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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 魔法都市ラクベール
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24/207

24.感応石

 男の左胸を、人食い蛾の口元が突き刺した。

 元々痩せていた男の身体がみるみるうちに(しぼ)んでいく。

 男の白い肌からは、さらに生気が失われ、しわが刻み込まれていく。

 人食い蛾は、男の体液を吸っているのだ。


「見るんじゃない!逃げろ!」


 長髪の男は、もう助けることのできない仲間の姿を目視することなく、逃げるよう皆に(うなが)した。

 人食い蛾は食事を終えたようだが、まだ足りないらしい。

 逃げる四体の食物を求めるかのように、最後の一匹が追いかけてくる。


「物は試しか……!」


 長髪の男は、白衣の右ポケットから青色の石を取り出す。

 そして、人食い蛾の口元が伸びてきた時、握っていた青色の石を上にかざした。

 石から、青白い光が漏れる。

 薄く広がったかと思うと、人食い蛾の攻撃をはじいた。

 人食い蛾は危険だと察知したのか、大きな羽を羽ばたかせながら森の奥へと逃げて行った。


「す、すげえ!

 すげぇよオッサン!」


 レンジが興奮気味に、声を上げた。


「オッサンて……それはないだろう?

 僕はまだ三九歳だ。」


「そんなことより、それは何?」


 冷静になったセレスの「そんなことより」に、長髪の男は、ガクッと肩を落とした。


「これはね、感応石といって、一時的にバリアを張ることができるんだ。

 アカデミーで作った物なんだ。

 僕達、これの実験のためにこの森に来たんだけど、彼のことはすごく残念だ……。」


 相方を失い、悲しそうにうなだれる男の背中を、セレスは何と言っていいのかが分からないまま優しくさすった。


「……ありがとう。

 そうだ、君達にも一つあげるよ。」


 長髪の男はそう言うと、青い石をもう一つ取り出した。

 男が持っているものよりは小さいが、輝きは同じく青々としている。


「これは試作品。

 おそらく一度使うと砕けてしまうがね。

 あ、僕の名前はシング。

 シングっていうんだ。

 またどこかで会えたらいいね。」


 シングは、その場を去ろうとする。


「森を抜けるまで、しばらく一緒にいかねぇか?」


 レンジが尋ねても、彼は首を横に振るだけだった。


「僕、この森に忘れものがあるんだ。

 ずっと探してるんだけど、まだ見つからなくて。

 気を使ってくれてありがとう。

 君達の無事を、願っているよ。」


 シングは感応石を片手に、その場を去って行った。


「あ!

 そういや、石といえばこれがあった!」


 何かを思い出したかと思うと、レンジは胸元からネックレスを取り出した。


「何それ?」


 セレスが、ネックレスに付いている琥珀に触れながら聞く。


「これ、ハープと別れた時にもらったんだ。

 ラクベールに入るときに必要だから持っててくれって。」


「へぇ。

 貸して貸してっ。」


「な、無くすなよ、大事に扱えよ?」


 レンジはセレスにネックレスを渡す。

 彼女はネックレスを手に取り、まじまじと見つめる。


「これ……よく見ると何かの紋章みたいなのが刻まれてるね。」


 片目を瞑りながら、琥珀の中心を覗き込む。

 すると琥珀の中に、徐々に不思議な光が集まってくる。


「きゃっ!!

 な、何っ!?」


 セレスは驚いた拍子に手を放してしまい、ネックレスは地面に落下する。


「あっ、何すんだよ!

 大事に扱えって言っただろっ。」


 レンジは少々怒りながらセレスに注意した。


「だって、光が……。」


「光?」


 レンジは、先程のセレスのように琥珀を覗き込んだ。

 すると、琥珀が何かと共鳴するかのように輝きを増した。


「うわっ!」


 一瞬、(まばゆ)い光を放つと、琥珀は一筋の光を森の奥へと示した。

 もしかして、この光は何処かににつながっているのか?

 ハープはラクベールに入るために必要だと、レンジにこのネックレスを渡してきた。


「……行ってみようぜ!」


 今度はレンジが先頭になって、光の筋を辿っていく。

 こうして導かれるようにして着いた場所は、今まで見たこともない不思議な場所であった。

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