表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
アルメイン大陸 王都カリナーン -前編-
PR
43/207

43.リジェの集落

 レンジ達一行は、リアンから西に位置するリジェの集落に来ていた。

 真ん中には貴重なオアシスがあり、その周りには少しばかりの緑がある。

 リアンの街並みとは違い、そこにある建物は調律が取れていない不恰好なものであるが、人が暮らす分にはひとまず不自由しない程度のものだった。

 貧民街で出会った老人が集落に到着すると、集落の住民が駆け寄ってきた。


「バートさん!

 お帰りなさい。

 遅かったですが例のブツは買えましたか?」


「ほら、二丁だけなら何とか買えたわい。」


 レンジ達はぎょっとした。

 老人は灰色のフードの脇から、散弾銃ショットガンを取り出した。


「ちょっと、じいさん!

 そんな物騒なモンで一体何をするつもりなんだ!?」


 レンジは思わず、声を上げた。

 すると、バートと呼ばれる老人はおもむろに口を開いた。


「……謀反、じゃよ。

 ワシらはもう、カリナーンの悪政に耐えられんからの。

 それよりも、ワシの家に来てくれんか。」


 囁くように話すバートの目は、本気だった。

 レンジはその鋭い目と迫力に押され、何も言えなくなってしまった。


 ドン・チェルニの屋敷の後に来たからだろうか。

 バートの家はとても狭く感じた。


「どれ……お顔を良く見せて下され。

 本当にご立派になられて、お父上にそっくりになられて……。

 じいは……じいは、シアード坊ちゃまに会う日をどれほど待ちわびたことか。

 シアード坊ちゃまは必ず生きておられると、じいは信じておりました。」


 バートは家に入るなりシアードに近づき、そして老体を震わせ涙を流した。

 その涙は、老人の年齢と共に深く刻まれた顔の皴に吸い込まれていく。


「ねぇ、バートさん。

 あなたとシアードは、一体どういう関係なの?」


 セレスの質問に、バートは目を一瞬丸くする。

 そして、シアードとセレスの顔を何度か交互に見やった後、手入れされている髭に手をやった。


「そうか……シアード坊ちゃまは、仲間にも話していなかったのか。

 ほっほっほ、坊ちゃまらしいわい。

 シアード坊ちゃまは、ここから更に西にあるカリナーンという大国の第一王子なんじゃよ。」


 その事実に、レンジとセレスとハープの三人は言葉を失った。


 そうか、だからあの時も───。


 セレスは密かに、リューベルクの中庭での出来事を思い出していた。

 あの時、ルナ姫にいきなり誘われたにもかかわらず、シアードは優雅にワルツを踊ってみせた。

 それは彼が王族だったからなのだと、今になってやっと納得することが出来た。


「ワシは昔、城でシアード坊ちゃまのお世話をしていたんじゃよ。

 坊ちゃまは、優しくて、勇敢で、ワシの誇りじゃった。

 じゃがの、この国から坊ちゃまを逃がしたのはこのワシなんじゃ。

 お前さんたち、良かったらこの老いぼれの話に付き合ってはくれんかのう。」


 そしてバートは昔を思い返しながら、ゆっくりと語り出す───。



 今からおよそ二十年前。

 

 広い広い王室の窓から、外を眺めている美しい女性がいた。

 窓から入ってくる風が、彼女の繊細な銀色の髪をなびかせる。

 彼女の体つきは細く、生まれた時から病を患っていた。

 そして、細い体に似つかわしくなく、お腹は大きい。

 彼女は、子供を身籠っていたのだ。


「リーネ……。」


 王室に、高貴な若い男性の声が響く。

 カリナーンの王、アケル国王だ。

 ゆっくりと彼女の方に歩み寄り、小枝のような指をした手を優しく包む。


「身体は大丈夫なのか?」


 労わりつつ恐る恐る話しかける姿は、一国の王の姿とは程遠い。

 愛しい人を目の前にすると、国王でさえも、ただの一人の男と化す。

 国王の様子に、リーネは微笑んで頷く。

 ただ、彼女はアケルの手を握り返す力も残っていない。

 自分に死期が近いと悟っていた彼女は、ある一つの約束をする。


「アケル。

 どうか、私と約束してくれませんか?」


「約束……?」


「私はもう、おそらく長くはないでしょう。

 その代わりとは言いませんが、身体が弱っていても、必ずこの子を産んでみせます。

 だから、私がいなくなった時は、この子に新しい母親を───。」


「馬鹿なことを言うな!」


 アケルは思わず妻を抱きしめた。

 先程の労わるような扱いではなく、力強く抱きしめた。


「心配せずとも、無事に産まれるに決まっている!

 お前も、お腹にいる私の子も、必ず無事だ!

 だからそのような事を考えるでない、口にするでない!

 お前がいない人生など、私は真っ平御免だ!

 約束だ、必ず無事でいてくれ。

 そして、二人でわが子の顔を見よう。」


 アケルはリーネが眠りにつくまで、ずっと抱きしめていた。

 そして、彼女が眠りについた時、ひっそりと口づけをした。


 程なくしてリーネは男の子を出産した。

 疲弊しきった彼女は、隣でずっと手を握り続けていた夫に、何かを伝えようとしている。


「あ……なた。

 私達の、子ども……は……?」


「あぁ、無事に産まれた!

 元気な男の子だぞ!

 リーネ、よく頑張ったな。

 後はお前の体力が回復するのを待つだけだ。」


「よかっ……た。」


 彼女はそう呟くと、微笑みながら、静かに目を閉じた。


「リーネ?

 おい、リーネ!?

 リーネ!!」


 赤子を片手に抱くアケルの呼ぶ声に、反応が返ってくることはなかった。

 自分の手から力なく落ちていったリーネの手から、全てを悟った国王は、彼女の忘れ形見を抱きながら、声が枯れ果てるまで泣き続けた。

 その赤子の産声と共に、大人の男性の泣き声が入り混じる。

 産声のはずが、まるで母の死を悲しんでいるかのように聞こえてならない。


 こうして王妃の命と引き換えに誕生した王子は、シアードと名付けられた。


 それからアケルは、王子の初めての誕生日に一匹の馬を贈る。

 奇しくも同じ日に生まれた、とても美しい毛並みの白馬だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ