206.自由
「ヤグティン……。」
セレスは立てないままでいるヤグティンに治癒魔法をかけようとした。
ヤグティンは、それを拒んだ。
「ちっとばかし、遅かったかな……。」
彼はゼロから受けた傷と凍傷により、右足を失った。
レンジ達は、ハープの瞬間移動魔法でヴィッツジェラルドの集落を目指した。
ヤグティンはシアードの肩を借りて、父や皆が待つ宿屋へと戻った。
「ヤグティン……お前……!」
変わり果てた息子の姿に、ロマノフは言葉が出てこない。
だが、当の本人は普段と変わらない様子だった。
むしろ、いつもより清々しい。
「足の一本くらい何ともねぇ。
ゼロを倒したんだからな!
……親父。
た、ただいま……。」
ヤグティンのらしからぬ言葉に、ロマノフの目からは涙が滝のように溢れ出る。
そして、誇り高き自分の息子を抱きしめた。
ヤグティンや集落の人々に見送られる中、レンジ達は次の場所に向かった。
そこは、ハープとロイドが過ごした閉ざされた故郷・魔法都市ラクベールだ。
「あれ……?」
ラクベールの都には、誰一人としていなかった。
ただでさえ静かな街並みが、恐ろしく静かなことに、ハープは心細くなった。
「そうだ、大長老様なら……!」
ハープは、大神殿を目指して駆け出した。
大神殿の奥に行くと、そこには大長老とエレナの姿があった。
エレナはハープの表情からロイドの事を悟ったようで、ハープの手を優しく握った。
(自分を責めないで。)
エレナはハープを見つめて、そう口を動かした。
その言葉に、ハープは泣きたくなるのだが、ロイドの表情を思い出すことでぐっ、と堪えることが出来た。
彼の最期を知っているからだ。
彼は最後まで、変わらない微笑みを向けてくれた。
そして三百年前の自分と手を取り合い、共に召されていった。
「エレナお……母さん。
ロイドは……最後まで笑ってたよ。」
ハープの言葉に、エレナはただただ頷いた。
「なぁじーさん。
何で誰もいねぇんだよ。」
「ほっほっ。」
大長老は長い髭を撫でている。
「皆、下界で新しい暮らしをするんじゃと。
これからラクベールの民は、自らの意思を持った人間として生きていく事にしたんじゃ。
そう……お前や、ロイドの様にな。」
「大長老様……!」
ハープは自分の口元を両手で覆った。
その下には、喜びに満ちた笑顔があった。
「さて、エレナ。
ワシらも行こうかの。」
「行くって……何処に行くんだ?」
レンジの質問に、エレナと大長老は顔を見合わせて笑った。
「ベガスじゃよ。
実はワシも、カジノとやらをしてみたくてのぉ。」
心なしか、あの厳格な大長老がウキウキしている。
シアードはその様子を見て、ふっ、と笑った。
「それじゃあの。
またいずれ、何処かで会えるじゃろう。
ハープ、お前もこれからは自分の意思で生きていけ。
幸せになるんじゃよ。」
「……はい!!」
大長老はにっこりと微笑むと、瞬間移動魔法を唱えた。
エレナの記憶を辿り、ベガスを目指す。
こうして、魔法都市ラクベールには誰もいなくなった。
皆、何物にも縛られることのない、自由を手に入れようとしている。
次は何処に向かおうか。
そう考えていた時、シアードが希望を伝えた。
そして、レンジ達は彼の希望通り、ブックガーデンへと向かう。




