25.魔法都市ラクベール
光に誘われて、何とか森を抜けることが出来たレンジ達は、目の前に広がる光景に言葉を失う。
とある、体格のいい男がいる。
持っている道具や格好からして、おそらく大工だろう。
見るからに魔法とは無縁そうではあるが、男はレンジ達のその既成概念を覆す。
男は地面に手をかざし、何かを呟いている。
すると、地面から岩が勢いよく飛び出してきた。
「こんなにいらねぇんだよなぁ。」
男はため息をつき、今度は岩に向かって両手をかざす。
すると、風の刃が岩を荒くそぎ落とし、男は程度の良い岩の前に座ると、ハンマーで叩き始めた。
他に辺りを見回すと、魔法で水を生み出して衣類を洗う若い女性や、火の魔法で焚火を起こして暖をとる老夫婦などが目に入る。
ここにいる皆が、魔法を日常的に使っているのだ。
ここは紛れもなく、魔法都市ラクベール。
レンジが渇望していた場所である。
「ここの人達、なんだかすごいね。
それに、街の雰囲気も今までと違う……。」
セレスは自分も魔法が使えるが、目の前に繰り広げられる魔法には、ただただ驚かされるばかりだ。
いつも冷静なシアードも、珍しく辺りを見回している。
魔法を使わんとする者を見つけては、凝視している。
「お兄ちゃんたち、どうやってここに来たの?」
一人の少年がレンジに話しかけてきた。
「これを使って来たんだ。」
レンジがネックレスを見せると、少年は指を差してレンジに驚いて見せた。
「それ、ハープ様のだよ!
何でお兄ちゃんが持ってんのー!?」
「ハープ……様?」
「とにかく、返してあげてよっ!
それ、下界とここを繋ぐ大切なものなんだ!」
少年はレンジの腕を引っ張って走り始めた。
「おいっ、どこに行くんだよ!?」
「ハープ様のところだよ!
ハープ様……やっと帰ってきたんだよ。
たった一人で、ロイドの母さんの病気を助けるために旅に出てたんだ。」
話が全く見えない。
レンジは、この少年に身を任せることにした。
身を任せていれば、自分が探すよりも早くハープに会えるからだ。
しかし、周りの人々の視線が冷たい。
あまり良く思われていないということが、鈍感なレンジにさえ分かる。
自分がいた村とは大違いだ。
この街は、とても冷たい雰囲気だった。
しばらくすると、街中よりも少し外れに建っている民家に着いた。
「ロイドの母さん、下界の人間なんだ。
だけど、声が出せないんだって。
ラクベールはふつう、下界の人間なんて住めないんだけど、あの人はどうしてかずっといるんだよね……。」
「うーん、よく分かんねぇけど、ハープはあの人の声を治す方法とか薬を探して旅に出てたんだな?」
「そうだよ。
ハープ様は優しいんだ。
僕、ハープ様が大好きなんだ。
お兄ちゃんも見てみなよ。」
少年が民家の窓を覗いて中の様子を見ている。
レンジは、このようなこそこそするような真似は好きではないが、どうも話が見えないので少年に従った。
そこには、ベッドに座る女性がいる。
その両隣に、黒髪の青年と、自分が会いたいと願い続けていた少女───ハープの姿があった。
耳を澄ますと、何やら声が聞こえる。
覗きもしてるんだ、どうせなら、と、会話を聞くことにした。
「ハープ。
お前が旅に出てから、みんな心配してたんだぞ。
何もなかったのか?」
「えっ?
別に、何もなかったよ。
それに外の世界の様子を見ることが出来てよかった。
まだ、大丈夫そうだったよ。」
「そうじゃなくて!」
黒髪の青年は、ハープの肩を掴んで声を上げた。
「お前に何かあったら、僕が嫌なんだよ!」
───この男は、ハープの何なんだ?
自分の惚れている少女が、他の男性に目の前で触られている。
その光景に、レンジは苛立ちが隠せない。
「なぁ、あいつはハープの何なんだ?」
レンジは小声で少年に聞いた。
「あぁ、ロイドはハープ様の家族みたいなモンだよ。
でも、それだけじゃなくて、ロイドはずっとハープ様の傍にいて、ハープ様が危ない目に合わないように守っているんだ。
下界の言葉では、ボディガードっていうのかな?
それを、ここでは守人っていうんだ。
ロイドはずっと、ハープ様の守人になりたがってるんだよ。」
その「守人」というのには、自分がなることは出来るのだろうか?
そう考えていると、後ろから大きな声が聞こえた。
「こらっ!
何してるの!
覗きなんてやめなさいよ!」
セレスの声に驚き、体勢を崩してしまう。
そのまま地面に倒れ込んでしまった。
「いてて……。
いきなり声かけるやつがあるかっ!」
「ご、ごめん。
でも覗きはよくないわ!」
レンジとセレスが言い合いをしていると、民家の扉が静かに開いた。




