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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
ノイシュタット大陸 王都リューベルク
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18/207

18.共感

 「あいたた……。

 だっ、大丈夫?」


 洞窟に来るには、あまりにも相応しくない格好をしている女性を見て、セレスはすぐにルナ姫だと分かった。

 レンジを追ってシアードと離れたが、彼女は彼女で迷い込んでしまっていた。


「あなたは?」


「私はセレス。

 ルナ姫……だよね?

 王妃様に頼まれてあなたを探しにきたの。

 さっ、早く行こう。」


 セレスは、ぶつかった衝撃で尻もちをついたルナ姫に手を差し出す。

 だが、彼女はその手を取ることを拒んだ。


「……嫌です。

 私、お城には帰りたくありませんの。」


「そうなんだ。

 でも、話は後!

 ここの魔物は凶暴だし、とりあえずここを出ましょう?」


「そうはさせねーよ。」


 女同士の会話に、男の声が入ってきた。

 声のした方角に目をやると、そこには盗賊の頭・ジルの姿があった。

 先程と同じく、目が笑ってない。

 只ならぬ雰囲気を感じたセレスは、ルナ姫をさっと自分の後ろに追いやり、鞭を構える。

 しかし、盗賊の動きは素早い。

 鞭は空を切り、両方の手首を掴まれ、押し倒されてしまう。

 セレスは、ひどく後悔した。

 彼らの傍を離れるんじゃなかったと。

 レンジの気持ちも分かるけど、やはりシアードの判断は正しかった。

 セレスは、鼻と鼻が当たるほどの距離にある盗賊の顔に唾を吐く。


「この野郎!!」


 左頬に衝撃が走り、口の中で血の味が広がった。

 きっ、と睨み付けることだけが、自分に残された最後の抵抗だった。


「オレはお前みてーな気の強ぇ女が好きなんだよ。

 そういうヤツこそ、めちゃくちゃに壊したくてたまらないんだ!」


 盗賊の両手が自分の首を包んだかと思うと、


「───俺は、お前みたいな下衆が大嫌いだけどな。」


 先程まで自分の上に乗っかっていた盗賊の姿が吹っ飛んだ。

 シアードの蹴りが、盗賊の脇腹に入れられた。


「大丈夫か!?」


 セレスのところに、遅れてきたレンジが駆け寄る。


「わ、私は大丈夫。

 それより、ルナ姫を!」


 セレスが見ているほうに目をやると、怯えているのか、肩を抱いて震えるルナ姫の姿があった。

 ドン・チェルニに聞いた通り、風が吹き抜けるような美人だった。

 レンジと同じ金髪であるが、まるで艶が違う。

 髪色と対照的な、透き通るような青い瞳がとても印象的であった。


「ルナ姫。

 この人たち、私の仲間なの。

 だからもう大丈夫だよ。」


 セレスの言葉に安心したのか、ルナ姫の大きな瞳から涙がこぼれ落ちた。

 裸足で駆けた彼女の足に、セレスは治癒魔法をかける。

 そして、シアードはルナ姫に一言失礼を詫び、抱き上げた。


「裸足で歩かせるわけにはいかないから。

 嫌なら言ってくれ。

 下ろすから。」


 ルナ姫の顔が、熟れた林檎のように真っ赤になる。

 そして首を横に振り、シアードにしがみ付く。


 幸い、ゴブリンが襲ってくることはなかった。

 盗賊は気が付けば姿を消していたが、追ってくることもなかった。

 自分と同い年のセレスに、少しばかり心を開いたルナ姫は、深々と頭を下げた。


「ごめんなさい。

 実は、私が盗賊に自分を誘拐させたの。」


 ルナ姫は、自分が城内に盗賊を招き入れたことを正直に話した。

 そして、周囲や見ず知らずの旅人に迷惑をかけたことを詫びた。


「けど、何でそんなことしちゃったんだよ。

 みんなすげぇ心配してたんだぜ?」


 レンジがお構いなしに問う。


「私は生まれてこの方、お城からほとんど出たことがありませんの。

 お城の中での生活は、生きながらに死んだようなものでしたわ……。」


 四人は、鉱山の外で待っていた馬車に乗り込む。

 大切なお姫様がいるからだろう。

 鉱山に向かうほどのスピードは出ていなかった。


「私には、夢があります。

 すべてをお父様やお母様に決められてきたけど、夫になる方だけは、自分自身で決めたいのです。

 私が本当に愛した方と結婚したいというささやかな、たったひとつの夢ですわ。

 けれど、それはもう……叶わないのです……。」


 そう話すルナ姫の表情は切ない。

 水の栓を抜いたかのように、姫はレンジ達に語る。


「私には、婚約を交わした方がいました。

 大国の、カリナーンの第一王子です。

 お会いしたことはありませんでしたが、とても勇敢で、お優しい方だと聞いておりました。

 しかし、王子は十年以上も前に行方不明になり、その約束は、第二王子へと引き継がれました。

 先代の王が亡くなられてから第二王子が王様になったと聞きましたが、それから良い話など聞いたこともありません。

 そのような国になど、行きたくありません!」


 セレスはルナ姫がいなくなった理由を予想していたが、まさかこうも当たるとは思わなかった。

 届きそうで届かない距離に想い人がいるセレスには、立場は違えど共感しか生まれない。


 好きな人と結ばれたい。


 女として生まれたなら、必ず一度は思うであろう当たり前のことが、王族に生まれるとこうも縛られるのか。

 大人なシアードならともかく、何事にも縛られることなく生きてきた自分やレンジには、きっと耐えられないだろう。

 あの憧れたお城での生活は、なんと複雑なのだろう。


 ルナ姫は無事見つけ出すことが出来たが、彼女の気持ちを考えると、セレスの胸中は穏やかではなかった。

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