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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 魔法都市ラクベール
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27/207

27.使命

 ラクベールの都には、巨大な神殿がある。

 この街の人間は、黒を基調とした衣類を身に纏っているが、神殿の色調はそれとは対照的であった。

 柔らかい淡黄色の壁面に、リーフや葡萄のつるの彫刻が細かく刻まれており、非常に手の込んだ造りだということが素人目にも分かる。

 神殿の内部に一歩入るのにも勇気がいるような雰囲気だが、ラクベールの民であるハープとロイドは、お構いなしに先に進んでいく。

 レンジは、せっかくハープと再会できたにも関わらず、このラクベールに来てから悔しい思いばかりを募らせている。

 何とも言葉にし難いもやを胸に抱いたまま、レンジ達はとある場所に着く。

 その部屋の床の中央には、何処かで見たことあるような紋章が刻まれており、一人の老人が後ろを向いて立っていた。


「……そろそろ来るころじゃろうと思ったわい。」


 こちらを確認することなく、老人は口を開いた。


「ハープよ、下界の様子はどうじゃったかの。」


「はい。

 今のところは何も感じられませんでした。

 ただ、今年で三百年目ですよね。

 そうなると復活は免れません。」


 三百年という言葉に、レンジは引っかかった。

 自分の大好きな物語に関係しているのか?

 難しい話のようで、いささか理解できずにいたが、興味が湧いた。


「なぁじーさん。

 ちょっと話が見えないんだけど、その、三百年ってゼロとか女神が出てくる物語と何か関係してんのか?」


「ちょ、ちょっと、初対面でじーさんはないでしょう!?

 アンタはもうっ、黙ってなさいよ!」


 ラクベールの民が敬う大長老に対して、いつもと変わらない様子で話すレンジに、セレスが焦りだす。

 シアードはレンジの口を手で塞ぎ、無礼を詫びた。

 レンジの様子に、ロイドは握りこぶしを作り、わなわなと震えている。


「ほっほっ。

 ここの者とは違って元気があっていいのう。

 まぁ、そう固くなるな。

 お主たちがここに来ることは、ワシには分かっておった。」


 大長老の言葉に、三人の動きは止まる。

 そしてお互いの顔を見やり、不思議そうに首を傾げる。


「その琥珀に刻まれておる紋章、ほれ、ここにあるじゃろうて。

 それはの、ラクベールの民のものなんじゃよ。

 ハープがそれを渡したということは、お主を守人に選んだんじゃろう。

 のう、ハープよ。」


 そう言われてネックレスに刻まれた紋章を確認すると、床の中央にある紋章と全く同じだということに気づいた。

 ハープは少し頷くと、顔を赤らめた。

 「選ばれた」という言葉が、レンジの頭の中で繰り返す。

 少年の気分は高揚し、先程までの悔しさなどは全て吹っ飛んでいった。


「さて、ハープよ。

 お前には、印の魔法を身につけてもらうぞ。

 そのためには、まず、自然界を治める火・水・風・大地の精霊からの加護を受けなければならん。

 あるいは、加護を受けることのできる人間を探すのじゃ。」


「俺らじゃダメなのか?」


「精霊たちは誰にでも加護を与えるものではないんじゃよ。

 精霊たちは、弱い人間を嫌っておるからのぉ。

 強い心の持ち主にしか、加護は与えんじゃろうな。

 レンジとやら、お主の考えているような強さではないぞ。」


「ううぅ……わかんねぇ。」


 大長老の言葉に、レンジは再び頭を悩ませる。


「印の魔法を身につけ、ゼロが復活する前に封印するのじゃ。

 それがハープ、お前の使命じゃ。」


「はい。大長老様。」


 そう答えるハープの目には、一点の曇りもない。

 少なからず、自分が知っているハープではない。

 揺るぎない決意を固めた少女がそこには立っていた。


「さて、レンジとその一味よ。

 精霊たちが今どこにいるのかは、正直ワシらにも分からんのじゃ。

 今分かっているのは、エルフが暮らす『世界樹の森』に、水の精霊がいるということだけじゃ。

 迷いの森から、世界樹の森に繋がっておる。

 まずは、そこを目指すといい。」


「ということは、俺、ハープとまた旅ができるってことか?」


「何を言っておる。

 ハープはお主を、守人として選んだのじゃぞ。

 お主らには、ユニベルの平和がかかっておる。

 それからのう、ロイド、お前も協力してやれ。」


「……はい。」


 明らかに嫌そうなロイドの返事に、レンジはいい気分を阻害される。

 ただ、ロイドはひたすら悔しかったのだ。

 自分がハープの守人になるはずだったのに、何故彼女は出会って間もない、自分よりも頼りないこの少年を選んだのか、と疑問にも思っていた。


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