47.腐敗
レンジ達一行は、リジェの集落からさらに西に位置する、王都カリナーンを目指していた。
あのような話を聞いたからには、行かずにはいられない。
レンジやセレスがそう言い出したのだ。
だが、当のシアードは、出来ることならリジェの集落に残りたいと考えていた。
カリナーンは、かつては「大地と花の国」と呼ばれていた。
人々はこの広大な大地を愛し、そこに咲くサボテンや珍しい植物を他国へ輸出することで、財を成していた。
また、王は代々国民を愛し、国民もまた、王を慕っていた。
しかし、今は違う。
アケル国王が王位を退いてから、国は変貌した。
何処に行っても、悪い話しか出てこない。
そのことに対し、バートは「ご自身の目で、直接確かめなされ」としか言わなかった。
「あれがカリナーンの城、なのか?
なんか城っていうより……要塞みてぇだな。」
レンジ達は、カリナーンに到着する。
シアードにとって、そこは確かに見覚えのあるはずの場所であったが、そんな様子は感じられなかった。
まず、この街の民家は、完璧ではなかった。
家の壁には穴が開けられていたり、木製の扉が傾いていたりと、リアンの貧民街とまではいかないが、見るに無残な光景が広がる。
城下町で生活する人々の服装も、十年前よりも貧相になっていた。
人々の表情は暗く、目には輝きが見られない。
それに相反するかのように、要塞のような城が街と国民を見下していた。
城からは、規則正しく設置されている大砲が顔を覗かせる。
大砲の一部は、街中にも向けられていた。
そこにはもう、かつて自分が過ごした「大地と花の国」など無かった。
「あっ、おい、シアード!?」
シアードは、思い出したかのように街の広場へと向かった。
街の中央には、その時々の王の石像が建てられる。
そこに、父アケルの姿はなかった。
「この国の王様って……もしかして、子供?」
かつて父の石像があった場所には、子どもの石像が立っていた。
おそらく、シアードが亡命したのち、弟はすぐ王座についたのだろう。
十にも満たない、自分の弟が王になったとすると、政治の実権はおそらくマリー王妃が握っているのだろう。
となると、自分を愛し、育ててくれた父はもう───。
「シアード……。」
ハープが小さな声で彼の名を呼ぶが、返事はない。
「確かめよう、シアード。」
「……何を。」
「城に行くんだよ。
父ちゃん、まだ生きてるかもしんねぇだろ?」
馬鹿馬鹿しい。
シアードにとって、父が生きているかどうかなど、もうどうでもよかった。
料理長に父の容態が手遅れだと言われてから、十年が経つ。
弟のシェネルがこの国の王になろうが、政治の実権を王妃が握っていようが、それらはもう、彼にとっては過ぎ去ったことなのだ。
「……もう俺には関係ないことだ。
この国がどう変わろうが、俺の知ったことではない。」
「……どうして?
どうしてそんなウソをつくの?」
セレスが、震える声でシアードに問う。
「ウソつかないでよ……。
本当はカリナーンの国がどうなっているか、ずっと気になってたくせに。」
「ウソなんかついてない。
それに統治者が変われば、国が変わるのは当然だ。
それが時代の流れだ。」
「あなた……この国の第一王子なんでしょう?」
「もう昔の事だ。
俺には関係ない。」
シアードはそう言うと、セレスから視線を逸らした。
彼は、ウソをつくと相手の目を見ようとしなくなる。
十年の月日を共に過ごしてきたレンジとセレスは、その彼の癖を知っていた。
「なら、俺達だけでも行くからな!」
レンジとセレスは、城の方に向かった。
ハープは戸惑いながらも、レンジ達の背中を追った。
「……全く。」
シアードは、何処かで体験したことのある現状に、ため息をつく。
案の定、レンジ達は城門で止められたようで、兵士と何かを話している。
「何だお前らは?
王妃様に呼ばれたのか?」
「そんなんじゃねぇよ、ただ王様に会いに来ただけだよ。」
兵士の言葉遣いは、城に仕える者のものではない。
まるで品性の欠片のない、ごろつきのようだ。
「この城に入りてぇんなら、なぁ?」
「あぁ、何もねぇんなら嬢ちゃんたちの裸で勘弁してやるぜ?」
「そりゃいいや、ひゃっははは!!」
あまりにも汚い言葉に、レンジ達は怒りを隠せない。
自分の仲間を侮辱された少年は、下品な兵士に掴みかかろうとしたが、後ろから手首をつかまれることでそれは阻止された。
「これで手を打たないか?」
後ろに振り向くと、そこにはシアードの姿があった。
彼は、何処から仕入れたのか分からない葡萄酒を持っていた。
「おぉ、お前分かってんじゃねぇか。
いいぜぇ、入れよ。
ただし、城の中で暴れたりするんじゃねぇぞ。」
こうしてレンジ達は、カリナーンの城内に入ることが出来た。
自分の生まれた故郷で、いったい何が起きているのか。
それを確かめるため、シアードは覚悟を決めた。
今まで目を逸らしていた現実を、この目で確かめる時が来たのだ。




