21.ルナ姫の想い
セレスの近くにいる王と王妃も、二人の踊りに感心していた。
「ほう。
あの青年は、王族にも引けをとらぬ気品があるな。
こうして踊っている姿を見ていると、王族だと言っても皆、納得するだろう。」
「……シアードは、私達とアレス島で育ってきたんです。」
王族と一緒にしないでほしい。
一緒にされてしまうと、いよいよ手が届かない存在になってしまう気がするから。
そうじゃない、と分かっていても、聞きたくなかった。
優雅なワルツは、セレスにとってはもう耳障りな音でしかなかった。
早く終わって。
セレスがそう望んだ途端、曲は終了した。
曲が終わり、シアードとセレスはご馳走を貪っているレンジを引き連れて王に一言挨拶すると、城を後にした。
「お父様、お母様。
お話があります。」
次の曲がかかるが、姫は踊ろうとしない。
王はルナ姫の踊っている姿を見ていたいのか、次の曲が流れているぞ、と間接的にけしかける。
だが、今の彼女にとって、そんなことはどうでもいいのだ。
「姫は今まで、お父様とお母様の言う通りにしてきました。
ですが……自分の夫となる人だけは、自分で決めたいのです。」
ルナ姫は、たじろぐことなく凛として父と母に告げた。
「何だと?」
「ルナ、続けなさい。」
王の言葉を、王妃が塞ぐ。
「姫のたった一つの夢なのです。
お父様とお母様のように、私も自分が愛した方と結ばれたいのです。
だからどうか、どうかお願いします。
カリナーンに輿入れすることを取り止めて下さいまし。
姫の……姫の一生に一度の我儘を、どうか許してくださいまし。」
姫の真剣な願いに、王は目をきつく閉じる。
少しの沈黙の後、一つ、条件を出した。
「……ならば、あと一年。
一年待とう。
自分が愛し、愛された者を連れてきて儂を納得させろ。
さすれば、先方との約束をなかったことにするよう、儂が取り合ってやろうではないか。」
その言葉を聞いた姫は微笑み、城下町を目指して走り出した。
「何だよっ、まだ食べたかったのに。」
「早くハープに会いたいんじゃないのか。」
自分達の旅の目的を思い出し、レンジは、はっ、と我に返る。
いつもなら、このような少年の心変わりが可笑しいのだが、今のセレスにとっては、そう思えなかった。
早くリューベルクを出たい。
そう思うばかりであった。
「シアード様!」
その可憐な声は、セレスが今一番、聞きたくないと思っていた。
声に振り返ると、そこには息を切らしたルナ姫の姿があった。
彼女の考えていることは、手に取るように分かる。
何故なら、自分も同じだから。
やめて、やめて言わないで。
私はまだ、言ってない───!
そう願うセレスの想いなど、何も知らないルナ姫には届かない。
ルナ姫は、シアードの背中に両手を添えて、顔を寄せて目を伏せる。
「シアード様……。
姫は……ルナは、シアード様をお慕いしております。
また必ずリューベルクにいらしてください。
そして、ご無事でありますよう、姫は祈り続けますわ。」
「……声が大きいですよ。」
シアードはその告白に対して、何の返事も出さなかった。
ただ一言そう言うと、ルナ姫の表情を確認することなく離れた。
「シアード様!
姫はいつまでも、シアード様をお待ちしております……。」
ルナ姫は、切なそうにシアードの背中だけを見据えていた。
それに気づいたのは、後ろを振り返ったセレスだけだった。




