27.使命
ラクベールの都には、巨大な神殿がある。
この街の人間は、黒を基調とした衣類を身に纏っているが、神殿の色調はそれとは対照的であった。
柔らかい淡黄色の壁面に、リーフや葡萄の蔓の彫刻が細かく刻まれており、非常に手の込んだ造りだということが素人目にも分かる。
神殿の内部に一歩入るのにも勇気がいるような雰囲気だが、ラクベールの民であるハープとロイドは、お構いなしに先に進んでいく。
レンジは、せっかくハープと再会できたにも関わらず、このラクベールに来てから悔しい思いばかりを募らせている。
何とも言葉にし難い靄を胸に抱いたまま、レンジ達はとある場所に着く。
その部屋の床の中央には、何処かで見たことあるような紋章が刻まれており、一人の老人が後ろを向いて立っていた。
「……そろそろ来るころじゃろうと思ったわい。」
こちらを確認することなく、老人は口を開いた。
「ハープよ、下界の様子はどうじゃったかの。」
「はい。
今のところは何も感じられませんでした。
ただ、今年で三百年目ですよね。
そうなると復活は免れません。」
三百年という言葉に、レンジは引っかかった。
自分の大好きな物語に関係しているのか?
難しい話のようで、いささか理解できずにいたが、興味が湧いた。
「なぁじーさん。
ちょっと話が見えないんだけど、その、三百年ってゼロとか女神が出てくる物語と何か関係してんのか?」
「ちょ、ちょっと、初対面でじーさんはないでしょう!?
アンタはもうっ、黙ってなさいよ!」
ラクベールの民が敬う大長老に対して、いつもと変わらない様子で話すレンジに、セレスが焦りだす。
シアードはレンジの口を手で塞ぎ、無礼を詫びた。
レンジの様子に、ロイドは握りこぶしを作り、わなわなと震えている。
「ほっほっ。
ここの者とは違って元気があっていいのう。
まぁ、そう固くなるな。
お主たちがここに来ることは、ワシには分かっておった。」
大長老の言葉に、三人の動きは止まる。
そしてお互いの顔を見やり、不思議そうに首を傾げる。
「その琥珀に刻まれておる紋章、ほれ、ここにあるじゃろうて。
それはの、ラクベールの民のものなんじゃよ。
ハープがそれを渡したということは、お主を守人に選んだんじゃろう。
のう、ハープよ。」
そう言われてネックレスに刻まれた紋章を確認すると、床の中央にある紋章と全く同じだということに気づいた。
ハープは少し頷くと、顔を赤らめた。
「選ばれた」という言葉が、レンジの頭の中で繰り返す。
少年の気分は高揚し、先程までの悔しさなどは全て吹っ飛んでいった。
「さて、ハープよ。
お前には、印の魔法を身につけてもらうぞ。
そのためには、まず、自然界を治める火・水・風・大地の精霊からの加護を受けなければならん。
あるいは、加護を受けることのできる人間を探すのじゃ。」
「俺らじゃダメなのか?」
「精霊たちは誰にでも加護を与えるものではないんじゃよ。
精霊たちは、弱い人間を嫌っておるからのぉ。
強い心の持ち主にしか、加護は与えんじゃろうな。
レンジとやら、お主の考えているような強さではないぞ。」
「ううぅ……わかんねぇ。」
大長老の言葉に、レンジは再び頭を悩ませる。
「印の魔法を身につけ、ゼロが復活する前に封印するのじゃ。
それがハープ、お前の使命じゃ。」
「はい。大長老様。」
そう答えるハープの目には、一点の曇りもない。
少なからず、自分が知っているハープではない。
揺るぎない決意を固めた少女がそこには立っていた。
「さて、レンジとその一味よ。
精霊たちが今どこにいるのかは、正直ワシらにも分からんのじゃ。
今分かっているのは、エルフが暮らす『世界樹の森』に、水の精霊がいるということだけじゃ。
迷いの森から、世界樹の森に繋がっておる。
まずは、そこを目指すといい。」
「ということは、俺、ハープとまた旅ができるってことか?」
「何を言っておる。
ハープはお主を、守人として選んだのじゃぞ。
お主らには、ユニベルの平和がかかっておる。
それからのう、ロイド、お前も協力してやれ。」
「……はい。」
明らかに嫌そうなロイドの返事に、レンジはいい気分を阻害される。
ただ、ロイドはひたすら悔しかったのだ。
自分がハープの守人になるはずだったのに、何故彼女は出会って間もない、自分よりも頼りないこの少年を選んだのか、と疑問にも思っていた。




