28.ロイドの意地
神殿を出てラクベールの街中を歩くと、あちこちから声が聞こえる。
「ハープ様!
どうかユニベルをお守りください。」
「ハープ様万歳!」
「どうか、どうかユニベルをお救いください!」
「ハープ様、頼みましたぞ!」
ラクベールの民の期待を一身に背負ったハープは、軽く頭を下げたり、笑顔で手を振って応える。
だが、それが不自然に感じてならない。
この大人たちの声は、本当にそう思っているのだろうか。
ハープの「使命」とやらが、自分でなくて良かったと、声援がそう言っているかのように聞こえてしまうのは自分だけなのだろうか。
レンジはハープに向けられた声援を、歓迎できないでいた。
なぜなら、彼女の本当の笑顔を自分は知っているからだ。
アレス島で出会った時の彼女は、こんな笑い方はしなかった。
「さて。」
ラクベールを出てすぐロイドは足を止め、レンジを指差した。
「僕はお前なんかハープの守人だとは認めてないからな。
ハープが選んだ事だって、何かの間違いに決まってる。
大長老様はああ言ったけど、僕はお前らなんかとは一緒に行くつもりはない。
精霊も、加護を受ける人間も、僕が見つけ出してやるさ。」
そしてハープの手を引いた。
「こんな奴ら置いて、とっとと世界樹の森に向かおう。」
だが、ハープはその手を優しく解く。
「……ロイド。
私、この人達と一緒に行きたいの。
だからお願い、協力して?」
ハープは願うようにロイドに話す。
だが、もしこの願いをきいてしまうと、自分はこの気に食わない少年を守人だと認めてしまうことになる。
幼い頃から、自分はハープに想いを寄せていた。
なのに、彼女は守人には自分ではない、余所者を選んだのだ。
自分がずっとなりたかった守人に───。
ロイドの自尊心がそれを許さなかった。
「───勝手にしろ!
とにかく僕はこんな奴、守人だなんて認めないからな!」
そう怒鳴ったかと思うと、ロイドはかすかに何かを呟いた。
すると、体にオーラが見えた瞬間、彼の姿が消えた。
「な、何だあれは!?」
目の前から人の姿が消えるなど、初めての出来事だった。
これにはレンジ達も驚きを隠せない。
だがハープは至って冷静で、ロイドの行動にため息をつくばかりであった。
「瞬間移動魔法だよ。
一度行ったことのある場所なら、イメージするだけでその場所に行くことが出来るの。
私もトリノに着いてすぐ使ったの。
でも、ロイドはどうしてあんなに意地を張ってたんだろう……。」
落ち込むハープに、セレスが頭を撫でる。
「仕方ないわ、あなたが悪いんじゃないもの。
でも、ロイドの気持ちはきっと男の人にしか分からないわ。
またどこかで会えるわよ。」
「……うん。」
セレスに慰められたハープは、先程とは違う笑顔を見せた。
「やれやれ……。
あやつはハープのこととなると、相変わらずじゃのう。」
ロイドがパーティを離脱するところを、大長老は水晶を通して見ていた。
ネックレスが放つ光を無我夢中で追って来た三人は、ラクベールの外が迷いの森だということを忘れていた。
ここから世界樹の森に向かうなどということは、まるで雲をつかむような話だ。
しばらく森を歩くと、少し広めの場所に出てきた。
ここなら、魔物が襲ってきたとしてもすぐ分かる。
「今日はもう暗いから、夜が明けるまでここで休もう。」
シアードがいつものごとく、旅の頃合いを見て提案してくれる。
四人は、休息をとることにした。




