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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
決戦 ゼロ
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207/207

そして物語は、語り継がれていく

 レンジ達一行は、歴史と考古学の街ブックガーデンに到着する。


「行きたいところがあるんだ。」


 到着するとすぐに、シアードを先頭にレンジ達はブックガーデンを北上し、グリーン・ヴァレの最果てへと向かう。

 そこには芝生の大地以外に何も無く、ただ広大な海が広がっているだけだった。


「こんなところに何の用があるんだ?」


 シアードは土を集めると、小さな丸い山の形を二つ作った。

 そして、その山の上に一本ずつ花を供えた。

 彼は、オリバとロイドの墓を作ったのだ。


「ずっと決めていたんだ。

 この地に、オリバおばさんの墓を作ろう、とな。

 ロイドの墓も俺が見る。

 俺はブックガーデンに残るつもりだ。」


 レンジとハープは驚きを隠せない中で、一番驚くであろうセレスは平然としていた。

 彼が学者になりたがっている事を知っているのは、セレスただ一人だ。


「カリナーンには戻らねぇのか?

 皆、シアードの帰りを待ってるだろうに……。」


 レンジの言葉に、シアードは静かに首を横に振った。


「あの国はもう大丈夫だ。

 それに……俺には城の暮らしは合わない。

 俺はここで、学者になりたい。

 ユニベルの事をもっと知りたいんだ。」


「……そっか!」


 レンジは一瞬だけ寂しそうな表情を見せたが、それはすぐさま笑顔に変わった。


「シアードなら、きっとスゲー学者になれるさ!」


 これから自分達は、離れ離れになっていく。

 だが、不思議と不安はなかった。

 何物にも代えられない、かけがえのない日々は自分達の胸に深く刻まれている。

 セレスは言わずもかな、おそらくシアードと共にブックガーデンに残るのだろう。

 そんな分かり切った事、今更聞く必要もなかった。


「……何よ。」


 レンジは、セレスの顔を眺めていた。


「何でもねぇよ。

 セレス、今まで世話になったな。」


「アンタのお守りなんて、もうこりごりよ。

 けど……たまには顔、見せに来なさいよね。

 心配だから。」


「分かってるよ。

 セレスも上手くやれよ!」


 レンジは歯を見せて、少し悪戯めいた笑みを見せた。


「ハープ、ちょっと。」


 セレスは、ハープの耳元で誰にも聞こえないような声で囁いた。


「レンジをよろしくね。

 あんなのでも……可愛いんだ。」


「セレス……。」


 そこには少しだけ、旅を通して大人になったセレスの照れ笑いがあった。

 そして、レンジとハープはその場を後にした。

 セレスとシアードは、二人の姿が見えなくなるまで見守った。

 懐かしい気持ちだった。

 アレス島を旅立つ、船での出来事を思い出していた。

 少年はあの時、船の上で一人、サンドイッチを噛みしめながら涙を流していた。

 だが、今は違う。

 レンジの背中は、たくましい一人の男となった。

 ハープという、守るべき存在がいるからだろう。


 セレスはふと、隣で考え事をしているシアードを見た。

 彼は、二人の姿が見えなくなると、すぐさまオリバとロイドの墓の前に立った。


「どうするかな……形見のひとつもないし、墓標も……。」


 シアードは、何かを思いついたようにはっ、とした。

 すると、聖剣グラディウスを抜くと、地面に深く突き刺した。


「オリバおばさん、ロイド。

 これで勘弁してくれないか。」


 二人の姿を思い浮かべたシアードは、墓標と化した自分の剣の前で合掌した。

 彼の真摯な姿に、セレスも隣で手を合わせた。


 彼らの魂が、安らかに大地へ還っていくように。

 そして、レンジとハープが、無事に旅が続けられるように。


 己の運命に打ち勝った少女と、大切な弟分の幸せを、心の底から祈った。


 その後、シアードは瞬く間にブックガーデンを代表する学者となった。

 彼の傍には、いつもセレスがいた。

 実のところ、セレスは未だに想いを伝えられないでいる。


 自分だけが想うのではなく、相手にも想われたい。


 セレスは、シアードが自分から振り向いてくれる事を、彼の傍で待つことにしたのだ。


 やがて図書館の本棚には、シアードの記した歴史書が並ぶようになった。

 セレスはそれを絵本にすることで、子供達にも親しみやすいものにした。

 そして、彼女の作ったある一冊の絵本は、後世にまで語り継がれていく事になる。


 風が吹き上げるグリーン・ヴァレの大地で、レンジとハープは海を眺めていた。


「ハープ、行こうぜ!

 まだ行ってねぇ場所がたくさんあるんだからさ!!」


 少し背が伸びたレンジは、にっ、と笑った。

 ハープは、隣を歩く爽やかな青年の姿を頼もしく、愛おしくも思った。


 ずっと一緒にいたい。

 これからも、ずっと───。


「ねぇ、レンジ。」


「ん?」


「私、レンジの事を好きになって良かった!」


 ハープは弾ける様な笑顔で、レンジに心の内を伝えた。


「あぁ~……。」


 いきなりの想い人の告白に、彼はへなへなと崩れ落ち、そして俯いた。


「ど、どうしたの?」


 ハープもしゃがみ込んで顔を覗き込むと、


「……今のは反則だろ。」


 そこには顔を真っ赤に染めた、レンジの表情があった。


「ほら、行こうぜ。」


 レンジは立ち上がると、ハープの手を引いて体を起こした。

 そのまま二人は手を繋いだまま、グリーン・ヴァレの大地を歩んでいく。

 彼の手を握りながら、ハープは願った。


 この幸せが いつまでも続きますように、と。












『勇者と女神』



 ゼロは 再びこのユニベルに 蘇りました。

 お空へ帰って行った女神もまた この地に舞い降りました。

 そして女神は 一人の勇者と仲間達に出会ったのです。


 女神は仲間達と共に ゼロと戦いました。


 あきらめない心 国と民を愛する心 種族を超えて相手を思いやる心

 勇者の 女神を守りたいという心。


 仲間達と力を合わせた女神は 今度こそゼロをやっつけることができたのです。

 そして ユニベルに真の平和が訪れました。


 勇者は女神を愛し 女神もまた 勇者を愛しました。

 やがて二人は結ばれて たくさんの子ども達に恵まれ ずうっと幸せに暮らしましたとさ。





 物語はこの先ずっと、ユニベルに語り継がれていく───。

最後まで読んで下さってありがとうございました。

十年以上あっためていたものをこうして無事書き終えることが出来て、スッキリしました。

最後まで書くことが出来たのも、読者の皆さんのおかげです。

本当にありがとうございました。

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