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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 王都リューベルク
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20/207

20.私には踊れないワルツ

 「くっそーっ!

 なんだよあの王様はっ!!

 あんなのが親父だなんて、ルナ姫がかわいそうだ!」


「レンジ声がでかい。

 少し控えろ。」


 あれからレンジ達は城下町の宿にいた。

 関所を開けてもらうために人助けをしたのだが、先程の事もあって王に頼むのを忘れていた。

 再び城に行くことを思うと、気が重い。

 どう体裁をつくろうべきか。

 怒り狂うレンジとセレスをよそに、シアードは頭を抱えていた。

 宿泊している部屋の扉が、軽く二回叩かれる。

 もうすぐ三十歳くらいだろうか。

 扉を開けると、そこには女性が立っていた。


「あの、私はルナ姫の侍女のサラと申します。

 今日は姫様を助けてくださって本当にありがとうございました。

 姫様より、言伝を預かっておりまして、明日、庭園でパーティをするのでお越し下さいとのことです。」


「……分かりました。

 是非、とお伝え下さい。」


 これで城に行く理由が出来た。

 シアードは、ほっと胸を撫で下ろすが、長居はしたくないというのが本音だ。

 明日、王様に関所を開けてもらうよう頼んで、とっととこの国を出ることを提案すると、レンジとセレスも賛成した。


 次の日、三人はリューベルク城の庭園を訪れる。

 庭園の真ん中にある大きな噴水も、咲いている花も、彼らにとっては眩しい。

 住んでいる世界が違うのだと、改めて実感する。

 茫然と立ちつくしているところに、王と王妃がやってきた。

 昨日とは様子がうって変わって、その眼は実に穏やかだ。


「昨日はすまなかった。

 儂は王である前に一人の父親なのだと、レンジとやら、お主に気づかされた。

 礼を言うぞ。」


 身構えていたレンジは、拍子抜けしたのか、思わず上擦った変な声が漏れる。


「王妃から昨晩、話は聞いた。

 北の関所を通るために必要な手紙だ。

 これを持っていくがいい。」


 隣にいる王妃が、微笑みながら手紙を手渡してくれた。


「ただし、関所を抜けてすぐには森が広がっておる。

 そして、我が国の統治外。

 儂もどうなっておるかはよく分からぬ。

 気を付けて行かれよ。」


「あ、ありがとうございます!」


 レンジが手紙を受け取ると、そこにルナ姫が嬉しそうな表情を浮かべて来た。


「皆様、来てくださったのですね!

 ありがとうございます。」


 昨日会った時とはまるで様子が違う。

 着ているものが格段に豪華になっているからではない。

 内に秘めたる何かを感じるのは、何故だろうか。

 すると、レンジ達の疑問を和らげるかの様に、優雅なワルツが流れてきた。


「皆様、踊りましょう。」


 ワルツなど無縁に育った彼らには、無理な注文だ。

 レンジはこういうのは苦手だと断り、セレスはシアードの前で恥をかきたくないからか、


「わ、私は踊れないから……。」


 と、やんわり断る。


「それではシアード様、姫と踊りましょう。」


 ルナ姫は、微笑みながらシアードの手を半ば強引に握る。

 その行為に、セレスの胸がちくっ、と小さく痛む。

 レンジは、既にその場から姿が消えており、テーブルに並べられているご馳走を手あたり次第、うまいうまいと貪っている。


 セレスの目の前で、想い人が他の女の人と踊っている。

 身体と身体の距離が近い。

 ルナ姫のステップをよそに、シアードもワルツを踊れている。

 そのことを不思議に思うよりもずっと、二人の姿を見ているほうが辛い。

 踊っているルナ姫の顔が、かつて自分がシアードと初めて言葉を交わしたときの表情と被る。

 二人の華麗なステップに、他に踊っていた人達が足を止めて見とれている。


「まさか……まさか、ね。」


 考えたくもなかった。


 二人の姿は、誰がどう見てもお似合いだったのだから。

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