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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 王都リューベルク
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19/207

19.父は一国の王

 馬車はリューベルク城に到着する。

 ルナ姫が馬車を降りると、門番や見張りの兵士達が駆け寄ってきた。

 皆が、姫様、姫様、と、ルナ姫の帰りを喜ぶ様子から、彼女がどれだけ大事にされてきたかが分かる。


「この方たちが助けて下さったの。

 お父様に報告するから、通してちょうだい。」


「はっ!」


 以前城に来た時とは、俄然がぜん対応が違う。

 あの時はドン・チェルニの協力で城内に入ることができたが、今度はそのような小細工なしに、堂々と城門をくぐることが出来る。

 ルナ姫に連れられて王の間に着くやいなや、座っていた王と王妃が立ち上がった。


「おぉ!

 ひ、姫ではないかっ!!

 無事だったのか……よかった……。」


 立ち上がったかと思うと、王は親指と人差し指で目頭を押さえていた。

 王妃は、娘であるルナ姫のところへ駆け寄ろうとした。

 しかし、彼女の表情は無に近い。

 彼女はしゃなり、と挨拶をするかのように、ドレスの両裾を軽く持ち上げ、一礼した。


「お父様、お母様。

 只今戻りました。

 危ないところを、この旅のお方が助けて下さいましたの。」


 その様子はどこかよそよそしく、異様な空気がこの空間に走る。

 だが、姫の世話を人に任せっきりでいた王はそれに気づかない。


「お前の身に何かあったら……。

 先方に、カリナーンの王に何と詫びたらよいのか……。」


 王がもらしたこの言葉に、ずっと黙っていた三人が違和感を覚える。

 王は目を見開いて立ち上がり、手を横に振りかざし、情けなさからくる怒りの矛先を、王妃に向ける。


「大体お前もお前だ!

 何故関係のない、このような旅の者を巻き込んだ!?

 儂が兵を派遣したのを、お前も見ていたであろう!?」


 三人とも、この目の前で怒鳴る男に腹が立っていた。

 娘の身よりも、カリナーンに輿入れすることばかりを心配している、醜い王様に。


「王様、それはちょっと違うんじゃねぇか?」


 最初に口を開いたのは、レンジだった。


「姫様のこと、心配じゃねぇのかよ!?

 親なら子どもの心配すんのが先だろう!?

 アンタ、それでも親かよ!?」


 王様に対しての口調ではない。

 最初に会話で使ったような、たどたどしい敬語など微塵も感じない。


「レンジ様、いいのです。

 私は……大丈夫ですから。」


 ルナ姫の儚げに話す言葉に、レンジは口を閉ざす。

 彼女の美しい瞳には光がない。

 王妃の心配も、カリナーンの王と同じものだったのか?

 あの涙は、娘のために流した涙ではなかったのか?

 とうに親などいない自分からしたら、両親がいるということは幸せなことなのだと思っていた。

 だが、その幻想は、高貴な親子によって崩れ去った。

 帰る、と、一言だけ残し、レンジは一人で王の間を出ていった。


「王様、あなたにとって、ルナ姫は王権や外交の道具でしかないかもしれない。

 でも、姫にだって、結婚相手を選ぶ権利があるはずよ!」


 セレスはきっ、と王を睨み付ける。

 その眼には、今にもこぼれ落ちそうなほどの涙がたまっていた。

 涙を見せたくなかったのか、顔を伏せて一礼し、彼女も王の間を出ていった。

 それに続いてシアードも、王族の三人に目をやり、ではまた、と告げて王の間を後にする。

 王は、今日会ったばかりの若者たちの迫力に立ちすくんでいた。

 あのように言われたのは、初めての事だった。


「姫様、まずはお召し物を仕替えましょう。」


 侍女がルナ姫に着替えるよう促す。

 ルナ姫は、ちらっ、と王と王妃の様子を見ると、自分の部屋へと戻ろうと足を運ぶ。

 若い者がいなくなった王の間で、王はゆっくりと王妃に問う。


「お前も……そうだったのか?

 想いもしない、儂のところに輿入れしたのか?」


 先程とはまるで異なる、悲しげな口調だった。

 それと相反するかのように、王妃は「いいえ。」と優しく答える。


「私は、あなたが好きで好きで、それで今、此処にいるのです。

 あなたと愛を育み、そして生まれたのがあの子です。」


 王は、王妃の言葉に不安が引いていくのを感じた。

 そして、無言で王妃の肩をそっと抱き寄せた。


 ルナ姫は一部始終を、物陰から聞いていた。

 そして、涙が頬を伝う。

 自分の弱さを払拭するかのように涙を拭い、ある決意をする。

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