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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アルメイン大陸 王都カリナーン -前編-
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47/207

47.腐敗

 レンジ達一行は、リジェの集落からさらに西に位置する、王都カリナーンを目指していた。

 あのような話を聞いたからには、行かずにはいられない。

 レンジやセレスがそう言い出したのだ。

 だが、当のシアードは、出来ることならリジェの集落に残りたいと考えていた。


 カリナーンは、かつては「大地と花の国」と呼ばれていた。

 人々はこの広大な大地を愛し、そこに咲くサボテンや珍しい植物を他国へ輸出することで、財を成していた。

 また、王は代々国民を愛し、国民もまた、王を慕っていた。

 しかし、今は違う。

 アケル国王が王位を退いてから、国は変貌した。

 何処に行っても、悪い話しか出てこない。

 そのことに対し、バートは「ご自身の目で、直接確かめなされ」としか言わなかった。


「あれがカリナーンの城、なのか?

 なんか城っていうより……要塞みてぇだな。」


 レンジ達は、カリナーンに到着する。

 シアードにとって、そこは確かに見覚えのあるはずの場所であったが、そんな様子は感じられなかった。

 まず、この街の民家は、完璧ではなかった。

 家の壁には穴が開けられていたり、木製の扉が傾いていたりと、リアンの貧民街とまではいかないが、見るに無残な光景が広がる。

 城下町で生活する人々の服装も、十年前よりも貧相になっていた。

 人々の表情は暗く、目には輝きが見られない。

 それに相反するかのように、要塞のような城が街と国民を見下していた。

 城からは、規則正しく設置されている大砲が顔を覗かせる。

 大砲の一部は、街中にも向けられていた。

 

 そこにはもう、かつて自分が過ごした「大地と花の国」など無かった。


 「あっ、おい、シアード!?」


 シアードは、思い出したかのように街の広場へと向かった。

 街の中央には、その時々の王の石像が建てられる。

 そこに、父アケルの姿はなかった。


「この国の王様って……もしかして、子供?」


 かつて父の石像があった場所には、子どもの石像が立っていた。

 おそらく、シアードが亡命したのち、弟はすぐ王座についたのだろう。

 十にも満たない、自分の弟が王になったとすると、政治の実権はおそらくマリー王妃が握っているのだろう。

 となると、自分を愛し、育ててくれた父はもう───。


「シアード……。」


 ハープが小さな声で彼の名を呼ぶが、返事はない。


「確かめよう、シアード。」


「……何を。」


「城に行くんだよ。

 父ちゃん、まだ生きてるかもしんねぇだろ?」


 馬鹿馬鹿しい。

 シアードにとって、父が生きているかどうかなど、もうどうでもよかった。

 料理長に父の容態が手遅れだと言われてから、十年が経つ。

 弟のシェネルがこの国の王になろうが、政治の実権を王妃が握っていようが、それらはもう、彼にとっては過ぎ去ったことなのだ。


「……もう俺には関係ないことだ。

 この国がどう変わろうが、俺の知ったことではない。」


「……どうして?

 どうしてそんなウソをつくの?」


 セレスが、震える声でシアードに問う。


「ウソつかないでよ……。

 本当はカリナーンの国がどうなっているか、ずっと気になってたくせに。」


「ウソなんかついてない。

 それに統治者が変われば、国が変わるのは当然だ。

 それが時代の流れだ。」


「あなた……この国の第一王子なんでしょう?」


「もう昔の事だ。

 俺には関係ない。」


 シアードはそう言うと、セレスから視線を逸らした。

 彼は、ウソをつくと相手の目を見ようとしなくなる。

 十年の月日を共に過ごしてきたレンジとセレスは、その彼の癖を知っていた。


「なら、俺達だけでも行くからな!」


 レンジとセレスは、城の方に向かった。

 ハープは戸惑いながらも、レンジ達の背中を追った。


「……全く。」


 シアードは、何処かで体験したことのある現状に、ため息をつく。


 案の定、レンジ達は城門で止められたようで、兵士と何かを話している。


「何だお前らは?

 王妃様に呼ばれたのか?」


「そんなんじゃねぇよ、ただ王様に会いに来ただけだよ。」


 兵士の言葉遣いは、城に仕える者のものではない。

 まるで品性の欠片のない、ごろつきのようだ。


「この城に入りてぇんなら、なぁ?」


「あぁ、何もねぇんなら嬢ちゃんたちの裸で勘弁してやるぜ?」


「そりゃいいや、ひゃっははは!!」


 あまりにも汚い言葉に、レンジ達は怒りを隠せない。

 自分の仲間を侮辱された少年は、下品な兵士に掴みかかろうとしたが、後ろから手首をつかまれることでそれは阻止された。


「これで手を打たないか?」


 後ろに振り向くと、そこにはシアードの姿があった。

 彼は、何処から仕入れたのか分からない葡萄酒を持っていた。


「おぉ、お前分かってんじゃねぇか。

 いいぜぇ、入れよ。

 ただし、城の中で暴れたりするんじゃねぇぞ。」


 こうしてレンジ達は、カリナーンの城内に入ることが出来た。


 自分の生まれた故郷で、いったい何が起きているのか。


 それを確かめるため、シアードは覚悟を決めた。

 今まで目を逸らしていた現実を、この目で確かめる時が来たのだ。

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