20.私には踊れないワルツ
「くっそーっ!
なんだよあの王様はっ!!
あんなのが親父だなんて、ルナ姫がかわいそうだ!」
「レンジ声がでかい。
少し控えろ。」
あれからレンジ達は城下町の宿にいた。
関所を開けてもらうために人助けをしたのだが、先程の事もあって王に頼むのを忘れていた。
再び城に行くことを思うと、気が重い。
どう体裁を繕うべきか。
怒り狂うレンジとセレスをよそに、シアードは頭を抱えていた。
宿泊している部屋の扉が、軽く二回叩かれる。
もうすぐ三十歳くらいだろうか。
扉を開けると、そこには女性が立っていた。
「あの、私はルナ姫の侍女のサラと申します。
今日は姫様を助けてくださって本当にありがとうございました。
姫様より、言伝を預かっておりまして、明日、庭園でパーティをするのでお越し下さいとのことです。」
「……分かりました。
是非、とお伝え下さい。」
これで城に行く理由が出来た。
シアードは、ほっと胸を撫で下ろすが、長居はしたくないというのが本音だ。
明日、王様に関所を開けてもらうよう頼んで、とっととこの国を出ることを提案すると、レンジとセレスも賛成した。
次の日、三人はリューベルク城の庭園を訪れる。
庭園の真ん中にある大きな噴水も、咲いている花も、彼らにとっては眩しい。
住んでいる世界が違うのだと、改めて実感する。
茫然と立ちつくしているところに、王と王妃がやってきた。
昨日とは様子がうって変わって、その眼は実に穏やかだ。
「昨日はすまなかった。
儂は王である前に一人の父親なのだと、レンジとやら、お主に気づかされた。
礼を言うぞ。」
身構えていたレンジは、拍子抜けしたのか、思わず上擦った変な声が漏れる。
「王妃から昨晩、話は聞いた。
北の関所を通るために必要な手紙だ。
これを持っていくがいい。」
隣にいる王妃が、微笑みながら手紙を手渡してくれた。
「ただし、関所を抜けてすぐには森が広がっておる。
そして、我が国の統治外。
儂もどうなっておるかはよく分からぬ。
気を付けて行かれよ。」
「あ、ありがとうございます!」
レンジが手紙を受け取ると、そこにルナ姫が嬉しそうな表情を浮かべて来た。
「皆様、来てくださったのですね!
ありがとうございます。」
昨日会った時とはまるで様子が違う。
着ているものが格段に豪華になっているからではない。
内に秘めたる何かを感じるのは、何故だろうか。
すると、レンジ達の疑問を和らげるかの様に、優雅なワルツが流れてきた。
「皆様、踊りましょう。」
ワルツなど無縁に育った彼らには、無理な注文だ。
レンジはこういうのは苦手だと断り、セレスはシアードの前で恥をかきたくないからか、
「わ、私は踊れないから……。」
と、やんわり断る。
「それではシアード様、姫と踊りましょう。」
ルナ姫は、微笑みながらシアードの手を半ば強引に握る。
その行為に、セレスの胸がちくっ、と小さく痛む。
レンジは、既にその場から姿が消えており、テーブルに並べられているご馳走を手あたり次第、うまいうまいと貪っている。
セレスの目の前で、想い人が他の女の人と踊っている。
身体と身体の距離が近い。
ルナ姫のステップをよそに、シアードもワルツを踊れている。
そのことを不思議に思うよりもずっと、二人の姿を見ているほうが辛い。
踊っているルナ姫の顔が、かつて自分がシアードと初めて言葉を交わしたときの表情と被る。
二人の華麗なステップに、他に踊っていた人達が足を止めて見とれている。
「まさか……まさか、ね。」
考えたくもなかった。
二人の姿は、誰がどう見てもお似合いだったのだから。




