼らもまた、王妃に雇われた貧民街の者だろう。


「あいつら……!」


 レンジは今にも出て行こうとしたが、それは、バートの言葉によって阻止される。


「何を抜かすんじゃ、この汚らわしいごろつき共めが。

 この集落の長はワシじゃ、好き勝手にはさせん!」


 バートは、懐から散弾銃ショットガンを取り出し、銃口を兵士に向けた。


「おっ、やる気か?

 いいンだぜぇ、俺達は。

 その引き金を引いてみろ、ここの奴らは全員皆殺しだ!」


「ぐっ……!」


 バートは集まっている人々に目をやると、兵士の言葉に銃をゆっくり下ろした。

 その瞬間、一人の兵士がバートの腹を正面から蹴りとばした。

 血を吐いて地面に倒れた時、兵士は三人がかりで何度も何度も、容赦なく背中を踏みつける。

 その光景を見ていたレンジ達が飛び出す前に、一人の少年が兵士に向かって石を投げた。

 命中した兵士が、石が飛んできた方向を睨み付け、少年の方へと歩み寄り、頭を鷲掴みにする。

 少年の甲高い悲鳴が、砂漠に響き渡る。


「お前ら……。

 いい加減にしろよ……!」


 シアードが、兵士の手首をぎりぎりと掴む。

 いつもとは違い、その眼には憎悪が込められている。


「いてててっ!

 痛い、痛いーッ!!」


 手首の激痛に耐えられなくなった兵士は、鷲掴みにしていた少年の頭を離した。


「バートさぁん!!」


 兵士の手から離れた少年は、バートの方に走って向かった。

 しかし、少年がバートのところに辿り着くことはなかった。

 手首を負傷した兵士が、レイピアで少年の左胸を貫いたのだ。

 真っ赤な鮮血が、細身のレイピアを赤に染める。

 レイピアを引き抜くと、少年は力なくその場に倒れ込み、二度と動くことはなかった。


「いやあぁーーーっ!!」


 少年の母親だろう。

 一人の女性が、叫びながら血まみれになった少年の傍に駆け寄る。

 少年を抱きかかえ泣き叫ぶ母親に、兵士は冷たい笑みを浮かべながらレイピアを突き刺そうと構える。


 もう我慢の限界だ───。


 ずっと抑えていた怒りが頂点に達した。


 シアードは、その兵士の腕を剣で斬り落とした。

 次の瞬間、レイピアを握りしめた兵士の腕が地面に転がった。

 斬られた腕からは、血しぶきがあがる。

 それを確認することなく、目にも止まらぬ早業でその兵士の首をそぎ落とした。


「ひえぇっ!!」


 その光景に二人の兵士は、その場を逃げようとする。

 だが、レンジの足払いで、片方の兵士は無様に頭から転んだ。

 倒れた兵士の背中に、シアードが全身を力を込めて剣を垂直に下ろす。

 兵士の体が一瞬反ったかと思うと、砂漠の砂が兵士から湧き出る血を、飲むように吸い続ける。

 あと一人、生き残った兵士がシアードにレイピアを向けるが、その手は震えていた。

 だが、シアードは剣についた血を払うことなく、いとも簡単にレイピアを弾く。

 乾いた金属音が響くと、レイピアは回転しながら宙を舞った。

 そして、砂漠の砂にそれが突き刺さると、シアードは剣の切先きっさきを兵士の鼻先に向けて言った。

 鉄を含んだ血の匂いが、さらに兵士の恐怖心を煽る。


「城に戻って王妃に伝えろ。

 第一王子が帰ってきた、とな。

 そして俺は、必ずこの国を取り戻す!」


 シアードの迫力に兵士は腰を抜かしそうになるが、半ば四つん這いになりながら、慌ててカリナーンの方角へと逃げていった。

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