24.感応石
男の左胸を、人食い蛾の口元が突き刺した。
元々痩せていた男の身体がみるみるうちに萎んでいく。
男の白い肌からは、さらに生気が失われ、皴が刻み込まれていく。
人食い蛾は、男の体液を吸っているのだ。
「見るんじゃない!逃げろ!」
長髪の男は、もう助けることのできない仲間の姿を目視することなく、逃げるよう皆に促した。
人食い蛾は食事を終えたようだが、まだ足りないらしい。
逃げる四体の食物を求めるかのように、最後の一匹が追いかけてくる。
「物は試しか……!」
長髪の男は、白衣の右ポケットから青色の石を取り出す。
そして、人食い蛾の口元が伸びてきた時、握っていた青色の石を上にかざした。
石から、青白い光が漏れる。
薄く広がったかと思うと、人食い蛾の攻撃をはじいた。
人食い蛾は危険だと察知したのか、大きな羽を羽ばたかせながら森の奥へと逃げて行った。
「す、すげえ!
すげぇよオッサン!」
レンジが興奮気味に、声を上げた。
「オッサンて……それはないだろう?
僕はまだ三九歳だ。」
「そんなことより、それは何?」
冷静になったセレスの「そんなことより」に、長髪の男は、ガクッと肩を落とした。
「これはね、感応石といって、一時的にバリアを張ることができるんだ。
アカデミーで作った物なんだ。
僕達、これの実験のためにこの森に来たんだけど、彼のことはすごく残念だ……。」
相方を失い、悲しそうにうなだれる男の背中を、セレスは何と言っていいのかが分からないまま優しく擦った。
「……ありがとう。
そうだ、君達にも一つあげるよ。」
長髪の男はそう言うと、青い石をもう一つ取り出した。
男が持っているものよりは小さいが、輝きは同じく青々としている。
「これは試作品。
おそらく一度使うと砕けてしまうがね。
あ、僕の名前はシング。
シングっていうんだ。
またどこかで会えたらいいね。」
シングは、その場を去ろうとする。
「森を抜けるまで、しばらく一緒にいかねぇか?」
レンジが尋ねても、彼は首を横に振るだけだった。
「僕、この森に忘れものがあるんだ。
ずっと探してるんだけど、まだ見つからなくて。
気を使ってくれてありがとう。
君達の無事を、願っているよ。」
シングは感応石を片手に、その場を去って行った。
「あ!
そういや、石といえばこれがあった!」
何かを思い出したかと思うと、レンジは胸元からネックレスを取り出した。
「何それ?」
セレスが、ネックレスに付いている琥珀に触れながら聞く。
「これ、ハープと別れた時にもらったんだ。
ラクベールに入るときに必要だから持っててくれって。」
「へぇ。
貸して貸してっ。」
「な、無くすなよ、大事に扱えよ?」
レンジはセレスにネックレスを渡す。
彼女はネックレスを手に取り、まじまじと見つめる。
「これ……よく見ると何かの紋章みたいなのが刻まれてるね。」
片目を瞑りながら、琥珀の中心を覗き込む。
すると琥珀の中に、徐々に不思議な光が集まってくる。
「きゃっ!!
な、何っ!?」
セレスは驚いた拍子に手を放してしまい、ネックレスは地面に落下する。
「あっ、何すんだよ!
大事に扱えって言っただろっ。」
レンジは少々怒りながらセレスに注意した。
「だって、光が……。」
「光?」
レンジは、先程のセレスのように琥珀を覗き込んだ。
すると、琥珀が何かと共鳴するかのように輝きを増した。
「うわっ!」
一瞬、眩い光を放つと、琥珀は一筋の光を森の奥へと示した。
もしかして、この光は何処かににつながっているのか?
ハープはラクベールに入るために必要だと、レンジにこのネックレスを渡してきた。
「……行ってみようぜ!」
今度はレンジが先頭になって、光の筋を辿っていく。
こうして導かれるようにして着いた場所は、今まで見たこともない不思議な場所であった。




