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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 世界樹の森
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38/207

38.水の精霊

 眩い光に誘われて、枯れかけていた森の木々が静かに力を取り戻す。

 そして、痛みにうなされていたエルフ達に治癒魔法が効き始める。

 先程までは、底が抜けたバケツのように治癒魔法が効かなかった。

 エルフ達の魔力が、元に戻りつつあるのだ。


「こ、これは一体……!?」


 エルフの長が、輝きを放つ世界樹に目をやる。

 確かに、世界樹は黒い炭のままの姿だ。

 だが、眩しさに目がくらむ中、よくよく目を凝らすと何者かが世界樹の傍に立っていた。

 姿かたちは人間と同じだが、それはとても神秘的で、美しい姿であった。

 レンジやハープはもちろん、目を覚まさないセレスを抱きかかえたシアードも、目の前に起こる事実に驚きを隠せないでいる。

 すると、神秘的なその者が、ゆっくりと言葉を紡ぎだす。


「セレス……。

 あなたの強さ、見させてもらいました。

 あきらめないという心の強さ。

 しっかりとこの胸に受け止めましたよ。」


 強さを語るこの者は、世界樹に宿っていた水の精霊である。


「さぁ、目覚めなさいセレス。

 あなたに加護を授けましょう───。」


 水の精霊が手を上にあげると、セレスに一粒の光が舞い降りる。


「あ、あれ?

 私……。」


 セレスは目を覚ました。

 目を開けると、シアードの顔が目の前に広がる。

 ルナ姫を羨ましく思っていたことが、今まさに起きているのだ。


「や、やだ!

 恥ずかしい……。」


 セレスは顔を赤面させながら、ぱっとシアードから飛び降りた。

 それからすぐ、水の精霊の姿に気づく。


「なんだろう……。

 すごく懐かしい。

 私、あなたのこと、知ってる気がするの。」 


「私は、世界樹に宿る水の精霊アクア。

 あなたが産まれた時も、幼い頃も、そしてそれからも、私はあなたを見守っておりました。

 エルフに与えた治癒魔法は、私の、世界樹から発する魔力が源になっています。

 この世界樹とあなたの治癒魔法もまた、繋がっているのです。」


「そうだったの……。

 だから世界樹が焼かれたとき、みんなの魔力が落ちていたのね。」


 セレスは自分の手のひらを眺めた。

 火傷を負っていたはずの手のひらは完治している。

 それどころか、身体中から魔力が湧き出てくる。


「セレス。

 私はあなたに加護を授けました。

 これからは、前よりもずっと強い治癒魔法の力が備わってることでしょう。

 そして、これをお持ちなさい。」


 セレスの目の前に、ゆっくりと何かが降りてくる。

 それは、彼女の手に非常に馴染んだ。


「それは、水樹の鞭。

 この世界樹と、私の水の力を封じ込めてあります。

 あなたならうまく使ってくれることでしょう。」


「ありがとう……アクア。」


「私は、ここから見守っています。

 あなた方がいつの日か、このユニベルに真の平和をもたらしてくれることを───。」


「真の平和って何だよ、なぁ!?」


 レンジの声は、水の精霊には届かなかった。

 水の精霊はセレスに加護と武器を与え、姿を消した。


「み、見て!」


 ハープが輝きを失った世界樹を示す。

 真っ黒い炭からは、小さな小さな世界樹の芽がひっそりと顔を覗かせる。

 その双葉は葉に水滴をのせ、それはとても神秘的で、美しかった。


「あんたら……。」


 その声に、四人は後ろに振り向いた。

 すると、そこにはエルフ達がいた。

 ただ、先程の動くことができる十数名ではなく、大怪我を負っていたはずのエルフまでもが立っていたのだ。


「みんな……治ったんだね、良かった!」


 セレスは、いつものように弾む声で笑顔を見せた。

 それにつられて、レンジ達も、エルフ達も笑う。


「おいっ。」


 レンジと取っ組み合いをしたエルフが、ぶっきらぼうに声をかけてきた。


「わ、悪かったな。

 ほら!」


 エルフはレンジの胸に手をあてがうと、治癒魔法をかけてきた。

 少年の傷はかすり傷程度であったが、彼の治癒魔法でそれは完治した。

 それだけではない、手のひらの血が滲んでいた箇所も治っていた。


「サンキューな!」


 レンジは、にっ、と笑う。

 その様子にエルフもつられて、にっ、と笑った。


「わしは千年ほど生きてきたが、精霊様の姿を見たのはこれが初めてじゃ。

 世界樹とわしらの治癒魔法は繋がっておったんじゃのう……ありがたや。

 セレス。

 お前が全魔力で守ってくれたこの世界樹、わしらが大切に育てていくからの。」


「長老様……ありがとう。」


 セレスはエルフの長に礼を言うと、その場のエルフ達の顔を見た。

 ここに来た時のような、憎しみを含んだ表情は消え去り、皆、優しい微笑みを浮かべていた。


 それは、あの回想で見た、自分が誕生したときと同じ笑顔だった。

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