41.ドン・チェルニ再び
レンジ達一行を乗せた船は、ある街中の港に到着する。
ユニベルの南部に広がるアルメイン大陸は、別名「砂漠の灼熱大陸」と呼ばれている。
アレス島もユニベルの南部地域にあるため、ハープ以外の三人は暑さには慣れていた。
ただ、この街の熱気は凄まじい。
元々の気温の暑さもあるだろうが、それとは別に、商人達の熱気が街中に充満している。
「……暑い!」
南の島育ちのレンジでさえ、声を漏らすほどの暑さである。
「残念だが、しばらくはアルメイン行きの船は出せないよ。
あんな化け物がノイシュタットに出てくるくらいだ、海の上じゃどんな奴がいるかも分からない。
君達も、気を付けて旅を続けるんだよ。」
船長が四人にそう伝え、船乗りが積荷を下ろし終えたところで、船はノイシュタット大陸へと戻っていった。
「すげぇ~……。
うわなんだコレ!?
見たことねぇ形だな、食えるのか?」
商業の街と呼ばれるだけあって、至る所に店が立ち並ぶ。
果物を並べて売る店もあれば、オリエンタルな染め物やターバン、中には大トカゲの干物など、どれも見たことのないものばかりが並んでいて非常に目新しい。
レンジとセレスは見たことのない物に興味示し、浮かれている。
賑やかな街中の所々で商人が数名、固まって話をする姿がシアードの目に付いた。
「ハープ、どうした?」
ふと気が付き、シアードが後ろを振り向くと、一番後を歩いていたハープの足が止まる。
「ううん……何でもないよ。
だ、い……じょう……ぶ……。」
「ハープ!?」
ハープは擦れるような声で言葉を発した途端、足元から崩れ落ちた。
どうやら、この街の熱気が彼女には合わなかったらしい。
シアードの声にレンジが駆け寄り、暑さに慣れていない彼女をすぐさま背負う。
そんなハープの様子を知る由もなく、太陽は容赦なく照り続ける。
「大丈夫か!?
と、とにかく何処かに入ろう。」
そう言うものの、レンジは初めて来たごちゃついた街に、何処に何があるかが全く分からない。
ハープを背負ったまま狼狽えていると、一人の男が目の前に現れた。
彼の姿には見覚えがあった。
金色のキセルを片手に持ち、服装はトリノの宿で見た時よりも薄着だが、より一層派手なものになっていた。
「やぁやぁ、こんな所で会うなんて!
君、久しぶりだね。
ところで、そのお嬢さんは?」
ドン・チェルニはレンジとの再会を喜ぶが、彼にとって今はそれどころではなかった。
「暑さにやられちゃったんだ。
休ませたいんだけど、何処かいいとこ知らないか?」
「ふむ……。
なら、我が家に来るといい。
案内しよう。」
ドン・チェルニの屋敷は、リアンの街中にあるどの建物よりも大きかった。
砂漠とはいえ、港町なのでさほど水に不自由していないが、庭に大きなプールが見える。
まるでこの空間だけが、リアンの街中でも別次元であった。
屋敷の主である彼は、レンジ達を客室に案内した。
そこから見える位置にあるベッドに、そっとハープを下ろし横たわらせる。
「すごい汗……拭かなきゃ。
ちょっと、男はあっちに行ってて。」
時折苦しそうに魘されるハープを心配し、見守る彼らにセレスはそう命じた。
シアードは、街中で見たある疑問をドン・チェルニにぶつけてみた。
「街中で商人が怪しげな会話をしているんだが、何か知りませんか?
あの雰囲気は、只事ではないような気がしてならないのです。」
以前、リューベルクの城内で会話を交わした時から、この青年は只者ではないと、ドン・チェルニの勘が冴えていた。
彼は紅茶を一口含むと腕を組んで、シアードの問いに答える。
「今、商人達がこぞって欲しがるのは、魔法の石。」
「魔法の石?」
「あぁ、ノイシュタットでちらほら目撃されていてね。
その石が発する青白い光に魔物を追い払う力があるらしい。」
それは間違いなく、感応石のことである。
よくよく考えてみると、アカデミーという組織の人間ならば、シング以外にも使う人間がいたとしても不思議ではない。
だが、シアードはあえて何も言わず、ドン・チェルニの話に耳を傾けようとした。
「それ、感応石っていうんだよ、おっさん。」
この馬鹿はもう放っておこうと、シアードはそう思った。
「最近、魔物が人を襲うようになっただろう?
だから、それがあれば安心なワケさ。
ただ、あまり出回ってないらしく、膨大な価格で取引されている。
ここだけの話、カリナーンの王様も欲しがっているという噂さ。」
「カリナーン」という言葉に、シアードの表情は渋る。
「どうしたんだよ、シアード。
ここ最近、何だか様子が変だぞ?」
隣にいる鈍感なレンジにまで気づかれる程、表情に出ているのかと、シアードはとっさに左手で顔の下半分を覆った。
「君にどんな事情があるかは知らないが、カリナーンには近づかない方がいい。
あの国はもうお終いさ。
私達商人はごくたまに品を卸しに行くが、細心の注意を払っていても気が気じゃないよ。
……昔は、あんな風じゃなかったんだけどね。
実は、その感応石というものを仕入れるよう城から頼まれちゃってて困ってるんだよ。」
「……いけ……ない。」
ドン・チェルニの声に、ハープが反応した。




