205.レンジ
レンジはハープの体を抱き寄せたまま、彼女の顔を見つめていた。
その姿に、セレスとシアード、ヤグティンはいたたまれない気持ちになった。
セレスは少年に声をかけようと、近づこうとした。
しかし、シアードに腕を掴まれることで阻止される。
「でも……っ。」
セレスの今にも泣き出しそうな表情に、シアードも眉をひそめて首を横に振った。
「こんなのってないよ……。
悲しすぎるよ……!」
セレスは、両手を覆ってただただ泣くばかりだった。
「ハープ……ごめんな。
俺……結局、印の魔法を使わせちまった……。
お前を守り切る事が出来なかった……。」
どれだけ話しかけても反応は返ってこない。
少年の呟くような切ない声だけが、虚しく響き渡る。
「なぁ……起きてくれよ。
俺、まだ言ってねぇだろ……?
お前が好きだって、伝えてねぇだろッ!?」
レンジの叫びもハープにはもう届かない。
生き残った三人とも、そう感じていた。
しかし───。
「……泣かないで。」
ハープのかすかな声が聞こえる。
きつく目を閉じて、彼女を抱きしめていたレンジは、ばっ、と彼女の顔を見た。
目は開かれており、優しく微笑む彼女の表情があった。
「ハ、ハープ……!」
「ゼロはもう大丈夫。
三百年前の私とロイドが、私を助けてくれたの……。」
レンジは乱暴に涙を拭うと、ハープの手を握り、固唾を飲んだ。
「ハープ……。
俺はずっと、ハープの事が───。」
続きは言わせてもらえなかった。
レンジの唇に、柔らかい感触が走る。
彼の唇は、ハープの唇によって塞がれた。
唇を離した彼女は、頬を赤らめながらもレンジの目をじっと見つめていた。
「私、あなたの事が好き、大好き……。
初めて出会った、あの日からずっと……。」
夢かと思ったレンジは、自分の頬を強く抓った。
痛い。
これが夢ではない、紛れもない真実だと認識すると、レンジはハープを強く抱きしめた。
「さ……先に言うなよな……。
俺だってずっと言いたかったのに……。」
ハープは、ぶっきらぼうな口調のレンジが愛おしくてたまらなかった。
強く抱きしめてくれる愛する人に、ハープも自ら背中に腕を回した。
ばくばくと、強く脈打つ彼の鼓動が心地よかった。
それに伴い、自分の鼓動も激しく高鳴っていく。
ハープは、生きている事を実感した。
「あ……。」
ヤグティンは、柔らかい光を放つ箱舟に目をやった。
誰も乗っていない箱舟が、ひとりでに宙に浮き始めた。
役目を終えた箱舟は、天高く昇っていく。
まるでゼロと三百年前のハープ、そしてロイドの魂を天へ運ぶかのように───。




