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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 世界樹の森
39/207

39.緑の大蛇

 水の精霊から加護を授かったレンジ達一行は、報告を兼ねてラクベールに来ていた。

 ハープの瞬間移動魔法テレポートによって、世界樹の森から一瞬でラクベールに行くことが可能になったのだ。

 この場所に来た目的は二つ。

 ひとつは、世界樹の森にて無事、水の精霊から加護を授かったこと、そしてゼロが現れたことを報告するためで、もうひとつは、他の精霊に会うために次なる場所を示唆してもらうためである。


「大長老様、ただいま戻りました。

 世界樹の森で水の精霊に会うことが出来ました。

 しかし、ゼロが現れました。」


 ハープが一礼し、大長老にそう報告する。


「ゼロの目は見たのか?」


「はい。

 まだ、閉じられたままでした。」


「そうか……今は眠っておるが、奴の力が完全に蘇るまであまり時間がないということを覚えておくんじゃぞ。

 何はともあれ、ご苦労じゃった。

 セレスとやら、その癒しの力をこれからも役立ててくれ。

 ……それにしても、ロイドは相変わらずじゃのう……。」


 大長老は、ラクベールを出てすぐにロイドが離脱したのを水晶玉を通して見ていた。

 彼はラクベールの民には珍しく気が強い性分で、中には彼を異端者扱いする者もいる。

 やれやれ、という半ば呆れた表情を見せた後、大長老は水晶玉に手をかざして念じ始めた。

 四人も水晶玉を覗き込むと、徐々にある景色がぼんやり浮かんできた。


「……砂漠?」


 レンジは、自分が見えた通りを口にした。


「そうじゃ。

 砂漠が見えるということは、次に会うのはおそらく大地の精霊じゃろう。

 砂漠が広がる場所と言えば、ここよりはるか南西に広がるアルメイン大陸じゃ。」


 アルメイン大陸とは、ユニベルで最も大きな大陸である。

 その広大な大陸の真ん中には、砂漠が広がっている。

 レンジ達にとってはもちろん、そこは未知の世界……のはずだが、ただ一人、顔をしかめる者がいた。


「シアード?

 どうしたの?」


「いや……何でもない。」


 セレスの言葉をよそに、シアードは口元に手を当てて、何処か遠くを見ている。

 それは、森の中でハープと話した時と同じ表情だった。


「もうじき、トリノの港からアルメイン大陸行きの船が出るじゃろう。

 どれ、わしが下界まで送ってやろうかの。

 健闘を祈るぞ。」


「ありがとうございます。」


 ハープが再び一礼すると、四人の足元に大きな魔方陣が広がる。

 それに気づいた瞬間、四人は既にトリノに到着していた。


「はぁ~、すげぇ、ホント一瞬だな!

 それにしても、瞬間移動魔法テレポートって便利だよな。」


 人生で二度目の瞬間移動魔法テレポートに、レンジは興奮していた。

 だが、レンジの浮かれた気持ちは、街中に聞こえた悲鳴によって一瞬でかき消された。


「な、何だ!?」


 レンジ達は、悲鳴が聞こえた方角───硝子細工の店が並ぶ場所へと向かった。

 そこでは今まで見たこともない、家ほどもある緑色の大蛇「グリーンアーボ」が暴れ回っている。

 長く真っ赤な舌の動きが何とも不気味だ。

 大きな尻尾を振り下ろすと、民家や店がまるで積木が崩れるようにいとも簡単に壊されていく。

 悲鳴と共に湧き上がる砂埃、そして、職人が丹精込めて造り上げた硝子細工は、街の石畳に散らばっていた。


「許せねぇ……!」


 四人は戦闘態勢に入る。

 レンジがグリーンアーボの鼻先に、強打をお見舞いする。

 ヒギィッと声を上げて一瞬怯んだ敵は、きつく目を閉じた。 


「大人しくしてなさいよっ。」


 その隙に、セレスが敵の首元に鞭を絡ませ、動きを止める。

 今まで使用していた皮の鞭とは違い、水樹の鞭は非常に軽いにもかかわらず、いくら引っ張っても切れる気配がない。

 そして、シアードが閃光のような剣さばきを見せ、敵の尻尾を断ち切った。


「凄い……!」


 レンジ・セレス・シアードの連携攻撃に、ハープは思わず声を漏らした。

 しかし、この大きさとなるとこのまま打撃だけでは埒があかない。


「みんな、少しだけ時間を稼いで!」


 ハープは三人にそう告げると、魔法の詠唱に入る。

 すると、青い光がハープの身体から出てくるのが確認できた。

 尾を斬られた痛みでのたうち回る敵は、やがてハープの存在に気づく。

 徐々に大きな魔力が練られており、敵はその魔力に恐れを抱いた。

 いつもなら尾で叩きつけるのだが、それはもう無い。


「うわぁっ!!

 何だコイツ、いきなり!!

 ハープ、危ねぇ!!」


 グリーンアーボは、レンジを頭に乗せたまま首を大きく持ち上げ、ハープに向かって振り下ろした。

 だが、それは薄く張られた青白い光の膜によって弾かれたのだ。

 目を閉じて魔力を練り込むことに集中している彼女の目の前に、白衣を纏った男が立っていた。

 その右手には、あの感応石が握られていた。


「ふう、危ない危ない。」


 その声の主は以前、迷いの森の中で出会ったシングだった。

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