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ユニベルの右手 -忌まわしき女神の使命-  作者: 蓮見ななこ
決戦 ゼロ
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204/207

204.ハープ

 冷たい 暗い……。


 ここはどこ?


 そっか……。

 私は 印の魔法を使っちゃったんだ……。


 ハープの精神は、右も左も、前も後ろも分からない常闇の異空間に飛ばされた。

 まるで底なし沼の様に、自分の体が沈んでいく。

 ハープは何も分からない状況の中、それだけを感じ取っていた。

 

 一体、何処まで堕ちていくのだろう。


 不思議と恐怖は生まれなかった。

 それ故、彼女はせめて最後に仲間の事を思い浮かべながら、と考えていた。

 自分と旅をしてきた美しい心を持った仲間に、思いのままを念じた。


 ロイド、いつも傍に居てくれてありがとう。

 私なんかに優しくしてくれて……好きでいてくれて、本当にありがとう。

 それと……私のせいでごめんね。

 本当に、ごめんね───。

 

 セレス、私は何も知らなかった。

 あなたから、沢山の事を教えてもらったわ。

 いっぱい話を聞いてくれて、とっても嬉しかった。

 私の大切な、初めての友達……。


 シアード……。

 強くて、勇敢で、私はあなたの様に強くなりたかった。

 最初はちょっとだけ、怖かったの。

 けれど、あなたは誰よりも優しくて、熱い心を持っている、素敵な人……。


 そして、ハープは彼の事を思い出していた。


 ……レンジ。


 私は、あなたと出会えて本当に良かった。

 あなたに出会えたから、私は変わることが出来たの。

 あなたに出会えたから、いろんな感情を知ったの。

 声も、笑顔も、私を抱きしめてくれる優しい腕も、全てが愛おしいと思うのは、レンジだからだよ。

 レンジ、あなたがいたから……私は……。


 ハープは、はっ、と我に返る。


「そうだ、私……まだ、伝えてない。

 レンジに、好きって伝えてない!」


 ハープは手を伸ばし、対象もないのに必死によじ登ろうとする。

 だが、彼女があがこうとしたその瞬間、真下から触手の様なものが伸びてきた。

 無数に伸びてきた湿っぽくて生ぬるい触手は、ハープの体に絡まり徐々に精神を蝕んでいく。


「嫌……こんなところに居たくない……!

 嫌だ……嫌だよぉ……!!」


 ここで精神を呑まれたからと言って、死ねるわけではない。

 自分はまだ、寿命が続く限りたった一人でゼロと戦っていかなければならない。

 仲間も、愛しいレンジもいないこの常闇の異空間で、ただ一人戦い続けなければならない。

 ハープは常闇の異空間に飛ばされて、初めて恐怖を感じた。

 だが、彼女が恐怖を感じれば感じるほど、抵抗すればするほど、触手は彼女の身体を離すまいと執拗に絡まる。

 ゼロを見つけ出すことなく、意識が朦朧としてきた。

 戦わずして命が尽きるとなると、ゼロは再び復活してしまうだろう。

 彼女の身体は、触手によって覆い尽くされた。

 残されたのは、彼女の右手のみとなる。


「みんな……レンジ……。

 会いたい……!」


 そう強く願った時、自分の右手が強く握られた。


「暖かい……。」


 右手が何者かによって、思いっきり上に引っ張り上げられた。

 触手の群れから抜け出した時、ハープは自分の目を疑った。


「……私……?」


 右手の主は、今にも消えてしまいそうな柔らかくも弱い光を発している。

 そこには自分と瓜二つの、三百年前のハープの姿があった。


「あなたは、私の代わりなんかじゃない。

 使命も運命も、もうあなたを縛るものは何もないわ。

 これからは自分のために……あなたの幸せのために生きるの。」


 何が起こったか分からないままでいるハープの元に、もう一人、見覚えのある者が現れる。


「ロイド……!」


 だが、彼は何も言わなかった。

 黙ったまま、優しい眼差しをこちらに向けてくれていた。

 まるで、ハープの幸せを願う様に。

 死してなお、自分の幸せを願ってくれている彼の想いに、ハープは涙を流した。


「さぁ、戻りなさい。

 愛しい彼の元へ───。」


 三百年前のハープの言葉が聞こえた瞬間、自分の目に強烈な光が差し込んだ。

 ハープは目の前に広がる光に手を伸ばすと、あの底なし沼に沈んでいくような感覚が消えた。


 ハープの精神は常闇の異空間を脱出し、レンジの元へと無事に戻っていった。


「ロイド……私と一緒に来てくれる?」


「あぁ、もちろんだ。

 僕は、ハープと一緒なら何処へでも行くよ。」


「ありがとう……。」


 三百年前のハープとロイドは互いに手を取り合うと、ゼロの精神を目指した。

 自分達がどの方向に進んでいるのかは分からないが、三百年間、ゼロを封印するべくして戦い続けた彼女には、ゼロの精神が何処にいるのかが分かる。

 暗闇の中、か細くて弱々しい声が聞こえてきた。


「うう……嫌だ……怖いぃぃ……。」


 うずくまっているゼロに、三百年前のハープは優しく触れる。


「大丈夫。

 あなたは一人じゃない。

 私達も一緒にいくわ───。」


 三百年前のハープは、ロイドと共にゼロの精神───魂を光の粒へと変えた。

 それに伴い、自分達の魂も手放した。

 彼らは皆、無数の光の粒となり、天に昇っていく。

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